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第2話
055. 剣と魔法ってこんな感じなんだ4
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もう謝って許してもらおうと思ったその時だった。
「痛ぇ!」
声を上げたのは小柄な男だった。
見るとボクの襟をつかもうとしていた右手を押さえている。
目を向けたのはその隣にいた女も同じだった。
「ど、どうしたの?」
「この……!」
歯切れの悪い派手な男の視線の先はカウンターの上。
そこに立つ、二人の老女に向かっていた。
「おばあさん……?」
「ふん、若造がっ。
さっきから偉そうに言うじゃないか」
「ホントだよ。
知らないこと自体は仕方ないが、その性根は頂けないね」
二人はカウンターの上に立ってみても、4~5歳の子どもほどの身長だが、その体躯に見合わぬ貫禄と、鋭い眼光を目の前の若者に向けていた。
手にはそれぞれ、さっきボクに薦めていたショートソードと盾を持っている。
構えと若者の様子から察するに、その剣の血流しや樋(ひ)といわれる溝の部分と盾の側面でボクに向かった手を弾いてくれたようだった。
「なにすんだこのババ――!」
言うが早いか、小柄な男は太い腕を突き出して、両手で銀色の方のおばあさんに突っ込んだ。
「危ない!」
「ファッファッ。
坊ちゃん、心配いらんよ」
そういっておばあさんは男と両手をそれぞれ握り合い、正面から力で対抗している。
いわゆるプロレスラーが力比べをする手四つの態勢だ。
ぎゃああ!
先に悲鳴を上げたのは男の方だった。
明らかに自分よりも年上で、小柄で、力の無さそうな老女相手に負けているのだ。
「おやおや、鍛え方が足りんね」
銀のおばあさんはいつの間にか手に、金属製の手甲をはめている。
鈍色に光る手甲がゴツゴツとした造りの下から込められる力に合わせて軋むたびに、男のひげモジャの口から苦悶の声が漏れる。
「ちょっとちょっとぉ!?」
「アンタの相手はアタシだよ」
この事態に慌てた女は腰に手を伸ばして杖を手に取った。
恐らく身なりと装備からしてヤオをつかった術師のようだが、そのヤオが光ることはなかった。
構えた瞬間に、その木製の杖は先端から等間隔で細切れになり、そのまま床に落ちていった。そして杖だったものが散らばる足元には金の髪のおばあさんがショートソードを鞘に納めている姿があった。
「抜いたら即、撃たなきゃね。
人に向けたんだから、斬られても文句をお言いでないよ」
パチン、とショートソードの鍔が音を立てて、鞘に収まりきったころには女はその場に座り込んでしまっていた。
「す、すごい……」
ボクがあっという間の出来事に見とれていると、残った派手な男が腰の剣に手をかけていた。
「この、クソババアどもっ!
いい加減にしねぇと――」
そこまで言いかけて、青い派手な男は店の外に放り出された。
薄桃色のマフラーがひらひらとはためいていた。
ぐわぁ!
ドアが乱暴に開くと、ゴルド・ストリートの通りには三人の若者が無様な格好で転がっていた。
「あの小柄な男を投げ飛ばして、そのまま三人を――
おばあさん、大丈夫?」
「なぁに。
このくらいなら」
銀のおばあさんが、ガントレットをガシャリと鳴らして力こぶを作って見せてくれた。
その年齢には似合わない力こぶが山を作り、腕力を物語っていた。
金のおばあさんが再度、剣を握る。
スラリと抜き放った切っ先を三人に向けて叫んだ。
「アンタらに売ってやる武具は無いよ。
二度とウチの店の敷居をまたぐんじゃないね!」
三人はその剣幕に恐れをなして、ヒィヒィと声を漏らしながら大通りを逃げて行った。
「ファッファッ。
いい気味だね」
「あぁ、若いってのは良いもんだが、ああいう輩ばっかりじゃあ困っちまう。
その点、坊ちゃん。
アンタが声を上げたときの面構え、ホレちまいそうだったよ」
おばあさんは最初の置物の様な印象とは全く違う、歴戦のツワモノといった顔だった。
「ありがとうございます。
あの時は、なんだか夢中で……
自分の思ったことを言っちゃってました」
二人のおばあさんは、しわのよった顔をさらにクシャリと笑って見せた。
「黙っていられない時に、声をあげられるのは、大事なことだよ」
「坊ちゃん、まだ何を手に取るか迷ってるんならそれでもいい。
よく考えて、気持ちが固まったらまたおいで」
ハイ!
