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第2話

074. 剣と魔法ってこんな感じなんだ23

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 ギシギシという音がここまで聞こえてくる。
 フゥの大きな掌がララベスの膝を鎧ごと握りつぶそうという表れだった。

 ヒュゥッ。

 短い呼吸と共に、ララベスが右の手の中で槍の向きを変える。
 穂先の刃が太陽の光を反射して、ボクの目を細めさせた。
 迷いなく、彼女はその槍の鋭利な先端をフゥの尖った金色の頭髪もろとも脳天に差し込むつもりだったのだろう。
 そして、それを知ってか知らずか、フゥは持っていた膝ごと自身の身体を起こし――

「おぉぉおおおおお!!」

 170cmはあるはずのララベスの身体をそのまま振り上げてしまった。
 面倒ごとは腕力でねじ伏せる。
 技や物に頼らず、フゥが自身の膂力だけを発揮して見せた。

「馬鹿力にもほどがある!」

 ボクが叫んだ時にはただでさえ巨漢のフゥが成人女性を高々と掴み上げているのだ。
 槍の先までも合わせれば一時的とはいえ、黒熊の建物の二階までゆうに届くほどの高さだ。
 バランスを崩したララベスは攻撃の機会を逸した。

「っりゃああ!」

 フゥはただでさえ太くたくましい腕を隆起させて、力任せに叩きつけた。
 足元は地面。
 仮にふわっふわの綿がボクの背の高さまで敷き詰めてあったとしても、フゥの力では吹き飛ばしてしまうだろう。
 そんな怪力だった。

 耳を塞ぎたくなるような衝撃音がした。

 ――と思ったが、聞こえてきた音は存外軽く、スチャッという軽妙な金属音だった。

「なんて無茶をするんだ。
 ちょっとは加減をしなよ」
「フン。
 ララがこの程度でくたばるとは思えねぇんでな。
 変に気を使ったらそれこそ、オレをぶっ殺すだろう?」
「その通りだ。
 『ちゃんと』『やっていた』ね」

 両の膝を揃えて、その場に立つララベスの姿がそこにはあった。
 槍こそを両の手で構えていても、そのリラックスした表情はまるでその体を地面に叩きつけられた人のものとは思えない。
 むしろ、教え子の成長に頷く教師のそれのようにすら見て取れた。
 練習を見てやった生徒が、大きく成長し、試合でいい結果を残したかのように。

「ちゃんと、受け身を取っていたのよ。
 それはもう見事な柔軟性だったわ」

 ララベスが自身の柔軟性と発条ばねでフゥの怪力による叩きつけを相殺してしまったというのだ。
 彼らのやり取りにも、それぞれの力と能力にも目を丸くしていると、オレンジのポニーテールを揺らしながら、槍を持った女性がボクへ向き直り、近づいてきた。
 穂先すら、下ろしていたが先ほどのやり取りでは満足できなかったのか?

 え、え……

「次は、ボク、ですか?
 ボクはまだ……
 そんな、あんな風には全然……」

 恐れと怯えから口にしていた言葉に整合性はなかった。
 ララベスは、ボクの顔の前に、息のかかる距離で自分の端正たんせいな顔を近づけると、まじまじと見てこう言った。

「君にはコレだ」

 そういって、傍に置いてあったバックパックから一本の棒をボクに手渡した。

「これは……
 緑色の、手触りは、そう……
 木刀?」

 学生として生活し、学校やメディアの中でも見た日本人にはなじみの深い木を削りだして作った棒。

「そう、君がまず持つべき武器はコレだ」

 見覚えのある木の色、先ほどの木剣と同じく木目の見える、でも艶のある深い緑色をした木刀をボクの手に預けると、ララベスはフフッ……と笑いながら黒熊の中に入ってしまった。

「良かったじゃないの。
 あのララから見繕ってもらえたんなら、それが良いのよ。
 今のイツキには、ね」
「ハクがそんな風に言うの?
 あのララベスって人って……」
「いま、この黒熊で一番強い人物よ」
「それって、フゥやハクよりも!?」
「そう言う事になるわね」

 へ、へぇ~……

「信じられないわ。
 あの化け物みたいなマッチョのフゥよりも、涼しい顔してなんでも杖でぶっ叩くハクよりも、強いんだってね」

 エリィのいうのも、もっともだ。
 もっともだけど……

「でも、すごいな」
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