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第2話

078. 剣と魔法ってこんな感じなんだ27

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 ララベスがキセルにたまった燃えカスを灰皿にあてず、ポンと手首のスナップで落とす。新しいタバコの葉を指先で丸め、丸い口に入れると、マッチを擦って新たに火をつけた。
 マッチはそこから火が付くのかと思うほどの距離までしか丸い口には近づかず、そのままゆっくりと味わうようにキセルのタバコの葉に火をつけたようだった。
 一口、二口と煙をくゆらせるとフゥと一息はいてまた、ゆっくりと目を閉じた。

 あの……

 おずおずと声をかけてみたものの、ララベスは依然として揺り椅子を動かすだけでボクの声には答えてくれない。

「まぁ、座りなよ」
 
 すっとキセルの先で示された椅子に腰を掛けるまで、ボクはキョドキョドと立ち尽くしているばかりだった。

 それでもなお、キセルの中の火の気がはじける音だけが二人の間にはあった。
 
「何か……用……?」

 手招きされるままにきては見たものの、話しどころか相手は目すら閉じている。
 いったい何がしたいんだ?

「用ってわけじゃないけれど、私のことが気になるみたいだから。
 呼んでみたんだよ。
 近くで見てみればいい」
「そんなつもりじゃ……」

 ララベスは当たり前のようにフフッ……と笑って見せた。

「エルフは珍しいかい?」

 ララベスは胸元に垂らしたオレンジ色のポニーテールを右の指で遊んで見せた。

「こんな髪色のエルフもいないだろうし、そのほかも……
 まぁ、無理もないか。
 私はだいぶ、常識の範疇はんちゅうから外れてるからさ」
 
 右の人差し指が添えられたのは彼女の常人離れした長く伸びた耳とその傷跡だった。
 ララベスの言葉で自分のイメージの中のエルフ象との照合が行われた。

 エルフと言えば、森の住人であり、男女ともに美しい。
 すらりと伸びた四肢に透き通る肌と神秘的な髪。
 そしてとがった長耳だ。
 人と比べて寿命は長く、違った価値観を持った種族である。
 弓が得意で、人に比べて力は少し劣っているというイメージだった。

 目の前の自称エルフはと言えば……
 まず、美人であることは疑いようもない。
 西洋の絵画から抜け出してきたような均整きんせいの取れた美女であり、肌は白く、その手足は長くしなやかで髪の色も綺麗だ。
 耳は、確かにボクやほかの黒熊の人間たちと比べても少し長い。
 傷は、あってもなくても髪に隠れてわからない程度だ。
 ただ、胸が豊かさにあふれているし、フゥとの手合わせの時もそうだったけれど腕力でも通常の人に劣っているようには見えなかった。
 エルフはその体力から軽装を好むらしいけれど、あの腕力と身に着けている鎧からはそんな様子はうかがえない。

「弓を使うわけじゃないんだね」
「これでも昔は引いてたんだよ。
 今はこっちのほうが得意なだけさ」

 指示した先には壁に立てかけられた手槍があった。
 まるで中世のお城で甲冑とともに飾ってあるような、穂状すいじょうに作られた両刃の穂先は手入れの行き届いた、静かな殺傷力を秘めていた。
 
「スミマセン。
 そんな風に見ていたつもりじゃなかったんだけど……」
「いいんだよ。
 これでも長く生きてきたからね。
 ただ、君の興味を満たしてあげたくなっただけだ」

 ジャコの言葉を思い出した。
 
『年齢や体格、外見に対してとやかく言うんじゃないよっ。』
『誰であっても、年恰好について言うもんじゃない。
 それでいい気分がするのかい?
 持って生まれて、自分ではどうすることも出来ないことは特に気を付けるもんだよ』

「ごめんなさい」
「いいんだって。
 知りたいと思うことは、悪いことじゃない。
 少なくとも私という個人に向けられた君の瞳は嫌なものじゃなかったからさ。
 嬉しいんだ」

 また、ララベスがフフッ……と笑うと、咥えていたキセルの吸い口をボクに向けて差し出した。

「一服するかい?」

 その金属でできた吸い口には、ララベスの口唇こうしんが直接触れていた。
 まだ、その硬い部分に肌のぬくもりなのか、口紅の色なのか、妖艶ようえんな色気のモヤがかかっているようにも見えた。

 ボクの心臓がその絵を見て、急に鼓動を加速させた。
 脳が感じたのだ。
 ド直球の性的な視覚効果を。

 イヤイヤイヤ!

 ボクはぶんぶんと首を振ってその申し出を断った。

「まだ、タバコ吸える齢じゃないから!
 じゃ!」

 動揺を悟られまいと、顔を背け彼女の前から姿を消した。

「フフッ……
 若いってのはいいね」

 また、白樺のような美女は、その樹と同じ色の煙をくゆらせながら、椅子を揺らしていた。
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