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まずは両の耳を斬り飛ばし、母がその痛みに両の手で傷口を押さえると、今度はその懐のミネの頭の横をスルリと抜けて、刀は喉笛を斬り裂いたのです。
母も、父と同じく言葉を成そうと口を動かすも、血泡がゴボゴボと唸るのみ。ミネを抱きかかえたまま、その場の血だまりに顔から落ちて行ったのです。
ミネは顔にかかる母の血の「温さ」から、死と言う概念をその身で学習していました。
立ち上がり、男に掴みかかろうとすると、いつの間にか背後に廻っていた黒装束に羽交い絞めにされ身動きが取れず、四肢の自由のみが奪われる形になっていたのです。
男は、事切れたとはいえ、まだ血の流れが止まらない母の骸を蹴りあげ、ミネを掴みだしたのでした。
「オ、オニーチャン……?
なんで?
なんで、オトーサンとオカーサンを……」
ニンマリと、まるで三日月のように口角をつり上げ、男は笑います。
「そりゃあ、邪魔だったからさ。この刀を手に入れるのにな。
この艶、刃紋、全てが美しい。
さすがは神になろうって御神刀だァ」
ジブンは絞り出すように、男の言葉に問いかけました。
「最初から、御神刀が狙いだったのか――」
「あぁ、そうさ。その為にこいつらを使って、自分を半殺しの目にあわせて、家族ごっこをして……
そうまでして欲しかったのよ」
ミネは目にたっぷりと涙を浮かべ、ジブンはギシリギシリと歯を軋ませるのみ。
男は笑い続けました。
「ったく、あのオヤジは勘がよかったから、骨が折れたさ。
半年かけて信頼と言う名の仮面を勝ち取ったのさ。
そして、こいつらを手配して――
やっとだ。やっとこの時が来たのさ。
さぁ、刀も手に入ったし、あとは……だ……」
ここで、左手につかんだミネを見る男の目に赤い稲妻が走り、怪しく光りました。
布を裂く音。妹は着物を切り裂かれ、地に投げつけられました。
――ッカハ!
呼吸もままならぬ幼い体に男は刃を這わせます。
左の太ももの内側から、ゆっくりゆっくり、そのやわ肌を刀で薄皮を切り裂き、傷跡をつけて行くのでした。
太もも、股、腹部、胸。
その赤い筋がどんどんと上昇していくにつれ、男の表情が目に見えて歪んできたのです。
ミネは羞恥と、痛みと、恐怖に涙を枯らすことなく、失禁までしてしまっていました。
しかし、男はそんなことをかまわずに、ことを済ませようとしています。
「ヤメテクレッ!
ミネはまだほんの子供なんだぞ!」
そんな悲痛な訴えを耳に入れる必要もなしと、男はミネに御神刀を突き込みました。
「~~~~~~~~ッッッッ!!!!!」
ジブンの口から漏れたのが、声だったのかなんなのか。
ミネの体は大きく跳ね上がり、その惨状を見ることしかできないジブンの無力さに涙は止まらず、噛んでいた唇からは血が滴り落ちます。
「――――――フゥフ、クフフ、クワァ~ッハッハッハ……」
オニーチャンと慕った男の声と、赤く染まった半身を最後にジブンの意識は途切れました。
男は、その目に、口に、鼻に、耳に、狂気を充ち溢れさせ、笑っていたのでしょう。
そして、次にきがついたときにあったのは、三つの骸と炎に包まれた家。
軒先にはミネがえさを集め、ジブンが巣を作り、オニーチャンがやさしく教えて世話をした、幼い燕が一度も飛び立つことなく、無惨にも丁寧にも翼と胴とを切り分けられた姿で打ち捨てられていました。
まるで引き裂かれたジブンの家族をそのまま映し出したかのように。
そして、サヤ、あなたが立っていたのですよ。
母も、父と同じく言葉を成そうと口を動かすも、血泡がゴボゴボと唸るのみ。ミネを抱きかかえたまま、その場の血だまりに顔から落ちて行ったのです。
ミネは顔にかかる母の血の「温さ」から、死と言う概念をその身で学習していました。
立ち上がり、男に掴みかかろうとすると、いつの間にか背後に廻っていた黒装束に羽交い絞めにされ身動きが取れず、四肢の自由のみが奪われる形になっていたのです。
男は、事切れたとはいえ、まだ血の流れが止まらない母の骸を蹴りあげ、ミネを掴みだしたのでした。
「オ、オニーチャン……?
なんで?
なんで、オトーサンとオカーサンを……」
ニンマリと、まるで三日月のように口角をつり上げ、男は笑います。
「そりゃあ、邪魔だったからさ。この刀を手に入れるのにな。
この艶、刃紋、全てが美しい。
さすがは神になろうって御神刀だァ」
ジブンは絞り出すように、男の言葉に問いかけました。
「最初から、御神刀が狙いだったのか――」
「あぁ、そうさ。その為にこいつらを使って、自分を半殺しの目にあわせて、家族ごっこをして……
そうまでして欲しかったのよ」
ミネは目にたっぷりと涙を浮かべ、ジブンはギシリギシリと歯を軋ませるのみ。
男は笑い続けました。
「ったく、あのオヤジは勘がよかったから、骨が折れたさ。
半年かけて信頼と言う名の仮面を勝ち取ったのさ。
そして、こいつらを手配して――
やっとだ。やっとこの時が来たのさ。
さぁ、刀も手に入ったし、あとは……だ……」
ここで、左手につかんだミネを見る男の目に赤い稲妻が走り、怪しく光りました。
布を裂く音。妹は着物を切り裂かれ、地に投げつけられました。
――ッカハ!
呼吸もままならぬ幼い体に男は刃を這わせます。
左の太ももの内側から、ゆっくりゆっくり、そのやわ肌を刀で薄皮を切り裂き、傷跡をつけて行くのでした。
太もも、股、腹部、胸。
その赤い筋がどんどんと上昇していくにつれ、男の表情が目に見えて歪んできたのです。
ミネは羞恥と、痛みと、恐怖に涙を枯らすことなく、失禁までしてしまっていました。
しかし、男はそんなことをかまわずに、ことを済ませようとしています。
「ヤメテクレッ!
ミネはまだほんの子供なんだぞ!」
そんな悲痛な訴えを耳に入れる必要もなしと、男はミネに御神刀を突き込みました。
「~~~~~~~~ッッッッ!!!!!」
ジブンの口から漏れたのが、声だったのかなんなのか。
ミネの体は大きく跳ね上がり、その惨状を見ることしかできないジブンの無力さに涙は止まらず、噛んでいた唇からは血が滴り落ちます。
「――――――フゥフ、クフフ、クワァ~ッハッハッハ……」
オニーチャンと慕った男の声と、赤く染まった半身を最後にジブンの意識は途切れました。
男は、その目に、口に、鼻に、耳に、狂気を充ち溢れさせ、笑っていたのでしょう。
そして、次にきがついたときにあったのは、三つの骸と炎に包まれた家。
軒先にはミネがえさを集め、ジブンが巣を作り、オニーチャンがやさしく教えて世話をした、幼い燕が一度も飛び立つことなく、無惨にも丁寧にも翼と胴とを切り分けられた姿で打ち捨てられていました。
まるで引き裂かれたジブンの家族をそのまま映し出したかのように。
そして、サヤ、あなたが立っていたのですよ。
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