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第2話
063. 剣と魔法ってこんな感じなんだ12
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ボクが依頼だと思って伺った先は、街の外壁の外だった。
マイに促されるままに同行したのは少し切り立った崖の上で、そこからはソルトイルの街並みとはるか向こうに広がる平原、そしてその先に見える王の住むという城の影らしきものが見えた。
「いい眺めだろ?
アタイは仕事が終わるとここでゆっくりするのが大好きなんだ」
そういってマイは持ってきたバスケットの中身を広げだした。
いつだったか、マグがしたように敷物を広げ食べ物を取り出す。
「それで、休憩もいいけど今日は何の依頼なの?」
ボクはといえば、今日の依頼内容を確認もせずにここまで来たのだ。
バンディには、
「彼女の依頼はボクが受けますから!」
と、胸を張って出てきた。
大丈夫か?という黒い熊の心配と、それとはまた別の心配を抱いていそうなレナールの表情を今でも覚えている。
そして、何かの護衛と思って先日手に入れたばかりの、木で出来た簡単な作りの警棒を腰に結わえて、あたりを伺っていた。
「一応、敵とか獣はいないみたいだけど……」
「イツキさん。
座っとくれよ」
依頼主に促されるままに、敷物の上に腰を下ろす。
どうぞ、と差し出された白い皿の上には見覚えのあるフルーツサンドがあった。
「ありがと」
ただし、目の前にあるのは朝食べたそれとは少し違い、小ぶりで一口大にカットされていて、なおかつパンとフルーツの間に白いクリームが塗られていた。
「美味しいなぁ」
「うん。
朝食べたのとは違うけど、なんだろうね。
甘酸っぱいクリームで挟まれてるから、スイーツみたいだ」
「こらぁ、きっとヨーグルトじゃないか?」
言われて気が付いた。
酸味も、甘味も、朝食で味わったソレだ。
「水切りしたヨーグルトにはちみつと……果実をつけたシロップで味付けしたクリームだ。
同じ材料のものを食べてるはずなのに、気が付かなかったよ」
同じものでも、見方や切り方を変えるだけでこうも違うとは。
自分の中で、はたと気が付いた。
「そういえば、今日のマイちゃんは少し、違うね」
仕事だ、依頼だと気を高ぶらせていたボクの目にはその時に映らなかった、マイと言う少女の以前の記憶の姿と、今の姿の違い。
そして、それの意味するところ。
「もしかして、今日は……遊びに誘ってくれたの?」
目の前の少女は、ボクではなく澄んだ青空に向かって話しかけてきた。
「そうだぁ。
この前の依頼の時、イツキさんが牛乳を買ってくれただろ?
その日は少し贅沢が出来たんだ。
贅沢って言っても、夕ご飯に買っていった塩漬けのハムが3切とおっ父ぉが少し、エールを飲めたくらいなんだけどな」
「そうだったんだ」
「今日はおっ父も具合が良くなったんで、すこし暇な時間を貰ったんだ。
そんで、どうしてもイツキさんにお礼が言いたいっておもったら、こんな格好しちまってな。似合わなかっただろ?」
ボクはブンブンと全力で首を横に振った。
おかげで少しめまいを覚えたくらいだ。
「おっ父には黙ってきたんだ。
一人で遊びに出たと思っとるはずだ。
でも、受付のレナールさんは気が付いてたみたいで。
アタイがイツキさんを誘おうと思ったら、イツキさんは依頼だと思ってくれたから
『それなら、依頼としてイツキ君を連れだせばいいんです』って」
「レナールさんが椅子と飲み物をわざわざボクの分まで用意したのはそういう……
ごめんね、早とちりしちゃって」
「いいんだ。
毎日野良仕事ばっかりで、友達もいなかったから、イツキさんみたいなカッコイイ人と、こうして二人っきりで遊びに出掛けられたんだから、いうことねぇよ」
そういって、青空を舞台に高らかにポーズを決めている太陽に負けないくらいのとびっきりの笑顔で、マイは手にしたサンドイッチをほおばった。
陽に焼けて、健康的な肌とその上のそばかすまでもが本心から喜んでいるようだった。
「ボクも、女の子と二人でお出かけなんて……
今までの人生でなかったからさ。
言う事って言うか、言い表すことも出来ないね。
この、青空の下でのピクニックっていうのは」
本心だった。
そして、伸びをした勢いで敷物の上に寝転がると、青い青い空に白い雲が漂い、赤いおさげが揺れているのが見えた。
「あぁ、こういうのが平和で幸せっていうんだろうな」
「そーねー。
野暮でもあり、どんくさいとも言うわね」
エリィが水を差すのはいつもの事なので、深く意味は考えずハイハイとあしらっていた。
傍らでは、マイも優しく降り注ぐ陽の光に目を細めていたように見えた。
マイに促されるままに同行したのは少し切り立った崖の上で、そこからはソルトイルの街並みとはるか向こうに広がる平原、そしてその先に見える王の住むという城の影らしきものが見えた。
「いい眺めだろ?
