23 / 111
第2話
074. 剣と魔法ってこんな感じなんだ23
しおりを挟む
ギシギシという音がここまで聞こえてくる。
フゥの大きな掌がララベスの膝を鎧ごと握りつぶそうという表れだった。
ヒュゥッ。
短い呼吸と共に、ララベスが右の手の中で槍の向きを変える。
穂先の刃が太陽の光を反射して、ボクの目を細めさせた。
迷いなく、彼女はその槍の鋭利な先端をフゥの尖った金色の頭髪もろとも脳天に差し込むつもりだったのだろう。
そして、それを知ってか知らずか、フゥは持っていた膝ごと自身の身体を起こし――
「おぉぉおおおおお!!」
170cmはあるはずのララベスの身体をそのまま振り上げてしまった。
面倒ごとは腕力でねじ伏せる。
技や物に頼らず、フゥが自身の膂力だけを発揮して見せた。
「馬鹿力にもほどがある!」
ボクが叫んだ時にはただでさえ巨漢のフゥが成人女性を高々と掴み上げているのだ。
槍の先までも合わせれば一時的とはいえ、黒熊の建物の二階までゆうに届くほどの高さだ。
バランスを崩したララベスは攻撃の機会を逸した。
「っりゃああ!」
フゥはただでさえ太くたくましい腕を隆起させて、力任せに叩きつけた。
足元は地面。
仮にふわっふわの綿がボクの背の高さまで敷き詰めてあったとしても、フゥの力では吹き飛ばしてしまうだろう。
そんな怪力だった。
耳を塞ぎたくなるような衝撃音がした。
――と思ったが、聞こえてきた音は存外軽く、スチャッという軽妙な金属音だった。
「なんて無茶をするんだ。
ちょっとは加減をしなよ」
「フン。
ララがこの程度でくたばるとは思えねぇんでな。
変に気を使ったらそれこそ、オレをぶっ殺すだろう?」
「その通りだ。
『ちゃんと』『やっていた』ね」
両の膝を揃えて、その場に立つララベスの姿がそこにはあった。
槍こそを両の手で構えていても、そのリラックスした表情はまるでその体を地面に叩きつけられた人のものとは思えない。
むしろ、教え子の成長に頷く教師のそれのようにすら見て取れた。
練習を見てやった生徒が、大きく成長し、試合でいい結果を残したかのように。
「ちゃんと、受け身を取っていたのよ。
それはもう見事な柔軟性だったわ」
ララベスが自身の柔軟性と発条でフゥの怪力による叩きつけを相殺してしまったというのだ。
彼らのやり取りにも、それぞれの力と能力にも目を丸くしていると、オレンジのポニーテールを揺らしながら、槍を持った女性がボクへ向き直り、近づいてきた。
穂先すら、下ろしていたが先ほどのやり取りでは満足できなかったのか?
え、え……
「次は、ボク、ですか?
ボクはまだ……
そんな、あんな風には全然……」
恐れと怯えから口にしていた言葉に整合性はなかった。
ララベスは、ボクの顔の前に、息のかかる距離で自分の端正な顔を近づけると、まじまじと見てこう言った。
「君にはコレだ」
そういって、傍に置いてあったバックパックから一本の棒をボクに手渡した。
「これは……
緑色の、手触りは、そう……
木刀?」
学生として生活し、学校やメディアの中でも見た日本人にはなじみの深い木を削りだして作った棒。
「そう、君がまず持つべき武器はコレだ」
見覚えのある木の色、先ほどの木剣と同じく木目の見える、でも艶のある深い緑色をした木刀をボクの手に預けると、ララベスはフフッ……と笑いながら黒熊の中に入ってしまった。
「良かったじゃないの。
あのララから見繕ってもらえたんなら、それが良いのよ。
今のイツキには、ね」
「ハクがそんな風に言うの?
