上 下
33 / 111
第1話

040. 初めての街です9

しおりを挟む
「イツキー。
 今日はマグのお手伝いしてー」

 朝ご飯のおかずはスクランブルエッグ。
 バンディお手製の半熟でトロっとしながらも、しっかりとスプーンですくえる硬さのタマゴを、マグは取り皿に分けて、申し出と共に渡してくれた。
 あまりにも自然な流れに、疑うこともなくそのまま口に流し込みながら頷いた。
 
「ぢゃあ、ご飯が終わったらすぐに支度するね」
「うん。
 でも、なにするの?」
「ちょっとソコまで♪」

 ボクよりも早くスクランブルエッグとパンを食べ終えると、牛乳を飲み干してマグはさっさと支度をしに部屋に戻ってしまった。

「どこ行くんだろう」
「ついていけばいいんだよ」
「でも、フゥさん?
 マグちゃんと二人じゃ、もし魔物かなにかに襲われたら……」
「そんなもん、オマエが戦え」
「そんな~」

 フゥの無責任な言い方に泣き言を言っていると、アニーも食事を終えて席を立った。

「マグもああ見えて一人前のコンクエスターなのだ。
 心配はいらないのだ」
「そうだな。
 イツキこそ足引っ張るんじゃねぇぞ?」
「もう、好き勝手言うんだから……」

 ブツブツ言いながら、パンの最後の一かけらをかじっていると背もたれのない椅子に座っていたボクの背中に勢いのある小さな手が当たった。

「さぁ、行こうか!」
「もう!?
 ちょっとまって……」

 慌てて残りを口に収めて、牛乳で流し込んだ。

「今日は何をするの?」
「薬草摘みだよっ」


        ◇ ◇ ◇


 しばらくマグについて歩いていった。

「楽しそうだね」
「うん、お天気もいいし。
 お茶の用意もして、お弁当も作ってもらったし♪」
「それじゃピクニックみたいだね」
「ちゃんと依頼を受けたお仕事にいくんだよー」

 プンプン、と口で言って見せたマグはこちらに向き直って楽しそうな笑顔を見せた。
 大通りを通って、昨日と同じように山側の門をくぐる。
 子どもらしい動作がいちいちかわいい。

「なに?
 そういう趣味?」

 エリィは無視しよう。
 マグのかわいさだけがここにある純粋無垢じゅんすいむくな芸術だ。


「たしか、この丘を越えると昨日の牧場だったよな。
 こっちなの?」
「もうちょっと先だよ。
 向こうの草原に生えている薬草を摘みに行くの」

 さらに歩くと、丘をもう一つ越えた先に黄緑色の草原が広がっていた。
 それこそ学校のグラウンドほどはある平地に足首ほどの背丈の草が生えており、点々と様々な色の花が咲いている。

「ぢゃあー、こうしてー、こうだよー」

 マグはその場に膝をついて無造作にブチブチと草を引っこ抜いていた。

「こう?」

 しゃがみこんでよく目を凝らすが全部同じに見える。
 見よう見まねでやってみる。
 どれが薬草なのか分からなかったので、勘だ。

「えっと、そうじゃなくって。
 その手に取ってる草の、さきっぽの柔らかいところだけをプチって」

 マグの手元を注意してみると、ほんの指の関節一つ分ほどの長さを色の淡い新芽だけ摘み取っていた。
 ボクも膝をついて、一本ずつ丁寧に見て、触って、選別してから摘み取ったモノをマグに見せた。

「これかな?」
「そうだよー。
 そうやって、親指と人差し指で……
 ウンウン。
 上手だねっ」

 黙々と作業を続けた。
 晴れやかな日差しと頬を撫でる風が気持ちいい。

「あ~~~……
 腰が……」

 上半身を起こして背を伸ばす。

「疲れたー?」
「普段、こんなことしないから、背筋が……」
「お茶にしよっか」

 マグは持ってきた編み込みのバスケットから金属製のケトルやティーセットを取り出し、てきぱきと準備を始めた。
 すでに二人が座るには十分な大きさの敷物が草の上に広げられ、ボクはそこに腰を下ろして彼女を見ていた。

「ちょっとだけ、お願いね」

 マグがつぶやくと、例のヤオの粒が瞬き、即席のかまどに火が付いた。
 そこで湯を沸かしている間に、サンドイッチの包みを広げる。

「はい、オヤジさんが作ってくれたんだよ」
「バンディさんってなんでも作るんだね」
「すごいでしょー」

 朝と同じ小ぶりの丸パンに葉野菜とチーズが挟まった、まさにピクニックにピッタリなサンドイッチだ。

「いただきます」

 噛り付くと、食べ飽きない、素っ気なさすら感じたパンに野菜のシャキシャキ感とチーズの塩気が絶妙だった。

「どうぞー」

 マグが渡してくれたティーカップに注がれたお茶も、湯気が立ち、優しい香りのするスッキリとした味わいだった。
 温度と水分が疲れた体を更に癒してくれた。

「おいしいね♪」
「うん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!

電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。 しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。 「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」 朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。 そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる! ――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。 そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。 二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...