アタイは仕事が終わるとここでゆっくりするのが大好きなんだ」
そういってマイは持ってきたバスケットの中身を広げだした。
いつだったか、マグがしたように敷物を広げ食べ物を取り出す。
「それで、休憩もいいけど今日は何の依頼なの?」
ボクはといえば、今日の依頼内容を確認もせずにここまで来たのだ。
バンディには、
「彼女の依頼はボクが受けますから!」
と、胸を張って出てきた。
大丈夫か?という黒い熊の心配と、それとはまた別の心配を抱いていそうなレナールの表情を今でも覚えている。
そして、何かの護衛と思って先日手に入れたばかりの、木で出来た簡単な作りの警棒を腰に結わえて、あたりを伺っていた。
「一応、敵とか獣はいないみたいだけど……」
「イツキさん。
座っとくれよ」
依頼主に促されるままに、敷物の上に腰を下ろす。
どうぞ、と差し出された白い皿の上には見覚えのあるフルーツサンドがあった。
「ありがと」
ただし、目の前にあるのは朝食べたそれとは少し違い、小ぶりで一口大にカットされていて、なおかつパンとフルーツの間に白いクリームが塗られていた。
「美味しいなぁ」
「うん。
朝食べたのとは違うけど、なんだろうね。
甘酸っぱいクリームで挟まれてるから、スイーツみたいだ」
「こらぁ、きっとヨーグルトじゃないか?」
言われて気が付いた。
酸味も、甘味も、朝食で味わったソレだ。
「水切りしたヨーグルトにはちみつと……果実をつけたシロップで味付けしたクリームだ。
同じ材料のものを食べてるはずなのに、気が付かなかったよ」
同じものでも、見方や切り方を変えるだけでこうも違うとは。
自分の中で、はたと気が付いた。
「そういえば、今日のマイちゃんは少し、違うね」
仕事だ、依頼だと気を高ぶらせていたボクの目にはその時に映らなかった、マイと言う少女の以前の記憶の姿と、今の姿の違い。
そして、それの意味するところ。
「もしかして、今日は……遊びに誘ってくれたの?」
目の前の少女は、ボクではなく澄んだ青空に向かって話しかけてきた。
「そうだぁ。
この前の依頼の時、イツキさんが牛乳を買ってくれただろ?
その日は少し贅沢が出来たんだ。
贅沢って言っても、夕ご飯に買っていった塩漬けのハムが3切とおっ父ぉが少し、エールを飲めたくらいなんだけどな」
「そうだったんだ」
「今日はおっ父も具合が良くなったんで、すこし暇な時間を貰ったんだ。
そんで、どうしてもイツキさんにお礼が言いたいっておもったら、こんな格好しちまってな。似合わなかっただろ?」
ボクはブンブンと全力で首を横に振った。
おかげで少しめまいを覚えたくらいだ。
「おっ父には黙ってきたんだ。
一人で遊びに出たと思っとるはずだ。
でも、受付のレナールさんは気が付いてたみたいで。
アタイがイツキさんを誘おうと思ったら、イツキさんは依頼だと思ってくれたから
『それなら、依頼としてイツキ君を連れだせばいいんです』って」
「レナールさんが椅子と飲み物をわざわざボクの分まで用意したのはそういう……
ごめんね、早とちりしちゃって」
「いいんだ。
毎日野良仕事ばっかりで、友達もいなかったから、イツキさんみたいなカッコイイ人と、こうして二人っきりで遊びに出掛けられたんだから、いうことねぇよ」
そういって、青空を舞台に高らかにポーズを決めている太陽に負けないくらいのとびっきりの笑顔で、マイは手にしたサンドイッチをほおばった。
陽に焼けて、健康的な肌とその上のそばかすまでもが本心から喜んでいるようだった。
「ボクも、女の子と二人でお出かけなんて……
今までの人生でなかったからさ。
言う事って言うか、言い表すことも出来ないね。
この、青空の下でのピクニックっていうのは」
本心だった。
そして、伸びをした勢いで敷物の上に寝転がると、青い青い空に白い雲が漂い、赤いおさげが揺れているのが見えた。
「あぁ、こういうのが平和で幸せっていうんだろうな」
「そーねー。
野暮でもあり、どんくさいとも言うわね」
エリィが水を差すのはいつもの事なので、深く意味は考えずハイハイとあしらっていた。
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