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第2話

066. 剣と魔法ってこんな感じなんだ15

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 その後、マイを家まで送り、彼女の表情を見た父親から怪訝けげんな視線を向けられた。
 マイは何でもないんだ、と繰り返すがその泣き腫らした目に説得力はなかった。
 ボクが父親なら、その場でボクやハクに掴みかかっていたと思う。

「オレの娘に何しやがった!?」

 そう、マイのお父さんの目が言っていたけど、彼はそれを手に命令はしなかった。
 それが高潔さなのか、信頼なのか、それとも決別を意味していたのかまでははかれなかった。
 ボクは別れ際に、マイになんども謝った。

 ごめんね。ボクのせいで。

 その言葉の「ボク」の部分をそっくり「アタイ」に差し替えて、言葉は返されてきた。

 居た堪れなかった。

 自分の未熟みじゅくのせいで。
 自分のおごりのせいで。
 自分の虚栄きょえいのせいで。

 その感情は言葉を発せないことで表されていた。
 ボクと同じようにマイのお父さんに頭を下げて、それ以前にボクらの前に駆けつけて、ボクらを守ってくれたハクも、同じように黒熊への帰り道も、そのあとも暫く口を開かなかった。

 きっとボクに向ける感情はボクのそれよりも、もっと暗いものだっただろう。

 立腹りっぷく
 焦燥しょうそう
 失望しつぼう

 そんな感情を向けられている事に、ボクのなかの精神状況を表すボクはどんどんと小さくなっていった。
 普段が等身大だとすれば、ピクニックをしていた時はフゥの伸長と体格ほどはあった。
 それが敵に襲われて、マグほどまでに縮んで、その後はどんどん頭の位置を低くしていった。ギヤノとキヤノのお婆さん達ほどまでに、犬よりも、猫よりも、手に乗るほどのネズミよりも、道端の小石よりも、一握りの砂利の一粒ほどまでも。

 そのまま黒熊に戻って、バンディのご飯を食べて、アニーとマグは今日あったことを楽しげに話してくれたけど、それに対してボクが感情のこもっていない相槌あいづちを打ったことでそれ以降はそっとしてくれた。
 決して彼女たちが悪いわけじゃないし、そっとしておいてくれる優しさを感じたのも事実だった。
 あのデリカシーのないフゥですらもボクの表情を見たからか、ハクの白い肌に少し赤い汚れがついていたのを見つけたからなのか――いや、その両方だろう。
 いつものハッッハハという笑い声も今日は聞こえなかった。

 そんな重苦しさ製造機と化していたボクにエリィも二言三言、茶化してきたけど答える余裕が精神的にも体力的にもなかったことから無視を決め込んでいたら、それっきり黙っていた。

 気が付いたら、朝になっていた。

「夢でうなされると思ったけど……
 案外そうでもなかったな。
 てか、あんな状況でも寝られるんだ、ボクは」

 夕食の後、オヤスミと言って階段を軋ませたところまでは覚えていたけど、その後の記憶がない。
 それでも、ベッドで横になって、朝陽がまぶたを叩いたことで目を覚ましたんだから、しっかりと寝ていたんだろう。
 人はそれを気絶というかもしれないけど。

 そんな状況でもお腹は空いていた。
 朝ごはんもうまかった。
 舌も、胃も正常に機能してる。

「とりあえず、なにかしなきゃ」

 手を動かせば、何かをしていればその間は感情の沈んだままでもなんとかなる気がして、依頼を受けようとボードの前に足を運んだ。
 その足取りは、映画のゾンビか何かのようだったかもしれない。
 目の前に一本の毛むくじゃらの腕が伸びてきた。
 右手だ。

「バンディ?」
「わるいな。
 今のイツキの状態を見るに、依頼を任せられはしない。
 それは、オメェ自身でわかってるな?」

 ボクは、至極もっともだと思って、異を唱えることもせずに首を縦に振ってこたえた。
 まるで糸の切れたマリオネットの首がカクンと落ちるように。

「あーあ。
 ホントにハブにされたわね。
 これからどーすんの?」

 エリィの言うとおりだった。
 依頼人を守れず、仲間に助けてもらい、自己をかえりみなかった。

「ちょっと、外に行ってくるよ」

 フラフラと、黒熊のコンクエスターたちの間を通って店の外へ出た。
 そこで店の壁に背を預けると、今度は全身を吊る糸が切れたようにボクという精神が操っていた糸繰人形はカクンと店の軒先に腰を落としてしまった。

 願わくば、この先ずっとここで雨ざらしになって朽ち果てていきたい気分でもあった。
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