39 / 111
第2話
090. ポップコーンの準備はいい?7
しおりを挟む
皆が駆け寄ったそこには「小さな家」があった。
屋根もあり、壁もあって小人が中に住んでいるかのような造りに、ボクは何か見覚えを感じていた。
「これって……」
「祠だわ」
「ホコラ?
これってあの、お地蔵様とか神様とかがいる、あの?」
「そうね、アナタのいう『オジゾーサマ』っていうのが何かはよくわからないけど、神様に居てもらう家っていう認識ではあってるわ」
そうか、ここでは神という存在はあっても地蔵、つまり日本的な宗教はないんだな。
「これってさー……
なんかヘンなんだよねー」
「ヘンっていうのはなんなのだ?
マグにはそういうのがわかるとは思うけど、ワシにはさっぱり……」
そういって、アニーが不意に手を近づけた時だった。
マグの顔が一変した。
それまでの無邪気な笑顔が、焦りと恐怖に塗り替えられた。
「ダメ——」
そして、マグが言葉で制する前に、ことは起こってしまった。
祠、と称された小さな家は何も入っていないように見えたが、開け放たれた入り口から閃光をほとばしらせた。
きっと、侵してはならないエリアがあったのだろう。
地面だけでなく、空間としても。
その空間にほんの爪の先の分だけアニーの指が触れてしまったのだ。
辺りを鈍い赤銅色の光が包んだ。
「……うわぁ!」
ボクが目を開くと、そこには文字通りどろどろとした不定形の怪物がいた。
正確には少しもったりとしていて、いわゆるスライムのようなどろどろ加減ではなかった。
あたりを包んだ赤銅色に近く、それでも所々に発光する赤い筋が見える。
熱気と、硬めの泥。
そう、まるで——
「マグマエレメンタル!?」
マグの声がその正体を、テレビや動画で見た火山の火口から溢れ出るマグマのそれを表していることに気がついた。
「なんでいきなり!?
それも、精霊(エレメンタル)がこんな場所にだなんて!」
マグの常識から大きく外れた来客に、その場の全員が構えをとった。
ボクも腰に差していた木刀を両の手で握った。
それで何ができるわけでもないが、体が勝手にっていうやつだ。
「みんな離れて!
アニー、まずは牽制よ!」
ハクが指示を飛ばす。
こういう時は相手の出方を見るのがセオリーなのだろうか。
不用意に近づかずに、敵の攻撃方法を知るためにアニーの弓矢で見定めようとしたらしい。
しかし、その遠距離攻撃者から応答はなかった。
「アニー?
どうしたの?」
ハクが後方、ボク達を見る。
彼の目に映るのは、ボクとマグだけだった。
「……あの子はどこ!?」
「は、ハク……
あそこ……」
ボクの目に映り、指をさした方にハクとマグが視線を送る。
マグは無言で口を抑えていた。
「あの子——
捕まってるじゃないの!」
ボクらの中で最も背の高いハクすらを見下ろすマグマエレメンタルは、そのどろどろとした不定形の体、上半身だけがかろうじて人に見えるその肩のあたりから、アニーのものと思われる足を覗かせていた。
逆さまになって両足をふともも、大腿部から先を突き出した形だ。
「アニー!?
アニー、大丈夫!?」
慌てたマグの声が届いたのか、アニーの足がジタバタと動いた。
どうやら生きてはいるらしい。
「マグ、こいつなんなの!?」
「こ、この子は多分、マグマエレメンタルだよ。
精霊ってのはヤオの塊が意志を持ったようなもので、それでも自分達の属性、火なら火、水なら水って感じで、それぞれのいる場所でゆったりしてるんだ。
こんな水の多い場所でマグマの、火や熱を持ったヤオの塊なんて……
それに、基本的にヤオと話せる人が呼びかけたり、術で呼び起こさないと自分から動くことなんてないはずなの。だから、本当にマグもわかんなくて……」
マグは虎縞の耳をぺこんと下げたまま、怯えたように話してくれた。
屋根もあり、壁もあって小人が中に住んでいるかのような造りに、ボクは何か見覚えを感じていた。
「これって……」
「祠だわ」
「ホコラ?
