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第1話

042. 初めての街です11

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「おーい、そのエールの瓶はこっちだ」
「はーい」

 中年男性の呼びかけに返事を返すボクは今、労働の真っただ中です。

「イツキー
 りんご酒はそこでいいのだー」
「は、はーい!」

 アニーも指示をしてくれてるけど、この液体の入った瓶ってのは重くて重くて……
 さっきから瓶が何本も入った木製の箱を荷台から降ろして店内やその裏口に運んだりってのを何往復もしてる。

「こっちも手伝ってくれー」
「わかりましたー!」

 ボクとアニーは依頼のあった『酒場への納品』をしている。

「酒問屋さんから酒場までお酒の瓶を運ぶ仕事なのだ。
 一緒にどうかな?」

 アニーに黒熊で誘われたので、よく考えてから引き受けた。

「街中ならイノシシみたいに獣には出くわさないだろうし、マグでもあれくらい頼りになったんだから、アニーならもっと大丈夫だよね」
「だといいわねー」

 フヨフヨと浮かぶ金髪の中の青いメッシュが意地悪くキラリと光った気がしたけれど、いちいち相手にしてたらキリがないのでほおっておいた。

「ほぉら、やっぱり重労働で後悔してるじゃない」
「いいの。
 これが、だれかの、役に立つんだから……」
「わかってるわ。
 アニーと一緒に居たかったから引き受けたんでしょ」
「そ、そんなことないよっ」

 ガシャンッ。

 疲れとエリィへの苛立ちで空瓶の入った箱を荷台に乗せた際に若干、音が立ってしまった。
「ここは大通りに面した人気の酒場『リトル・ニュー』
 昼過ぎから営業する大衆酒場で、様々な人が集まるのだ。
 営業が始まるまでに納品を終わらせて、使い終わった瓶を返却するのが依頼なのだけれど、イツキ? 空瓶も大事に扱うのだ」

 ボクがやっとの思いで抱えてきた空瓶の箱を二段重ねで運んできたアニーが、ボクとは違って、文字通り「ワレモノ」を扱う優しさで荷台に置いて言った。

「瓶は洗って、また何度でも使うから、傷がついたり割れたりしたら大変なのだ」
「うん、気を付けるよ」

 雑な仕事をやさしく注意され、しおらしくなると同時に、自分自身に腹が立った。
 確かに、アニーに誘ってもらって嬉しかったのは事実だ。
 マグの時と同じで、色んなことが体験できると思ったからだ。

「でも、それだけなのかな」

 自分の胸に問い合わせてみても、答えは返ってこない。

「おおーい、こっちに来てくれ!」

 店の裏口からまたも酒場の店主の男性から声がかかる。

「今行くのだー!
 イツキも行こう」

 アニーは快活に応答し、また元気に向かっていった。

「ボクも――!」

 店の裏に回るために通りから一本、細い路地に入ろうとしたその時だった。
 ドンッ。

 何かにぶつかった衝撃で、しりもちをついてしまった。

「いたた……」

 転んだままずれたメガネの位置を直していると、手が差し出された。
 アニーとぶつかってしまったが彼女の方は無事だったのだと思った。
 ありがとう、と言いながらその手を握ると、不意に腕を力任せに引っ張られた。

「オィ、ガキィ……
 他人にぶつかっておいてアリガトウってなんだよ」

 そこには、見覚えのある笑顔のステキな美少女、アニーはいなかった。

「あ、どうも……」

 代わりに、いかにも真っ当ではない風体をした若い男性達が立っていた。
 ボクの手首、腕、肩をそれぞれがしっかりと力を込めて押さえる形で。

「ドウモ?
 どうも、なんだよ……
 まずはゴメンナサイじゃないのかぁ?」

 正面の脂っぽい長髪を左右に分けた男がねっとりとした言い方で謝罪を求めてきた。

「ご、ごめんなさい」

 言われるままに口にした。
 
「できるじゃねぇか。
 ニンゲン、ワルイ事をしたらあやまらなくっちゃ、なぁ?」

 長髪の男は後ろにいる短髪のピアスの男に振り向く。
 ピアスを耳にした男はタヌキを思わせる目の周りのクマと肉付きのいい頬を揺らして、声を合わせてきた。

「そうだよな。
 あやまるのは大事。
 そんで、大事なのはキモチだよな」

 うんうん、と合図もないのに首を振るタイミングが一緒になる二人。
 この時点で既に、大通りからは見えないように路地の奥に引き込まれていた。

「気持ち、大事ですよね。
 すみませんでした。
 じゃあ、これで……」

 関わり合いにはなりたくなかった。
 こういう人たちとは今までの人生でも接点を持たないように生きてきたつもりだった。
 だって、単純にイヤだもん。

「待ちなって……
 キモチが大事ってわかってるんなら……
 なぁ?
 その辺りもワカるんだろう?」

 察した。
 この人たちは、ボクに金銭を要求しているのだと。

「あら~。
 めんどくさいのに絡まれちゃったわね~」

 タヌキ顔の男の頭の上に胡坐をかく形でエリィも絡んできた。

「な、なんのことだか……
 それじゃあ、仕事がありますんで……」
「だから、待てってっ。
 言わなきゃわからねぇか?
 有り金全部で話はおしまいだ。
 簡単だろう?」
「やっぱりそうなります?
 でも、本当にボク、お金は持ってなくって――ムグっ!?」
 
 言い終える前に、三人目の男がごつごつとした大きな手でボクの口を押さえつけてきた。
 頭部に髪がないのが剃っているからかどうかは分からないけど、腕を見るだけでも全体の筋肉量が多いのは明らかだった。
 筋繊維の盛り上がった手は遠慮なく口どころか鼻すらも塞いできている。

「さっさと、出せよ……
 死にたいのか?」

 手は非情を現したように冷たく、硬い。
 そして、首筋に冷たい金属が当たっているのが感触で分かった。

「俺を怒らせると、俺のナイフも怒りっぽくなるんだぜ……」

 あまり、怒らせたい三人と一本じゃないなぁ~。
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