職業・「観客」ゥ!?

花山オリヴィエ

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第1話

050. 初めての街です19

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 ジャコは相変わらず、背を丸めて草を見つめていた。
 そして頭をあげてボクが近づいたのを確認すると、二本の後ろ脚で立ち上がってボクの耳を引っ張った。

 イタタ

 思わず声をあげると、その肉球で口を抑えられた。

「アンタ、アタマに枯草でも詰めてるのかい?」

 その緑の目の黒く縁取りされた瞳はネコ科の動物が威嚇するかのように細く絞られていた。
 
 ドキリと、命の危険を感じて心臓が締め付けられた。

「年齢や体格、外見に対してとやかく言うんじゃないよっ」

 ボクの耳を突きさすには十分で、ラギには聞こえない声量で、ジャコはボクに怒りを向けた。
 
「誰であっても、年恰好について言うもんじゃない。
 それでいい気分がするのかい?
 持って生まれて、自分ではどうすることも出来ないことは特に気を付けるもんだよ」

 正論だった。

 ラギにしてみれば、ボクから出し抜けに年齢の事を聞かれればいい気分はしなかっただろう。
 彼女の年齢に見合わぬ体格も、今までそう言った好奇の目にさらされてきたことは想像できる。
 そしてソレがどんなにうとましかったかも。

「ゴメン……なさい……」
「ふん。
 あの子が、今までどんな人生を送ってきたか……
 アンタには分からないだろうし、言うつもりもないよ」

 ここでようやく、ジャコがボクの右の耳を解放した。

 ひりひりとした皮膚の痛みよりも、自分自身への呵責かしゃくの気持ちが胸をチクチクとさせていた。

「おーい、ふたりともー。
 こっちは終わりましたよー」

 数メートル先でブンブンと手を振っているラギ。
 ジャコもこれに答える。

「こっちも終わったよ。
 かえろっかー」

 そして、黒猫は背に採集した薬草の入ったカゴを背負うと少女の方へ歩いて行った。
 その尻尾が「だまってついてこい」と言いたげに、揺れていた。

「うん……」

 ボクは聞こえてもいない黒い尻尾の語り掛けに小さく返事をした。
 自分がひどくちっぽけな存在に思えてならなかった。
 人の容姿や年齢に色眼鏡をかけて、ラギのかわいい笑顔にどんな表情を向けていたのか。
 そう思うと、そのまま虫けらのように小さく縮んで、草の葉でも齧って生きていけばいいのだとすら思った。

「ほら、ドジ踏むのは今に始まったことじゃないでしょ。
 うじうじしてないでやることやりなよ」

 エリィの言葉に返す言葉もない。
 だって虫相応なんだから。

 そんな風に自己嫌悪にさいなまれていると、なんだか、音がしたような気がした。
 それまで聞いたことのない、例えるなら……

うなり声が、する……」
「なんだって?」

 ボクのつぶやきに、ジャコが振り向いた。

「ちょっと、アンタ今なんて?」
「いや、なんでもないんだ。
 ただ、何か動物が唸っているような、それも一匹二匹じゃないような数が――!?」

 そこまで話すと、ジャコがいきなりボクの頭を下方へ押し込んだ。
 危うく、ボクの鼻先が自分の膝に突っ込んでいくような勢いで。

「なにするんだよ!」
「いいから黙って!」

 ボクと一緒に身をかがめるジャコとラギ。
 事態が理解できなかったが、その頭上で浮いていたエリィには、お客様の来訪が分かったようだった。

「野犬の群れのごあんな~い」

 ウォンッ!

 ぶち模様の一匹が吠えると、ボクら三人の周りを取り囲むように牙をむく野犬たちが一斉に吠え始めた。

「なにを、怒ってるのかな……」
「ゴハンの催促をしてるのよ。
 腹ペコみたいだね」
「ボクら、そんなに食べ物持ってたっけ?」
「あるじゃない。
 ここに、三人分の生きた骨付き肉の塊が」

 トン!
 トン!!
 トン!!!

 一瞬、ボクら三人の姿が、服を着たマンガ表現によくある骨付き肉に見えた。
 それも丁寧にお皿の上に載ったごちそうそのものだ。

「やだよー」
「オレもまっぴら御免だ」

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