これってあの、お地蔵様とか神様とかがいる、あの?」
「そうね、アナタのいう『オジゾーサマ』っていうのが何かはよくわからないけど、神様に居てもらう家っていう認識ではあってるわ」
そうか、ここでは神という存在はあっても地蔵、つまり日本的な宗教はないんだな。
「これってさー……
なんかヘンなんだよねー」
「ヘンっていうのはなんなのだ?
マグにはそういうのがわかるとは思うけど、ワシにはさっぱり……」
そういって、アニーが不意に手を近づけた時だった。
マグの顔が一変した。
それまでの無邪気な笑顔が、焦りと恐怖に塗り替えられた。
「ダメ——」
そして、マグが言葉で制する前に、ことは起こってしまった。
祠、と称された小さな家は何も入っていないように見えたが、開け放たれた入り口から閃光をほとばしらせた。
きっと、侵してはならないエリアがあったのだろう。
地面だけでなく、空間としても。
その空間にほんの爪の先の分だけアニーの指が触れてしまったのだ。
辺りを鈍い赤銅色の光が包んだ。
「……うわぁ!」
ボクが目を開くと、そこには文字通りどろどろとした不定形の怪物がいた。
正確には少しもったりとしていて、いわゆるスライムのようなどろどろ加減ではなかった。
あたりを包んだ赤銅色に近く、それでも所々に発光する赤い筋が見える。
熱気と、硬めの泥。
そう、まるで——
「マグマエレメンタル!?」
マグの声がその正体を、テレビや動画で見た火山の火口から溢れ出るマグマのそれを表していることに気がついた。
「なんでいきなり!?
それも、精霊(エレメンタル)がこんな場所にだなんて!」
マグの常識から大きく外れた来客に、その場の全員が構えをとった。
ボクも腰に差していた木刀を両の手で握った。
それで何ができるわけでもないが、体が勝手にっていうやつだ。
「みんな離れて!
アニー、まずは牽制よ!」
ハクが指示を飛ばす。
こういう時は相手の出方を見るのがセオリーなのだろうか。
不用意に近づかずに、敵の攻撃方法を知るためにアニーの弓矢で見定めようとしたらしい。
しかし、その遠距離攻撃者から応答はなかった。
「アニー?
どうしたの?」
ハクが後方、ボク達を見る。
彼の目に映るのは、ボクとマグだけだった。
「……あの子はどこ!?」
「は、ハク……
あそこ……」
ボクの目に映り、指をさした方にハクとマグが視線を送る。
マグは無言で口を抑えていた。
「あの子——
捕まってるじゃないの!」
ボクらの中で最も背の高いハクすらを見下ろすマグマエレメンタルは、そのどろどろとした不定形の体、上半身だけがかろうじて人に見えるその肩のあたりから、アニーのものと思われる足を覗かせていた。
逆さまになって両足をふともも、大腿部から先を突き出した形だ。
「アニー!?
アニー、大丈夫!?」
慌てたマグの声が届いたのか、アニーの足がジタバタと動いた。
どうやら生きてはいるらしい。
「マグ、こいつなんなの!?」
「こ、この子は多分、マグマエレメンタルだよ。
精霊ってのはヤオの塊が意志を持ったようなもので、それでも自分達の属性、火なら火、水なら水って感じで、それぞれのいる場所でゆったりしてるんだ。
こんな水の多い場所でマグマの、火や熱を持ったヤオの塊なんて……
それに、基本的にヤオと話せる人が呼びかけたり、術で呼び起こさないと自分から動くことなんてないはずなの。だから、本当にマグもわかんなくて……」
マグは虎縞の耳をぺこんと下げたまま、怯えたように話してくれた。
4
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる