15 / 111
第2話
066. 剣と魔法ってこんな感じなんだ15
しおりを挟む
その後、マイを家まで送り、彼女の表情を見た父親から怪訝な視線を向けられた。
マイは何でもないんだ、と繰り返すがその泣き腫らした目に説得力はなかった。
ボクが父親なら、その場でボクやハクに掴みかかっていたと思う。
「オレの娘に何しやがった!?」
そう、マイのお父さんの目が言っていたけど、彼はそれを手に命令はしなかった。
それが高潔さなのか、信頼なのか、それとも決別を意味していたのかまでは推し量れなかった。
ボクは別れ際に、マイになんども謝った。
ごめんね。ボクのせいで。
その言葉の「ボク」の部分をそっくり「アタイ」に差し替えて、言葉は返されてきた。
居た堪れなかった。
自分の未熟のせいで。
自分の驕りのせいで。
自分の虚栄のせいで。
その感情は言葉を発せないことで表されていた。
ボクと同じようにマイのお父さんに頭を下げて、それ以前にボクらの前に駆けつけて、ボクらを守ってくれたハクも、同じように黒熊への帰り道も、そのあとも暫く口を開かなかった。
きっとボクに向ける感情はボクのそれよりも、もっと暗いものだっただろう。
立腹。
焦燥。
失望。
そんな感情を向けられている事に、ボクのなかの精神状況を表すボクはどんどんと小さくなっていった。
普段が等身大だとすれば、ピクニックをしていた時はフゥの伸長と体格ほどはあった。
それが敵に襲われて、マグほどまでに縮んで、その後はどんどん頭の位置を低くしていった。ギヤノとキヤノのお婆さん達ほどまでに、犬よりも、猫よりも、手に乗るほどのネズミよりも、道端の小石よりも、一握りの砂利の一粒ほどまでも。
そのまま黒熊に戻って、バンディのご飯を食べて、アニーとマグは今日あったことを楽しげに話してくれたけど、それに対してボクが感情のこもっていない相槌を打ったことでそれ以降はそっとしてくれた。
決して彼女たちが悪いわけじゃないし、そっとしておいてくれる優しさを感じたのも事実だった。
あのデリカシーのないフゥですらもボクの表情を見たからか、ハクの白い肌に少し赤い汚れがついていたのを見つけたからなのか――いや、その両方だろう。
いつものハッッハハという笑い声も今日は聞こえなかった。
そんな重苦しさ製造機と化していたボクにエリィも二言三言、茶化してきたけど答える余裕が精神的にも体力的にもなかったことから無視を決め込んでいたら、それっきり黙っていた。
気が付いたら、朝になっていた。
「夢でうなされると思ったけど……
案外そうでもなかったな。
てか、あんな状況でも寝られるんだ、ボクは」
夕食の後、オヤスミと言って階段を軋ませたところまでは覚えていたけど、その後の記憶がない。
それでも、ベッドで横になって、朝陽がまぶたを叩いたことで目を覚ましたんだから、しっかりと寝ていたんだろう。
人はそれを気絶というかもしれないけど。
そんな状況でもお腹は空いていた。
朝ごはんもうまかった。
舌も、胃も正常に機能してる。
「とりあえず、なにかしなきゃ」
手を動かせば、何かをしていればその間は感情の沈んだままでもなんとかなる気がして、依頼を受けようとボードの前に足を運んだ。
その足取りは、映画のゾンビか何かのようだったかもしれない。
目の前に一本の毛むくじゃらの腕が伸びてきた。
右手だ。
「バンディ?」
「わるいな。
今のイツキの状態を見るに、依頼を任せられはしない。
それは、オメェ自身でわかってるな?」
ボクは、至極もっともだと思って、異を唱えることもせずに首を縦に振ってこたえた。
まるで糸の切れたマリオネットの首がカクンと落ちるように。
「あーあ。
ホントにハブにされたわね。
これからどーすんの?」
エリィの言うとおりだった。
依頼人を守れず、仲間に助けてもらい、自己を顧みなかった。
「ちょっと、外に行ってくるよ」
フラフラと、黒熊のコンクエスターたちの間を通って店の外へ出た。
そこで店の壁に背を預けると、今度は全身を吊る糸が切れたようにボクという精神が操っていた糸繰人形はカクンと店の軒先に腰を落としてしまった。
願わくば、この先ずっとここで雨ざらしになって朽ち果てていきたい気分でもあった。
マイは何でもないんだ、と繰り返すがその泣き腫らした目に説得力はなかった。
ボクが父親なら、その場でボクやハクに掴みかかっていたと思う。
「オレの娘に何しやがった!?」
そう、マイのお父さんの目が言っていたけど、彼はそれを手に命令はしなかった。
それが高潔さなのか、信頼なのか、それとも決別を意味していたのかまでは推し量れなかった。
ボクは別れ際に、マイになんども謝った。
ごめんね。ボクのせいで。
その言葉の「ボク」の部分をそっくり「アタイ」に差し替えて、言葉は返されてきた。
居た堪れなかった。
自分の未熟のせいで。
自分の驕りのせいで。
自分の虚栄のせいで。
その感情は言葉を発せないことで表されていた。
ボクと同じようにマイのお父さんに頭を下げて、それ以前にボクらの前に駆けつけて、ボクらを守ってくれたハクも、同じように黒熊への帰り道も、そのあとも暫く口を開かなかった。
きっとボクに向ける感情はボクのそれよりも、もっと暗いものだっただろう。
立腹。
焦燥。
失望。
そんな感情を向けられている事に、ボクのなかの精神状況を表すボクはどんどんと小さくなっていった。
普段が等身大だとすれば、ピクニックをしていた時はフゥの伸長と体格ほどはあった。
それが敵に襲われて、マグほどまでに縮んで、その後はどんどん頭の位置を低くしていった。ギヤノとキヤノのお婆さん達ほどまでに、犬よりも、猫よりも、手に乗るほどのネズミよりも、道端の小石よりも、一握りの砂利の一粒ほどまでも。
そのまま黒熊に戻って、バンディのご飯を食べて、アニーとマグは今日あったことを楽しげに話してくれたけど、それに対してボクが感情のこもっていない相槌を打ったことでそれ以降はそっとしてくれた。
決して彼女たちが悪いわけじゃないし、そっとしておいてくれる優しさを感じたのも事実だった。
あのデリカシーのないフゥですらもボクの表情を見たからか、ハクの白い肌に少し赤い汚れがついていたのを見つけたからなのか――いや、その両方だろう。
いつものハッッハハという笑い声も今日は聞こえなかった。
そんな重苦しさ製造機と化していたボクにエリィも二言三言、茶化してきたけど答える余裕が精神的にも体力的にもなかったことから無視を決め込んでいたら、それっきり黙っていた。
気が付いたら、朝になっていた。
「夢でうなされると思ったけど……
案外そうでもなかったな。
てか、あんな状況でも寝られるんだ、ボクは」
夕食の後、オヤスミと言って階段を軋ませたところまでは覚えていたけど、その後の記憶がない。
それでも、ベッドで横になって、朝陽がまぶたを叩いたことで目を覚ましたんだから、しっかりと寝ていたんだろう。
人はそれを気絶というかもしれないけど。
そんな状況でもお腹は空いていた。
朝ごはんもうまかった。
舌も、胃も正常に機能してる。
「とりあえず、なにかしなきゃ」
手を動かせば、何かをしていればその間は感情の沈んだままでもなんとかなる気がして、依頼を受けようとボードの前に足を運んだ。
その足取りは、映画のゾンビか何かのようだったかもしれない。
目の前に一本の毛むくじゃらの腕が伸びてきた。
右手だ。
「バンディ?」
「わるいな。
今のイツキの状態を見るに、依頼を任せられはしない。
それは、オメェ自身でわかってるな?」
ボクは、至極もっともだと思って、異を唱えることもせずに首を縦に振ってこたえた。
まるで糸の切れたマリオネットの首がカクンと落ちるように。
「あーあ。
ホントにハブにされたわね。
これからどーすんの?」
エリィの言うとおりだった。
依頼人を守れず、仲間に助けてもらい、自己を顧みなかった。
「ちょっと、外に行ってくるよ」
フラフラと、黒熊のコンクエスターたちの間を通って店の外へ出た。
そこで店の壁に背を預けると、今度は全身を吊る糸が切れたようにボクという精神が操っていた糸繰人形はカクンと店の軒先に腰を落としてしまった。
願わくば、この先ずっとここで雨ざらしになって朽ち果てていきたい気分でもあった。
5
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる