上 下
17 / 111
第1話

024. 登場人物が増え始めます10

しおりを挟む
 ひとしきり騒いだ翌朝。
 初めて身体にアルコールを入れたボクに訪れたのは、胃のむかつきと頭への打撃。
 いわゆる二日酔いってやつだ。

「みんなは、だいじょうぶなの?」

 見渡すが、誰一人として不調を顔に出している人はいなかった。
 あれだけ顔の赤くなっていたフゥも、結果としてずっと飲んでいたハクも、ボクと一緒に騒いでいたアニーもだ。

「お酒、強いんだね」
「あれくらいなら、ね」

 ハクはいつものようにけろりとして言って見せた。
 今ボクたちが歩いているのは、集落から伸びる道。
 例によって舗装ほそうされているわけではないけれど、人の行き来があるのかそこまで歩き難いという訳ではない。
 なんなら、この世界に来てから最も足の裏への負担が少ない。

「これからどこに行くの?」
「ワシたちの拠点に戻るのだ。
 仕事も終えたし、他の収穫もあったから」
「それって例の場所?」

 以前にも聞いていた、ハクが案内してくれると言っていた場所の事らしい。

「そうだよー。
 いろんな人が集まるから、イツキくんの今後のことも決められると思うんだ」
「いろんな人、か」

 正直、楽しみではある。
 このファンタジーの世界でどんな人々に会えるのか。
 今だって、なかなかのメンバーだ。
 色白美人の格闘家 ハク。
 野性的な弓の美女 アニー。
 アニマルなロリかわいい女の子 マグ。
 怖いけどカッコイイ戦士 フゥ。

「ウチのことわすれてない?」
 エリィ、女神だけどキミは仲間じゃない。

 考えてみると、やっぱり現実世界とは違う。
 ヤオ、だっけ?
 魔法はあるし、魔物もいる。
 動物――は形こそ見覚えがあるやつもいるけど、変な色だったりするし、植物も記憶にあるやつとはサイズや形がおかしい。

「この『世界』てなんていうの?」

 ふと思って、前を歩く4人に聞いてみた。

「なんだって?
 『世界』……?
 オマエ、何言ってるんだ?」

 フゥが分かりやすく頭の上に疑問符を立たせるかのように聞き返してきた。
 え、意味わからないかな?

「えっと、なんだろう……
 名前ってあると思うんだ。
 少なくとも、ボクがいたところとは違う世界なんだ。
 国って言うくくりで言うと『ニッポン』って世界だったんだけど。
 魔法も、魔物もいなかったし。
 ボクがいたころは剣や弓を持って戦うことも、なかった」

 一同は互いに顔を見合わせた。

「イツキくんの言う、前にいたところがどこかは知らないけど、そんなところもあるんだね」
「いろんなものが違うんだから、きっと世界って言うか――」
「『世界』っていうかどうかは分からないけど、この辺りは国で言えば『ダスタンド王国』。
 更にその領内、キャラウッド地方って呼ばれてるね」
 
 地名は初めて聞いた。
 ハクは二人での道中でそんなことを説明してはくれなかったぞ。

「あんまり言うことでもないと思って」
 
 ハクは時々、ボクの考えていることを読み取って物を言ってくる。
 そういう超能力でもあるんだろうか。

「ともかく、だ。
 この田舎の代名詞であるキャラウッドでも人がそこそこ集まる場所があって、オレたちはオマエをつれてそこに行く。
 わかったな?」
「わかった、ような。
 よくわからないような」

 フゥはハッッハハと笑いながら、ボクの頭を大きな掌でグリグリとしてきた。

「いいんだよ。
 わからなかったら、行動すれば」

 果たして、ほんとうにいいんだろうか?
 ボクは何も知らない。
 知らないということがどれだけ不安なことか、この人たちは分かってくれるのかな。

「知らなければ知ればいい。
 知るためには、見て、聞いて、体験する。
 実際に自分が感じることでしか分からないモノってのはあるものよ」

 エリィが口にした言葉に、いやに重みを感じた。
 これまでの道中、軽口や冗談めいた事ばかりをボクに投げかけて遊んでいる女神の瞳が、この時ばかりは神殿にまつられる神像のように荘厳に見えた。

「じゃあ、教えてくれればいいのに」
「それじゃあ、面白くないじゃない?」
 
 ニヒッとわらった女神にさっきまでの神々しさは見て取れなかった。

 コイツ……
 絶対、ボクのことをみて遊んでるな。

「さ、さっさとオヤジの飯を食いに戻ろうぜ」

 さんせーい。

 マグとアニーは手を挙げて同意を示していた。

「その、オヤジってのは?」
「ワタシたちの仕事である依頼を仲介したり、仲間の集まる場所を束ねる人でね。
 イイ人なんだけど粗暴でね。
 ただ、人望と料理の腕は誰もが認めているわ」

 ゴクリ、とノドが鳴る。

「そんなに?」

「そうなのだ。
 なんてったって、オヤジさんの料理は……」

「「飯が進む!」」

 4人の声が意図せずに重なる。

 そんなに、か。
 とりあえずの不安は、ボクの胃袋の期待が掻き消してくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!

電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。 しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。 「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」 朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。 そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる! ――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。 そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。 二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...