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第1話
037. 初めての街です6
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あれから……
あの惨劇から数時間後の話です。
「わかった。
わかったから。
つまりだ、イツキ。
オメェが言いたかったのは単純に、一緒に仕事や生活をして生き方やらなんやらを教えてくれってことだったんだろ?」
「最初からそう言ってたよ!」
バンディは昼食を終えて、小指で耳を掻きながら面倒そうにまとめた。
「ボクのありったけの勇気をみんなで笑いものにして……」
「ごめんよー。
でも、そういう愛の形があってもいいと思うのだ」
「そうだよ。
それだけイツキの本気がホンキだったってことでしょ」
アニーとマグがそれぞれ席を立ちながらボクに浴びせた言葉は、なんのフォローにもなっていなかった。
「それって慰めてるつもり?」
「なんであってもだ。
イツキがここ、黒熊で仕事をする気になったってんだから、もちろんオレたちも手伝ってやればいいんだロ?」
「その語尾のアクセントに誠意を感じられない。
面白がってるでしょ」
木の楊枝を咥えながら白い犬歯を見せるフゥ。
ニッと笑った顔がいかにも楽しんでいそうだったからだ。
「それじゃあ……」
そういって隣に座っていたハクが立ち上がった。
ゆっくりとした動作だったが、逆にそれが続く言葉に重みをもたせていた。
「今まで以上に、危ないことも、命を懸けなきゃならないこともある。
それでも、やるのね?」
ハクの銀色をちりばめた氷色の瞳がボクの目を見ていた。
ボクはメガネのレンズ越しにしっかりとその瞳を見返した。
「うん!」
◇ ◇ ◇
「うん?」
今ボクは、歩いています。
ソルトイルの街の大通りを。
ボロボロの荷車に山盛りの草?を載せて。
「なんで、こんなことに?」
手入れのされていない木製の荷車の片側に手をかけて進めると、石畳の凹凸の一つ一つに車輪がガタガタとうなっている。
車輪が上下すると荷車に載っている縛られてブロック状の干し草も揺れるので、結構な頻度で上からそのくずが数本ずつぱらぱらとこぼれてくる。
そしてその数本がボクや反対側にいるハクにも当然降りかかってくる。
「『荷運び』の依頼よ。
急ぎの仕事があったから引き受けたの」
「それは、見ればわかるし、やってるからよくわかるけど……
ハクが言ってた『危ないこと、命を懸けなきゃならないこと』ってこういうこと?」
「そうよ。
荷車が転んだら、商品の牧草は集めるのが大変だから『危ない』わ。
それに依頼を受けた以上、全力で『命を懸ける』つもりでやらなきゃ、依頼主に申し訳ないじゃない」
「そうなんだけどね」
とても正論です。ハイ。
「最初の仕事が農家のお手伝いねー。
いいじゃない。
さすが剣と魔法の世界よねー」
干し草の上で優雅に青空を見上げるエリィ。
「そのまま干し草まみれになってていいよ」
「いやぁ~、ゴメンなぁ~」
いつものようにエリィに毒づいたつもりだった。
先頭に立って荷車の前に突き出た長い棒状の囲いを引っ張っていた、背の低い農夫が不意に返事をしてきた。
「いつもはおっ父と一緒に配達するんだけど今朝、馬と一緒にケガしちゃってさー
でも、配達が遅れる訳にはいかないから……
コンクエスターさんにお願いしてみたんだ」
「ちょうど良かったわ。
この子、はじめたばかりなのよ」
「へぇ~。
あんまり歳はかわらないみたいだけど、やっぱり顔つきが違うね」
そういって振り向いた少年は麦わら帽を被って、つなぎに身を包んでいた。
あまり歳が変わらないということは14~5歳くらいかな。
少なくとも年上には、見えないな。
「ハハ、まぁこれも、仕事だからね。
それにしても、なんで大通りを通るの?
結構、視線が……」
確かに、大きな街ではないが大通りは人通りも多く、買い物や仕事に行き来している。
そしてその人たちの目が、荷車を押すボクたちを物珍しそうに見ている気がしてならなかった。
「そりゃあ、時間がないから最短距離をいってるのよ」
「どこまで?」
「向こうの門の外までだそうよ。
すぐ近くに届け先があるんだってさ」
見れば、この街に入るときに通った門が先にある。
「街壁の外に出るつもりなの?
