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第2話

080. 剣と魔法ってこんな感じなんだ29

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「きっといつもあんな調子なんだろうな。
 かっこいいというか、悪カッコイイ大人って感じだ」
「ワルにあこがれるのはアリよね」
「そんなんじゃないってば」

 エリィの言葉を否定しつつも、悪に惹かれる部分が自分の中にはないと言い切れなかった。
 ヤンキー物のマンガや、創作の中に出てくるギャングやヤクザに心がときめいたこともある。たばこにも興味がないと言えばウソになる。

「でもなぁ~」

 荷物を受け取り、自分を否定しきれずに帰路に就こうとした時だった。

「おらぁ!」

 店の外から、明らかに平時とは異なる声が聞こえた。
 大体こういうときっていざこざの始まりである。
 様子を見ようと店内から表をそっと覗く。
 どうやら、複数人の男女が揉めているらしい。

「酔っ払いがよぉ!」
「なによ、最初にぶつかってきたのはそっちじゃないの!」
「オンナがしゃしゃり出てくるんじゃねぇよっ」
「乱暴はやめろ!」

 見ると男女の三人組がいかつい二人組の男に絡まれているらしい構図だった。
 三人組のうちの一人が頬を押えて一歩下がっているところを見ると、どうやらすでに一発、貰っているらしい。

「ヒョロガリがよぉ。
 女連れでイキがりやがってっ。」

 短髪の男が、こちらに背を向けている青くぴっちりと体に密着する服を着た男の髪をつかみ、勢いそのまま変に磨かれた革のブーツで蹴り飛ばした。
 体勢を崩した青い服の男は、よろめいてリトル・ニューの店の壁に背を打ち付けてしまった。
 ゲホゲホとせき込む男。

「大丈夫ですか?」
 
 入口から顔を出して思わず声をかけてしまった。
 目が合った。

「「あ」」

 声も合った。
 いつぞや、ギヤノさんキヤノさんの双子のお婆さんが経営する武具屋「イーグルウッド」とインチキ商品を売っていたマジックストア「あなたの友人」ソルトイル支店で会った三人組のうちの一人だった。

「そういえば、さっき会った髭もじゃの仲間だっけ」
 
 どうやら倒れた拍子に、舌をかんだらしくもごもごとうまく喋れていない。
 ボクは男の声を聞き取ろうと顔を近づけた。

「小僧も仲間か?
 なら、そこのヒョロガリと一緒に……
 って!
 てめぇはっっ!?」

 たった今ここに倒れている男を蹴った暴漢と、その足元に見える変に磨かれた革のブーツが目に入った。
 そして声がしたので、見上げるとそこにはまた、見覚えのある顔があった。
 
「アナタは……
 たしか、ボクが、ボクたちがミルクセーキを売っていた時に……」

 そう、因縁をつけて騒ぎ立てて、売り上げをかすめ取ろうとした男の一人だった。
 その後ろで、すこし戸惑い気味にこちらを見ている長髪の男も目に入り、あの時感じたムカムカとする香水の匂いを鼻の奥で思い出した。

「小僧ぉ!
 会いたかったぜぇ~?
 ちゃーんとお礼をしてやらなきゃって思ってたんだ、よっ!」

 足元に倒れている青い男を跨いで、いかにも弱い者いじめが好きそうな悪漢がボクの胸ぐらをつかんだ。
 ふっとボクは足の裏に自分の体重を感じなくなったことで、その膂力で体を持ち上げられたと知った。
 ギチ、と服の襟が悲鳴を上げる。
 せっかくジャコに仕立ててもらった服なのに。

「あの、やめましょうよ。
 あんまり騒いだり……
 暴力は特に……イケませんよ……」

 ボクを右手一本で釣り上げている男は、見せびらかすように左の拳を握り、気色悪くあてつけるように自分の唇に当てて見せた。

「こ・れ・は……
 俺からの『お礼』だって言っただろう?
 恥ぃかかせてくれた分だ。
 遠慮なく……」
「要りません――」
「受け取れ――!」

 ボクは顔面にこの短髪男のキスした拳が当たって、間接的に口づけすることになることを拒んだつもりだった。
 それでも、次の瞬間に来る痛みと衝撃に歯を食いしばった。

 ストン。

 地面に足が付いた。
 下ろしてからの一撃が来るのか?
 そうも思ったが、目の前でドシという音も聞こえてきた。
 ボクの胸元をつかんでいた手からは力が抜けている。

「え?
 酒瓶、が……
 顔にめり込んでる?」

 先ほど見た釣り合いの取れていない目鼻のあった場所には、ガラスでできた酒瓶と思われる物体があり、張り付けられているラベルが中身はワインであることまでも教えてくれた。

「コレは私のオゴリよ」
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