ボクは背筋を伸ばして、人生の先輩方の声に返事をした。
「痛ぇ!」
声を上げたのは小柄な男だった。
見るとボクの襟をつかもうとしていた右手を押さえている。
目を向けたのはその隣にいた女も同じだった。
「ど、どうしたの?」
「この……!」
歯切れの悪い派手な男の視線の先はカウンターの上。
そこに立つ、二人の老女に向かっていた。
「おばあさん……?」
「ふん、若造がっ。
さっきから偉そうに言うじゃないか」
「ホントだよ。
知らないこと自体は仕方ないが、その性根は頂けないね」
二人はカウンターの上に立ってみても、4~5歳の子どもほどの身長だが、その体躯に見合わぬ貫禄と、鋭い眼光を目の前の若者に向けていた。
手にはそれぞれ、さっきボクに薦めていたショートソードと盾を持っている。
構えと若者の様子から察するに、その剣の血流しや樋(ひ)といわれる溝の部分と盾の側面でボクに向かった手を弾いてくれたようだった。
「なにすんだこのババ――!」
言うが早いか、小柄な男は太い腕を突き出して、両手で銀色の方のおばあさんに突っ込んだ。
「危ない!」
「ファッファッ。
坊ちゃん、心配いらんよ」
そういっておばあさんは男と両手をそれぞれ握り合い、正面から力で対抗している。
いわゆるプロレスラーが力比べをする手四つの態勢だ。
ぎゃああ!
先に悲鳴を上げたのは男の方だった。
明らかに自分よりも年上で、小柄で、力の無さそうな老女相手に負けているのだ。
「おやおや、鍛え方が足りんね」
銀のおばあさんはいつの間にか手に、金属製の手甲をはめている。
鈍色に光る手甲がゴツゴツとした造りの下から込められる力に合わせて軋むたびに、男のひげモジャの口から苦悶の声が漏れる。
「ちょっとちょっとぉ!?」
「アンタの相手はアタシだよ」
この事態に慌てた女は腰に手を伸ばして杖を手に取った。
恐らく身なりと装備からしてヤオをつかった術師のようだが、そのヤオが光ることはなかった。
構えた瞬間に、その木製の杖は先端から等間隔で細切れになり、そのまま床に落ちていった。そして杖だったものが散らばる足元には金の髪のおばあさんがショートソードを鞘に納めている姿があった。
「抜いたら即、撃たなきゃね。
人に向けたんだから、斬られても文句をお言いでないよ」
パチン、とショートソードの鍔が音を立てて、鞘に収まりきったころには女はその場に座り込んでしまっていた。
「す、すごい……」
ボクがあっという間の出来事に見とれていると、残った派手な男が腰の剣に手をかけていた。
「この、クソババアどもっ!
いい加減にしねぇと――」
そこまで言いかけて、青い派手な男は店の外に放り出された。
薄桃色のマフラーがひらひらとはためいていた。
ぐわぁ!
ドアが乱暴に開くと、ゴルド・ストリートの通りには三人の若者が無様な格好で転がっていた。
「あの小柄な男を投げ飛ばして、そのまま三人を――
おばあさん、大丈夫?」
「なぁに。
このくらいなら」
銀のおばあさんが、ガントレットをガシャリと鳴らして力こぶを作って見せてくれた。
その年齢には似合わない力こぶが山を作り、腕力を物語っていた。
金のおばあさんが再度、剣を握る。
スラリと抜き放った切っ先を三人に向けて叫んだ。
「アンタらに売ってやる武具は無いよ。
二度とウチの店の敷居をまたぐんじゃないね!」
三人はその剣幕に恐れをなして、ヒィヒィと声を漏らしながら大通りを逃げて行った。
「ファッファッ。
いい気味だね」
「あぁ、若いってのは良いもんだが、ああいう輩ばっかりじゃあ困っちまう。
その点、坊ちゃん。
アンタが声を上げたときの面構え、ホレちまいそうだったよ」
おばあさんは最初の置物の様な印象とは全く違う、歴戦のツワモノといった顔だった。
「ありがとうございます。
あの時は、なんだか夢中で……
自分の思ったことを言っちゃってました」
二人のおばあさんは、しわのよった顔をさらにクシャリと笑って見せた。
「黙っていられない時に、声をあげられるのは、大事なことだよ」
「坊ちゃん、まだ何を手に取るか迷ってるんならそれでもいい。
よく考えて、気持ちが固まったらまたおいで」
ハイ!
ボクは背筋を伸ばして、人生の先輩方の声に返事をした。
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