職業・「観客」ゥ!?

花山オリヴィエ

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第2話

085. ポップコーンの準備はいい?2

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 何のことをさしているのかはわからなかったが、アーシカの粘着質な言葉が先の分かれた毒蛇の赤い舌のようにアニーの喉元をチロチロと舐めているような嫌悪感を覚えた。

「いっそのこと、なぁ?
 いわく付きの黒熊なんざたたんじまって……
 アニーもその肌で……」
 
 気が付いた時にはボクは右手に掴んだまきを振りかぶっていた。
 目標は、暖炉の火ではなく、チロチロと舌を伸ばしているうねった黒髪をオールバックにしたアーシカの脳天だった。
 衝動的だった。
 そしてその衝動は未遂に終わった。

「馬鹿な事するもんじゃないわ。
 仮にも『仲間』に向かってね」

 ボクが振りかぶった薪をハクの白い手が掴み、ことを未然に防いでくれたのだ。

「ハク……
 ごめん……」
「いーんじゃねぇのか?
 あーしは構わなかったんですぜ?」

 そういって、アーシカはヒャッヒャッと笑った。

「そのままだったら、そこのイツキちゃんの腹に、ちょっと風穴があいてただけなんだから」

 アーシカはボクに背を向けたまま後ろ手にナイフを構えていた。そして、大げさに説明してからボクの腹、へその位置にあてたナイフを引いて見せた。
 そう、そのままボクが薪を振り下ろしていれば、それよりも早くアーシカのナイフがボクの腹に突き立てられていたのだ。
 ハクはそれすらも察知して、ボクを止めてくれたのだった。

「アーシカ、アナタは何を知っているの?」

 ハクはボクの手から薪を離させると、ゆっくりとその木材の目標だった男に問いを投げかけた。

「あーしが、知るわけないじゃないですか。
 なぁんにも。
 仮に?
 知っていたとしてもだ。
 あーしに向かって殴りつけてくるような奴に何も教えてやる義務も義理もないんでねぇ」

 ハクに向き直ると、赤い舌を出してお道化どけた表情を崩さないアーシカは、まるで人に反感を覚えさせることで自分に利益が湧いてくるかのような言動を繰り返した。

「そう」

 じゃあ仕方ないわね。

 と、ハクが言葉を区切ると、彼の手の内に合った薪がミチミチと声を上げだした。
 炎の燃料にされるために手斧で割られた薪は、怒りという感情に燃えた男の握力で今、高圧縮されている。木の繊維が握りつぶされるというありえない音は黒熊のフロアに鳴り響き、その太さが元来の半分ほどにくびれてしまった様子を、アーシカをはじめその場にいた面々がごくりと唾をのんで驚いていた。

 うわぁ……

 ボクの上げた感嘆の声に、仲間は一斉にアーシカへと非難の視線を向けた。
 それまでの、居た堪れない表情は怒りと訴追そついに変わっていた。

「じゃ、じゃあ……
 皆様のご健康とご多幸を……」

 わけのわからない言葉で濁してアーシカは逃げて行った。
 それこそ威勢の良かった野良犬がしっぽを巻いて走っていくように。
 風向きが変わって、思惑が外れ、自分に不利な形成になったことを感じとったアーシカの逃げっぷりは見事だった。

「ハク……?」
 
 ボクは心配になって白い顔のまま青い怒りの炎を燃やしていた男に声をかけた。

「怒りは、わかるわ。
 でも、はき違えちゃダメよ?
 怒りは感情。
 感情は抑えたうえで、行動するのよ」

 そう言って、ハクは手のひらに残った木のくずを悠々と摘み取っていた。
 ボクは自分の軽率さを恥じたが、ハクがその怒りを否定しなかったことがうれしかった。
 ハクも、みんなもボクと同じように仲間を傷つけられて同じ感情を抱いていたということがわかって、一層ボクはこの黒熊にいたいと思った。
 そのためには、解決しなくちゃいけない。
 知らなくちゃいけない。

 何があって。 
 何が起こって。
 何をすればいいのかを。
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