このまま大通りを通って?」
「そうよ」
「そっかー」
「もうしばらく、街の人々の視線に耐えなきゃいけないってことね」
「そう、だね」
ボクの肩が落ちたのを見てエリィはまたも嬉しそうに見通しを立ててくれた。
「ゴメンな。
いつもなら街の外を壁沿いに行くんだけど、時間もないし……」
「誰も気にしてなんていないわ。
ねぇ?」
ウン、と答えた。
答えただけで、同意する気はなかった。
あの惨劇から数時間後の話です。
「わかった。
わかったから。
つまりだ、イツキ。
オメェが言いたかったのは単純に、一緒に仕事や生活をして生き方やらなんやらを教えてくれってことだったんだろ?」
「最初からそう言ってたよ!」
バンディは昼食を終えて、小指で耳を掻きながら面倒そうにまとめた。
「ボクのありったけの勇気をみんなで笑いものにして……」
「ごめんよー。
でも、そういう愛の形があってもいいと思うのだ」
「そうだよ。
それだけイツキの本気がホンキだったってことでしょ」
アニーとマグがそれぞれ席を立ちながらボクに浴びせた言葉は、なんのフォローにもなっていなかった。
「それって慰めてるつもり?」
「なんであってもだ。
イツキがここ、黒熊で仕事をする気になったってんだから、もちろんオレたちも手伝ってやればいいんだロ?」
「その語尾のアクセントに誠意を感じられない。
面白がってるでしょ」
木の楊枝を咥えながら白い犬歯を見せるフゥ。
ニッと笑った顔がいかにも楽しんでいそうだったからだ。
「それじゃあ……」
そういって隣に座っていたハクが立ち上がった。
ゆっくりとした動作だったが、逆にそれが続く言葉に重みをもたせていた。
「今まで以上に、危ないことも、命を懸けなきゃならないこともある。
それでも、やるのね?」
ハクの銀色をちりばめた氷色の瞳がボクの目を見ていた。
ボクはメガネのレンズ越しにしっかりとその瞳を見返した。
「うん!」
◇ ◇ ◇
「うん?」
今ボクは、歩いています。
ソルトイルの街の大通りを。
ボロボロの荷車に山盛りの草?を載せて。
「なんで、こんなことに?」
手入れのされていない木製の荷車の片側に手をかけて進めると、石畳の凹凸の一つ一つに車輪がガタガタとうなっている。
車輪が上下すると荷車に載っている縛られてブロック状の干し草も揺れるので、結構な頻度で上からそのくずが数本ずつぱらぱらとこぼれてくる。
そしてその数本がボクや反対側にいるハクにも当然降りかかってくる。
「『荷運び』の依頼よ。
急ぎの仕事があったから引き受けたの」
「それは、見ればわかるし、やってるからよくわかるけど……
ハクが言ってた『危ないこと、命を懸けなきゃならないこと』ってこういうこと?」
「そうよ。
荷車が転んだら、商品の牧草は集めるのが大変だから『危ない』わ。
それに依頼を受けた以上、全力で『命を懸ける』つもりでやらなきゃ、依頼主に申し訳ないじゃない」
「そうなんだけどね」
とても正論です。ハイ。
「最初の仕事が農家のお手伝いねー。
いいじゃない。
さすが剣と魔法の世界よねー」
干し草の上で優雅に青空を見上げるエリィ。
「そのまま干し草まみれになってていいよ」
「いやぁ~、ゴメンなぁ~」
いつものようにエリィに毒づいたつもりだった。
先頭に立って荷車の前に突き出た長い棒状の囲いを引っ張っていた、背の低い農夫が不意に返事をしてきた。
「いつもはおっ父と一緒に配達するんだけど今朝、馬と一緒にケガしちゃってさー
でも、配達が遅れる訳にはいかないから……
コンクエスターさんにお願いしてみたんだ」
「ちょうど良かったわ。
この子、はじめたばかりなのよ」
「へぇ~。
あんまり歳はかわらないみたいだけど、やっぱり顔つきが違うね」
そういって振り向いた少年は麦わら帽を被って、つなぎに身を包んでいた。
あまり歳が変わらないということは14~5歳くらいかな。
少なくとも年上には、見えないな。
「ハハ、まぁこれも、仕事だからね。
それにしても、なんで大通りを通るの?
結構、視線が……」
確かに、大きな街ではないが大通りは人通りも多く、買い物や仕事に行き来している。
そしてその人たちの目が、荷車を押すボクたちを物珍しそうに見ている気がしてならなかった。
「そりゃあ、時間がないから最短距離をいってるのよ」
「どこまで?」
「向こうの門の外までだそうよ。
すぐ近くに届け先があるんだってさ」
見れば、この街に入るときに通った門が先にある。
「街壁の外に出るつもりなの?
このまま大通りを通って?」
「そうよ」
「そっかー」
「もうしばらく、街の人々の視線に耐えなきゃいけないってことね」
「そう、だね」
ボクの肩が落ちたのを見てエリィはまたも嬉しそうに見通しを立ててくれた。
「ゴメンな。
いつもなら街の外を壁沿いに行くんだけど、時間もないし……」
「誰も気にしてなんていないわ。
ねぇ?」
ウン、と答えた。
答えただけで、同意する気はなかった。
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