あのララベスって人って……」
「いま、この黒熊で一番強い人物よ」
「それって、フゥやハクよりも!?」
「そう言う事になるわね」
へ、へぇ~……
「信じられないわ。
あの化け物みたいなマッチョのフゥよりも、涼しい顔してなんでも杖でぶっ叩くハクよりも、強いんだってね」
エリィのいうのも、もっともだ。
もっともだけど……
「でも、すごいな」
フゥの大きな掌がララベスの膝を鎧ごと握りつぶそうという表れだった。
ヒュゥッ。
短い呼吸と共に、ララベスが右の手の中で槍の向きを変える。
穂先の刃が太陽の光を反射して、ボクの目を細めさせた。
迷いなく、彼女はその槍の鋭利な先端をフゥの尖った金色の頭髪もろとも脳天に差し込むつもりだったのだろう。
そして、それを知ってか知らずか、フゥは持っていた膝ごと自身の身体を起こし――
「おぉぉおおおおお!!」
170cmはあるはずのララベスの身体をそのまま振り上げてしまった。
面倒ごとは腕力でねじ伏せる。
技や物に頼らず、フゥが自身の膂力だけを発揮して見せた。
「馬鹿力にもほどがある!」
ボクが叫んだ時にはただでさえ巨漢のフゥが成人女性を高々と掴み上げているのだ。
槍の先までも合わせれば一時的とはいえ、黒熊の建物の二階までゆうに届くほどの高さだ。
バランスを崩したララベスは攻撃の機会を逸した。
「っりゃああ!」
フゥはただでさえ太くたくましい腕を隆起させて、力任せに叩きつけた。
足元は地面。
仮にふわっふわの綿がボクの背の高さまで敷き詰めてあったとしても、フゥの力では吹き飛ばしてしまうだろう。
そんな怪力だった。
耳を塞ぎたくなるような衝撃音がした。
――と思ったが、聞こえてきた音は存外軽く、スチャッという軽妙な金属音だった。
「なんて無茶をするんだ。
ちょっとは加減をしなよ」
「フン。
ララがこの程度でくたばるとは思えねぇんでな。
変に気を使ったらそれこそ、オレをぶっ殺すだろう?」
「その通りだ。
『ちゃんと』『やっていた』ね」
両の膝を揃えて、その場に立つララベスの姿がそこにはあった。
槍こそを両の手で構えていても、そのリラックスした表情はまるでその体を地面に叩きつけられた人のものとは思えない。
むしろ、教え子の成長に頷く教師のそれのようにすら見て取れた。
練習を見てやった生徒が、大きく成長し、試合でいい結果を残したかのように。
「ちゃんと、受け身を取っていたのよ。
それはもう見事な柔軟性だったわ」
ララベスが自身の柔軟性と発条でフゥの怪力による叩きつけを相殺してしまったというのだ。
彼らのやり取りにも、それぞれの力と能力にも目を丸くしていると、オレンジのポニーテールを揺らしながら、槍を持った女性がボクへ向き直り、近づいてきた。
穂先すら、下ろしていたが先ほどのやり取りでは満足できなかったのか?
え、え……
「次は、ボク、ですか?
ボクはまだ……
そんな、あんな風には全然……」
恐れと怯えから口にしていた言葉に整合性はなかった。
ララベスは、ボクの顔の前に、息のかかる距離で自分の端正な顔を近づけると、まじまじと見てこう言った。
「君にはコレだ」
そういって、傍に置いてあったバックパックから一本の棒をボクに手渡した。
「これは……
緑色の、手触りは、そう……
木刀?」
学生として生活し、学校やメディアの中でも見た日本人にはなじみの深い木を削りだして作った棒。
「そう、君がまず持つべき武器はコレだ」
見覚えのある木の色、先ほどの木剣と同じく木目の見える、でも艶のある深い緑色をした木刀をボクの手に預けると、ララベスはフフッ……と笑いながら黒熊の中に入ってしまった。
「良かったじゃないの。
あのララから見繕ってもらえたんなら、それが良いのよ。
今のイツキには、ね」
「ハクがそんな風に言うの?
あのララベスって人って……」
「いま、この黒熊で一番強い人物よ」
「それって、フゥやハクよりも!?」
「そう言う事になるわね」
へ、へぇ~……
「信じられないわ。
あの化け物みたいなマッチョのフゥよりも、涼しい顔してなんでも杖でぶっ叩くハクよりも、強いんだってね」
エリィのいうのも、もっともだ。
もっともだけど……
「でも、すごいな」
5
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる