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第2話
064. 剣と魔法ってこんな感じなんだ13
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そんな平和を形作る日光浴を三十分ほど続けていた。
暖かな日差しと時折、頬を撫でる風を感じていると、その風に乗ってなんだか覚えのある生臭さを感じた。
「そうら、おいでなさったわよ」
エリィが大体こういう言い回しをするときは、今までもそうだったが決まって良くないお客さんが訪ねて来る時だった。
慌てて身を起こして、周囲を伺った。
「なんだぁ?
どうした?」
マイの心配に答えを返す余裕はなかった。
わかっている。
いま、この場にはボクとマイの二人しかいないんだ。
「ウチはー?」
見透かしたエリィが自分も頭数に入れろと要求してきたが、もとより誰にも干渉できない口だけ出してくる女神なんて、なんの当てにもならない。
「ダイジョウ……ブ……」
そう言い聞かせた相手はマイなのか、自分自身なのか。
それすらも分からないままに、腰に結わえていた警棒を右の手に握り絞めた。
現れたのは野犬の群れだった。
ラギとジャコと出かけたときにもいた、あの涎としっぽを隠しもしない犬の群れ。
「大丈夫、だから……」
そんなことはない。
さっきから嘘しか口にしていない。
「イツキさん……
あの犬……」
「静かに……
そのまま、立てる?」
静かに、というボクの指示に頭を小さく振ることでマイは返事をした。
ただその挙動は、明らかに恐怖に支配された震えをまとっていて、その感情をお客様方は敏感にとらえているようだった。
なにせ、その隣にいる依頼を受けたボクと、その足も、ガタガタと目の前の牙たちに感情表現をしているのだから。
おなかを空かせたお客様に、最大限のおもてなしを――
「そらっ!」
ボクは敷物の上にあったバスケットを左手で探り当てると、野犬の群れに向けて投げた。
野犬の群れのほんの目の前に落ちたバスケット。
中にはさっきの食べ残しのサンドイッチがいくつか残っているはずだった。
ぼさり、と地面に落ちたカゴの口からは目算どおり、食べかけのフルーツサンドがこぼれ出た。
「今だ!
野犬がアレを食べてる間に逃げ――!?」
マイの手を取って、駆けだそうとしたその時、目論見は大きく外れた。
「きゃあっ!」
なんと、エサに食らいつくと思っていた野犬の一匹が、真っ直ぐに向かってきたのだ。
前傾姿勢だったボクは思わず右手に握った警棒を振るった。
ガキィッ。
硬いものが木の肌に食い込む音と、続いてミシミシという繊維が痛がる悲鳴も聞こえた。
先頭にいた野犬が警棒に食らいつき、今まさに食いちぎろうとしているのだ。
「この、イヌ……
何で……」
わからなかった。
おなかを空かせていたはずなのに、近くに見えた食べ物ではなく、ボクらに向かって真っすぐに口を開いてきた。
「甘いものがキライだったのかねー」
エリィはそんなことを言うが、目の前の牙をどうにかマイに近寄らせまいと必死だったボクに相手をしている余裕はなかった。
「イツキさん!」
「マイちゃん、にげて!」
ボクが必死に守ろうとした意思を、野犬の黄ばんだ牙が警棒ごとへし折ってくれた。
勢いそのままに、仰向けで倒された。
「この、このっ!」
必死に野犬の接吻を拒んでいた。
野犬ももちろん、愛情を持ってのキスではないし、親愛の意味での顔を舐めようとしていたわけでもない。
単純に空腹を満たすためにの食欲からの行動だ。
抵抗は空しい。
両の手で必死に拒んで見せても、野生の動物に敵う膂力は持ち合わせていない。
手のひらも、顔も、もうすこしで飯にありつけるという喜びから流された野犬の唾液でべとべとだ。
「や、やめてよっ!」
マイが必死に野犬の頭を近くに転がっていたフルーツサンドの乗っていた皿で叩くが、数回目の殴打で見事に星屑となった。
暖かな日差しと時折、頬を撫でる風を感じていると、その風に乗ってなんだか覚えのある生臭さを感じた。
「そうら、おいでなさったわよ」
エリィが大体こういう言い回しをするときは、今までもそうだったが決まって良くないお客さんが訪ねて来る時だった。
慌てて身を起こして、周囲を伺った。
「なんだぁ?
どうした?」
マイの心配に答えを返す余裕はなかった。
わかっている。
いま、この場にはボクとマイの二人しかいないんだ。
「ウチはー?」
見透かしたエリィが自分も頭数に入れろと要求してきたが、もとより誰にも干渉できない口だけ出してくる女神なんて、なんの当てにもならない。
「ダイジョウ……ブ……」
そう言い聞かせた相手はマイなのか、自分自身なのか。
それすらも分からないままに、腰に結わえていた警棒を右の手に握り絞めた。
現れたのは野犬の群れだった。
ラギとジャコと出かけたときにもいた、あの涎としっぽを隠しもしない犬の群れ。
「大丈夫、だから……」
そんなことはない。
さっきから嘘しか口にしていない。
「イツキさん……
あの犬……」
「静かに……
そのまま、立てる?」
静かに、というボクの指示に頭を小さく振ることでマイは返事をした。
ただその挙動は、明らかに恐怖に支配された震えをまとっていて、その感情をお客様方は敏感にとらえているようだった。
なにせ、その隣にいる依頼を受けたボクと、その足も、ガタガタと目の前の牙たちに感情表現をしているのだから。
おなかを空かせたお客様に、最大限のおもてなしを――
「そらっ!」
ボクは敷物の上にあったバスケットを左手で探り当てると、野犬の群れに向けて投げた。
野犬の群れのほんの目の前に落ちたバスケット。
中にはさっきの食べ残しのサンドイッチがいくつか残っているはずだった。
ぼさり、と地面に落ちたカゴの口からは目算どおり、食べかけのフルーツサンドがこぼれ出た。
「今だ!
野犬がアレを食べてる間に逃げ――!?」
マイの手を取って、駆けだそうとしたその時、目論見は大きく外れた。
「きゃあっ!」
なんと、エサに食らいつくと思っていた野犬の一匹が、真っ直ぐに向かってきたのだ。
前傾姿勢だったボクは思わず右手に握った警棒を振るった。
ガキィッ。
硬いものが木の肌に食い込む音と、続いてミシミシという繊維が痛がる悲鳴も聞こえた。
先頭にいた野犬が警棒に食らいつき、今まさに食いちぎろうとしているのだ。
「この、イヌ……
何で……」
わからなかった。
おなかを空かせていたはずなのに、近くに見えた食べ物ではなく、ボクらに向かって真っすぐに口を開いてきた。
「甘いものがキライだったのかねー」
エリィはそんなことを言うが、目の前の牙をどうにかマイに近寄らせまいと必死だったボクに相手をしている余裕はなかった。
「イツキさん!」
「マイちゃん、にげて!」
ボクが必死に守ろうとした意思を、野犬の黄ばんだ牙が警棒ごとへし折ってくれた。
勢いそのままに、仰向けで倒された。
「この、このっ!」
必死に野犬の接吻を拒んでいた。
野犬ももちろん、愛情を持ってのキスではないし、親愛の意味での顔を舐めようとしていたわけでもない。
単純に空腹を満たすためにの食欲からの行動だ。
抵抗は空しい。
両の手で必死に拒んで見せても、野生の動物に敵う膂力は持ち合わせていない。
手のひらも、顔も、もうすこしで飯にありつけるという喜びから流された野犬の唾液でべとべとだ。
「や、やめてよっ!」
マイが必死に野犬の頭を近くに転がっていたフルーツサンドの乗っていた皿で叩くが、数回目の殴打で見事に星屑となった。
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