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第2話

090. ポップコーンの準備はいい?7

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 皆が駆け寄ったそこには「小さな家」があった。
 屋根もあり、壁もあって小人が中に住んでいるかのような造りに、ボクは何か見覚えを感じていた。

「これって……」
「祠だわ」
「ホコラ?
 これってあの、お地蔵様とか神様とかがいる、あの?」
「そうね、アナタのいう『オジゾーサマ』っていうのが何かはよくわからないけど、神様に居てもらう家っていう認識ではあってるわ」

 そうか、ここでは神という存在はあっても地蔵、つまり日本的な宗教はないんだな。

「これってさー……
 なんかヘンなんだよねー」
「ヘンっていうのはなんなのだ?
 マグにはそういうのがわかるとは思うけど、ワシにはさっぱり……」

 そういって、アニーが不意に手を近づけた時だった。
 マグの顔が一変した。
 それまでの無邪気な笑顔が、焦りと恐怖に塗り替えられた。

「ダメ——」

 そして、マグが言葉で制する前に、ことは起こってしまった。
 祠、と称された小さな家は何も入っていないように見えたが、開け放たれた入り口から閃光をほとばしらせた。
 きっと、侵してはならないエリアがあったのだろう。
 地面だけでなく、空間としても。
 その空間にほんの爪の先の分だけアニーの指が触れてしまったのだ。
 辺りを鈍い赤銅しゃくどう色の光が包んだ。

「……うわぁ!」

 ボクが目を開くと、そこには文字通りどろどろとした不定形の怪物がいた。
 正確には少しもったりとしていて、いわゆるスライムのようなどろどろ加減ではなかった。
 あたりを包んだ赤銅色に近く、それでも所々に発光する赤い筋が見える。
 熱気と、硬めの泥。
 そう、まるで——

「マグマエレメンタル!?」

 マグの声がその正体を、テレビや動画で見た火山の火口から溢れ出るマグマのそれを表していることに気がついた。

「なんでいきなり!?
 それも、精霊(エレメンタル)がこんな場所にだなんて!」

 マグの常識から大きく外れた来客に、その場の全員が構えをとった。
 ボクも腰に差していた木刀を両の手で握った。
 それで何ができるわけでもないが、体が勝手にっていうやつだ。

「みんな離れて!
 アニー、まずは牽制けんせいよ!」

 ハクが指示を飛ばす。
 こういう時は相手の出方を見るのがセオリーなのだろうか。
 不用意に近づかずに、敵の攻撃方法を知るためにアニーの弓矢で見定みさだめようとしたらしい。
 しかし、その遠距離攻撃者から応答はなかった。

「アニー?
 どうしたの?」

 ハクが後方、ボク達を見る。
 彼の目に映るのは、ボクとマグだけだった。

「……あの子はどこ!?」
「は、ハク……
 あそこ……」

 ボクの目に映り、指をさした方にハクとマグが視線を送る。
 マグは無言で口を抑えていた。

「あの子——
 捕まってるじゃないの!」

 ボクらの中で最も背の高いハクすらを見下ろすマグマエレメンタルは、そのどろどろとした不定形の体、上半身だけがかろうじて人に見えるその肩のあたりから、アニーのものと思われる足をのぞかせていた。
 逆さまになって両足をふともも、大腿部から先を突き出した形だ。

「アニー!?
 アニー、大丈夫!?」

 慌てたマグの声が届いたのか、アニーの足がジタバタと動いた。
 どうやら生きてはいるらしい。

「マグ、こいつなんなの!?」
「こ、この子は多分、マグマエレメンタルだよ。
 精霊ってのはヤオの塊が意志を持ったようなもので、それでも自分達の属性、火なら火、水なら水って感じで、それぞれのいる場所でゆったりしてるんだ。
 こんな水の多い場所でマグマの、火や熱を持ったヤオの塊なんて……
 それに、基本的にヤオと話せる人が呼びかけたり、術で呼び起こさないと自分から動くことなんてないはずなの。だから、本当にマグもわかんなくて……」

 マグは虎縞の耳をぺこんと下げたまま、怯えたように話してくれた。
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