上 下
70 / 111
第2話

077. 剣と魔法ってこんな感じなんだ26

しおりを挟む
「それ、きれいな色よね」

 ふいにハクの声がして、ボクはやっと目の前にある美しいものへ自分の意識が奪われていることに気が付いた。
 ボクがまじまじと見ていたのは、ララベスからもらった緑色の木刀だった。

「ウン、ボクもそう思う。
 不思議な色をしてるよね」

 見れば見るほど、深く、濡れたような艶さえもあるその表面。
 それでも木刀とわかるほどの木目が見て取れる。
 だが決して手の中で滑るような摩擦の少なさでもなく、握りこむために作られた柄の部分もしっかりと手の皮になじむ。

深碧しんぺきって言うのかしらね。
 ほら、宝石の種類で『碧玉ジャスパー』ってのがあるんだけど、それの緑色の奴に近い色合いだと思うわ」
「ジャスパーって名前は聞いたことあるよ。
 ボクのいた国でも古い時代や神話に出てきてた気がする」

 そう言って柄の部分を見ると、ただの緑一色ではなく、濃淡やその線、模様といったものまでもが目に入ってくる。
 黒熊のフロアで椅子に腰かけて灯りにかざしながら飽きもせずに木刀を眺めていると、エリィは遠慮もなく茶化してくる。

「お前が神話、ねぇ~。
 知ったかぶり?」
「違うよ。
 そういうのが……好きだったんだよ……」

 エリィの言う知ったかぶりっていう言葉には反感があった。
 実際に聞き覚えがあったのはマンガや小説、アニメなんかの創作物の中での話だったからだ。
 元をただせば創作物も歴史的な事柄や実際に宗教的な部分からとってきたのだから、全部が全部ウソではないけれど、どこか居心地の悪さを感じていたのも事実だ。

「それにしても、この……
 そういう模様だけじゃなくって、どこかで見たんだよなー。
 なんだったかな……」
「今は思い出せなくても、覚えがあるんだったらそのうち思い出せるわよ」
 
 そうかもしれない、とハクには答えた。
 でも、本当にどこだったかな。
 この世界にきてからだったような気がするんだけどな。

「ホント、きれいだねー」
「マグもそう思う?
 それにしてもあの、ララベスって人は何者なの?
 木刀で丸太を切ったんだよ?」

 マグは大きな素焼きのカップに入ったミルクティーを両手でもって現れた。

「えっとねー。
 強くてー、物知りでー、美人さん!
 これは間違いないよねっ」
「うん、そこまではボクもわかるよ」
「あとはー、確かバンディさんと一番古い仲なんじゃなかったかなー。
 ハクやフゥさんよりも先に黒熊にいたはずだけどー
 マグわかんない♪」

 コプコプと素焼きのマグカップの中身を口にするとマグは虎縞の耳を嬉しそうにピコピコと動かして見せた。

「そんなに気になるんなら、イツキが聞けばいいんだよ。
 ほら、向こうにいるよ?」

 マグの視線の先、フロアの奥では暖炉のそばで揺れるロッキングチェアがあった。
 そこから煙がゆらゆらと上がっているのがわかる。

「ララベスのお気に入りの椅子なんだ。
 のんびりするときはいつも、あそこでタバコを吸ってる」
「そうなんだ」

 椅子の向きを変え、揺れる煙の元にいるララベスのことを遠目で見た。
 ゆったりと深く身を預けられる革張りの背もたれ、ひじ掛けには絶妙なカーブが施してあり、体全体を包み込んでいる。足元は反り返った板で地面と接しているために、通常の椅子とは違い、安定ではなく優しく揺れることを目的とした造りをしていた。
 現にそこに座っているララベスは組んだ足で自ずと揺れを作り、気持ちよさそうに目を閉じていた。
 まるで、ゆりかごに揺られる赤子のような安心した顔をしている。
 ただ、かたわらには酒の瓶とキセルと思われるたばこがあり、そこはある種、幼さとは真逆の大人のたしなみといった様子でもある。
 何か、小説のワンシーンのような彼女の挙動を見ていると、その手のひらがひらひらとしている。

「ボク?」

 まるでおいでおいで、と言っているかのような動作に、尋ねると聞こえているのかいないのか、その手のひらがさらにうなずくようなタイミングで上下した。

「なんだろう」

 ボクはララベスの森の静けさを体現する白い手に呼ばれるままに近づいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!

電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。 しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。 「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」 朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。 そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる! ――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。 そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。 二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

処理中です...