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第2話

108. ポップコーンの準備はいい?25

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「あれ?」

 それどころか、石の巨人はその場に崩れた。
 さいの目のようなブロック状の小山になってしまったのだ。

「え? え?」
「ララが天井から降りてくるときに、槍で石像を攻撃してたのよ」
「ハク!」
「だから、無理に動いた石像はその場で崩れたって訳よ。
 いい仕事するわね」

 ハクが片膝をつきながら前を見ていた。
 意識はあったらしい。

「ハク。
 もう終わらせようか。
 いい加減、あの魔女にも嫌気がしてきた」
「ちゃっちゃとやって頂戴。
 任せたわ」
「ダメです」

 ララもハクも深手を負っていながらも、軽口のやり取りをしている。
 きっといつもこんな感じなのだろう。
 妙な安心感を覚えた。

「みんなでやろうよ」

 みん……な……?

 目の前の巨人のがれき、埃の立つその中に、影が五つあった。
 見覚えのある、仲間たちが声を上げた。
 
「みんなぁ!!」

 ララベスのおかげで拘束が解けた仲間たちも、負傷していた。
 それでも、生きていた。
 全員が立っていた。

「あぁ、もう!
 痛いったらありゃしなかった!」
「マグもー。
 もう、怒ったんだからねー」

 拘束されていた箇所、イバラのとげの刺さっていた手首をさすりながら、ジャコとマグがプリプリとしていた。
 見た目がかわいい系なだけで、その感情は大きいようだった。

「ホントです。
 それに、ハクさんやラギさん、イツキさんたちまでこんなに傷つけて……
 アタシもちょっと、メってしちゃいますっ」

 ラギがそういって、大きく太い腕をブンブンと振りまわす。
 あの剛腕から繰り出される怪力で、メッっていうのは……
 想像したくないな。

「あぁ、もうめんどくせぇ。
 全部ぶった切っちまおうぜ。
 借りもまとめて返してやる」

 不穏極まりない物言いだが、そのフゥの表情は個人的な借りや恨みの話ではないといった顔だった。
 以前にもあった、「仲間を傷つけられること」への正当な怒りが彼の目に燃えているのが分かった。

「アニー……」

 ボクのそばに歩み寄った仲間たち。
 その中の太陽のような彼女の顔が曇っていた。

「イツキも、よく無事だったのだ。
 きっと怖かったのだ……
 でも、もう大丈夫なのだ」

 アニーがそう言うと全員が、キッと奥を見た。
 そこにいる、敵を。

 ドシッ…………!

   ドシッ……!!

 ドシンッ!!!

 近づくにつれ、文字通り足元を揺るがした音。
 頭が天井すれすれまで高さのある、人の形をした絵の具だった。
 アニーたちを拘束していたイバラと、ギャラリーでハクの背中に刺さった棘と同じ極彩色のその巨体は、でっぷりと、それでいて可愛くはない体つき。
 まるで、怒りと憎しみを曲がった性根の針金の芯にこれでもかと肉付けしたような人形だった。
 見上げると肩にはヤノッハが乗っている。

「よくも、よくもよくもよくもぉおおお
 芸術家の右手をぉぉぉおおお」

 魔女の恨みのこもった叫び声が、合図となって絵の具の巨人が襲ってきた。

 緩慢な動きで振り下ろされた腕が、ドチャッと音を立てて床に飛び散る。

「あぶねぇっ」
 
 フゥとララベスが、ボクとハクを担いでその場から飛び退った。
 アニーたちも各々攻撃を避けていた。
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