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第2話

087. ポップコーンの準備はいい?4

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 重苦しい空気に再度波紋を立てたのはバンディだった。

「オメェらに仕事だ」

 バンディは口にくわえていた楊枝ようじの先をピンと立てて話をつづけた。

「このままじゃ、オイラたちの仕事もなくなっちまう。
 それじゃあオマンマの食い上げだ。
 オイラたちでこの異常事態の原因を探ってみようじゃねぇか」
「それって、誰かからの依頼だったりするのだ?」
「ちげぇよ。
 これはオイラから、この黒熊のコンクエスターに対する依頼だ。
 なにも解決しろなんて言わねぇ。
 それは街の領主や憲兵の仕事だ。
 ただ、少しそのための情報を集めて、恩を売りつけようとは思ってる」

 バンディは、意地の悪い笑顔を見せて虚勢きょせいを張った。
 彼としてもこの状態を良しとはしない。
 バンディの抱える、「黒熊のコンクエスター」という優れた集団なら何かその状況を変えることができるかもしれない。
 しかし、普段の粗暴なふるまいから行動を起こすための彼なりの動機を見せなければならない。
 それが、「依頼」でもあり「恩を売る」という張りぼてにつながったのだ。

「それなら、しかたねぇな」

 フゥをはじめ、皆がそのバンディの意図に気が付いていた。

「三文芝居だね~」
「いいんだよ。ボクにだってわかるんだから。
 みんながそれに気が付いてないわけないじゃないか」

 ニィっと同時に笑ったフゥとバンディは、向かい合わせの状態で座ったまま膝に肘を当てている。

「で、どうするってんだ?」
「まずは、フゥ。
 オメェはラギとジャコを連れて情報を集めろ。
 この二人なら知識と経験を活かして情報を集められるだろう。
 採集や実証実験には護衛が必要だ」
「わかった」
 
 フゥが応えると、そのわきにはラギとジャコが立っていた。
 同じようにバンディの依頼に対して応答していた。

「次はハク。
 アニー、マグと一緒に温泉の源泉を見てきてくれ。
 情報からすると黒熊で倒れたマイがこの症状の第一弾のようだから、その原因――おそらく温泉に関して調べれば、何かわかることがあるかもしれねぇ」
「わかったのだ!」
「マグもー」
「承知したわ」

 三人はすぐさま「源泉」への行程を確認し始めた。

「ララベスは……
 なにか思うところがあるって顔してるな」
「私は私でやらせてもらうよ」
「いいだろう。
 オメェの能力は飛びぬけてる。
 一人のほうがやりやすいこともあるだろうさ。」

 見上げたバンディの視線がボクを射抜いた。

「オメェは――」
「ボクも行かせてっ」

 バンディの言葉を遮るようにボクは言葉をかぶせた。

「わかってるのか?
 これは遊びじゃねぇ。
 黒熊に残ってほかの依頼や仕事をするのだって、立派なコンクエスターとしての在り方だ」
「でも、ボクだって……」

 あの、マイの、あどけない顔に苦しみが具現化した皺が重なり、口からこぼれる血の混じったよだれが目に浮かんだ。
 そしてその愛娘に対して何もできないお父さんの表情を――
 何もできない、また、何もできなかった自分の背中を、フィルムに焼き付いたセピア色の一幕のように、頭の中で上映してしまっていた。

「ワタシが責任持つわ」

 ハクの白い指がボクの肩に揃えられていた。

「おぃ、ソレは……」
「いいのよ。
 イツキだって、のけ者じゃあんまりでしょう。
 ワタシが連れてきたんだから、私が連れて行ってあげるのが、責任の取り方よ」
「しかしだな――」

 渋るバンディをよそに、ボクの瞳だけを見たハク。
 その表情は、優しく落ち着いていた。

「アナタが行くというのなら、ワタシは手伝うわ。
 どうする?」

 ボクは、しっかりとその銀のちりばめられた氷色の瞳を覗き込んだ。
 その中に映る自分自身へと、確認するように。

「支度をしてくる」

 そういって、ボクは自室に奔った。
 周囲ではほかのコンクエスターたちも準備をしていた。

 ジャコの仕立ててくれた依頼用の服に着替えてベッドのわきに立てかけてあった、緑色の木刀を握りしめた。
 手になじむ木刀は硬かったが、マイの手のひらの感触を思い出した。
 仕事で荒れて、それでもなお柔らかなぬくもりのあったあの小さな手を。

「また、怖い思いをしに行くの?」

 エリィの問いに、身を起こして答えた。

「嫌な思いをしないためにね」
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