職業・「観客」ゥ!?

花山オリヴィエ

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第1話

027. 登場人物が増え始めます13

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 目が覚めたのは夜中だった。
 星はまだまだ無声映画の上映途中だったが、寒さや喧騒けんそうからという訳ではなかった。
 もちろん、まだ朝まで時間がある。
 単純に気持ちが悪かったんだよ。

「まだ、ザリザリする」

 口の中で残って固まった脂。
 あの、青い毛並みの母親のものだ。

「食べた、けどね」

 ボクのせいで、ボクが奪った、ボクが食べた肉は美味しかったはずだ。
 新鮮で、脂ののった、美味しい食事を皆で囲んだ。
 だけどやっぱり、口や心に今でも残っているモノがある。

「こんな世界で生きていけるのかな」
「お前の気の持ちようじゃないのー?」

 スッと現れたエリィは遠慮なく言い放ち、そしてまた消えた。
 自分の都合のいいように現れては消える女神の言動に、今は心をかき乱される余裕もなかった。

「こんなに血なまぐさいなんて……
 ファンタジーの世界もなかなかだよ」

 何かを吐き出さなければ、それこそ胃の中のものまで戻してしまいそうで、誰とはなしに悪態づいてしまっていた。

 ~~♪
 ~~~~♪

 歌が聞こえた。
 節に乗せた、耳に心地よい「歌」だった。

 出力場所は……

「上?」

 見上げた先は野宿の際に屋根代わりにしていた木の枝、さらにその上だった。
 葉の隙間から何かプラプラと動くものが見える。

「マグちゃんの……ブーツ?」

 見覚えのある彼女の帽子飾りの耳と同じ、黄色と黒の虎縞模様のファーブーツだ。

「みんな、寝てるな」

 アニーやフゥが焚火跡の近くで横になり、木の幹に体を預ける形で座って寝ているハク。
 確かに、この場にいないのはマグに違いなかった。

「起こさないようにしようか」

 マグが何をしているのか知りたくなったボクは今までの人生でしたことのない木登りに挑戦してみた。
 木の幹に体を密着させ、掴める高さの枝に手を伸ばした。
 母趾球ぼしきゅう、つまり足の指の付け根を木肌に密着させて踏ん張った。

「お、いける。
 いけ……るぅ!?」

 一歩目はうまくいった。
 そして二歩目は外した。

 体を支えるほどの動きと加重に慣れていない足は、盛大にボクを裏切って体を下方に。

 ――――?

 尻もちをついて音を立てる覚悟と痛みに備えて歯を食いしばったが、やってはこなかった。
 何かがボクを、子どもの脇に手を入れて抱き上げるように持ち上げていた。
 おかげで大いなる大地との衝突は免れた。

「え、え?」

 見ればそれは緑色をした縄のようだった。
 しなりのある、力強いそれ。

「これって、木のつた?」
 
 自分を抱き上げるものへ視線を注ぐと、それは木に巻き付いている植物のツタと同じであった。ただし、うごいているが。

「あれかな、食虫植物とかそういうモンスターの……」
「アハハ。
 そうじゃないよー」

 声は蔓からではなく、上から聞こえた。

「マグ、ちゃんなの?」

 そうだよー、とボクからの問いかけに答えると呼応するように蔓がスルスルとボクを引き上げた。

 わ。

 驚きの声をあげたのは、ちょうど木の葉の拓けた太い枝の上に蔓が座らせてくれたからだ。
 隣にはニパッと笑う幼女がいた。
 足をぶらぶらとさせ、楽しそうに星を見ていた。

「これもマグちゃんの魔法なの?」
「えっとねー。
 お願いしただけなんだよ。
 この子達に」

 マグは右の人差し指を顔の前に立て、くるりと回してみせた。
 指先が描いた軌跡は輪となって、光の粒がその週上を回り始めた。

「あのときと同じだ」

 あの時、賊に捉えられたマグが木の枝を振って見せたときと全く同じものだった。

「前にも言ったよね。
 この子達は「ヤオ」。世界のどこにでもいる、誰もが持っている力の根源。
 マグたちはこの子達にお願いして少しだけ、力を使わせてもらっているの」
「やっぱり魔法だ……」

 マグはアハハと笑う。
 その笑顔に同調するかのように光の粒たちが瞬く。

「ヤオは自分たちを感じ取ってくれる人の言うことを聞いてくれる。
 それが風だったり、木だったり色んなものだったりするの。
 火や水だったりもするし、人によっては魂や精霊っていう言い方をする人もいるかな」
「精霊魔法、とかそういう術士みたいな体系そのものなのかな」

 ボクの二次元メディア的な知識ではその表現がぴったりだと思った。

「物に宿っているヤオを動かしたり、取り込んだり、色々だよ」

「モノに宿って、動かして、とりこむ……」

 途端に浮かんでくるイメージの切れ端たちがハクがボクに初めてふるまってくれた朝食を思い出させた。

「だから、貰った命は……」

 マグが言いかけた頃には、ボクは木の枝から飛び降りていた。

 野営の跡、種火に掛けられた肉の串を立ったまま口に運んだ。
 少し固いけど、噛み締めるごとに旨味がにじみ出てくる。
 ぴょいと後に続いたマグも、ボクが串を持っていた手を引き寄せて、同じ肉に噛り付いた。
 
「美味しいね♪」
「うん、うまい」

 今度は、脂のしつこさを感じることはなかった。
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