職業・「観客」ゥ!?

花山オリヴィエ

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第1話

'019. 登場人物が増え始めます5

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 少しの間、堪能しました。
 えぇ、満足です。
 この時のボクの表情を見て、お邪魔虫の女神が何か言っていたような気もするけど気にならないし、気にしない。
 今はそういう余裕すらある。
 素晴らしきかな、健康体。

「それにしても、アニーがここにいるってことは――」
「そうだよ」
「じゃあ――」
「うん」

 ハクとアニーとの間でのやり取り。
 暗号めいているわけじゃないけれど、さっぱり何のことをさしているのか判らなかった。
 こういうのを阿吽あうんの呼吸、とかツーカーの仲っていうんだろうか。

「あ、いた~」

 背後から声がした。
 ボクはビクリと背筋を伸ばしたが、その声の主が敵ではないということはすぐに分かった。
 ハクとアニーが身構えなかったからというのもあったが、振り向いた先にいたのが賊との一味として見るには可愛すぎる格好をしていたからだった。

「もう、いきなりいなくなるからビックリしたよ」

 女の子だった。
 ボクとアニーはほぼ同じくらいの背丈だったが、それよりも頭一つ小さい。
 女の子というか女児というか、あまり自分と違う年代の子がどれくらいの成長具合で何歳っていう風にはわからなかったけど、恐らく小学校中~高学年くらいじゃないかな。
 緑色の髪の毛を2本、三つ編みにしてサイドに下げ、おおきな茶色いニット帽を被っている。ひときわ目を引くのがその帽子の飾りなのか、虎縞とらじまのケモノの耳がついていた。

 良く似合っているけど、なんだろう?
 この世界にもコスプレって言う概念がいねんがあるのかな。

 パタパタと歩いてくるとその歩調に合わせて耳も揺れている。

「かわいい」

 率直にして、素直な感想だった。
 目から入った情報に、口が付随ふずいした反射ともいえる言葉。
 口かられた声が、自分の耳に届いて、初めて自分がそんな感情をいだいた事と口を動かしたことを認識したくらいだ。

 ボクたち三人の前にちょこんと立つと、ようやく人物の顔を認識したのか、女の子はくりくりとした目を嬉しそうに動かした。

「ハクだぁ。
 アニーが見つけてくれたんだね♪」
「ひさしぶりね、マグ」

 マグ、と呼ばれた女の子の語調が嬉しさを表しているのが良くわかる。
 そして、ボクに対して向けられた翡翠ひすい色の瞳が人懐っこさを物語ものがたる。
 ハクはそんな彼女にボクを紹介してくれた。

「キミは……
 ハクのお友達?
 ヨロシクね~」

 ぺこり、腰を曲げて頭を下げる。
 黄緑色のおさげが付随する。
 あわててボクも頭を下げた。

「マグはね、アニーたちと一緒にお仕事をする仲間なんだ。
 あ、もう聞いてるかな?」
「う、うん。
 ボクもアニーさんとはさっき会ったばかりで」

 そうなんだー、と屈託くったくのない笑顔を振りまく少女に、アニーと出会った時とは違った胸の高鳴りを感じた。
 いや、へんな意味じゃなくてね?

 なんだかんだと現状を説明し合う三人をよそに、ボクには気になることがあった。

「それにしても、なんていうか……
 ふわふわしてるっていうか……」

 そう、本当に。
 口調とか雰囲気とか、そういうことだけじゃなく、このマグって女の子の周りに薄ぼんやりとした何かが見える。
 最初は虫か何かがまとわりついているのかとも思ったけど、彼女やハク、アニーもそれらを気にしていないところを見ると、まるで最初から目に入っていないようだ。
 ほこりでもなく、羽毛でもない。
 なんなら少し光っているようにも見て取れる。
 それなら――と、そっと手を伸ばした。
 好意を持っている人間に対して、服にちょっとした糸くずがついていたら誰だってそうするように。

「あれ?」

 触れることが出来ない。
 指を近づけようとすると、空気のまくで覆われているかのように逃げる。
 マグの背から、首筋、そしてニット帽の飾りの耳までスルスルと。
 それを取り払おうと指が追う。

「ヒャンッ――」

 幼女が声を上げた。

「ちょっと、なにしてるのだ!?」
 
 アニーに手首をつかまれた。
 
「いや……」
「女の子に断わりもなく触れるなんて、どういうつもり?」
「そそそ、そんなつもりは――
 ゴミが、その、付いてたから、取ってあげようと」

 本当に、やましい気持ちなんてなかった。

「イタズラするにしても、やり方と相手は考えてからするものよ」
「違うんだって、ハク。
 そんなことをしたかったわけじゃなくて……
 本当にゴミが、ほんわかふわふわした何かがあって、それを取ってあげようと……」

 アニーとハクの表情がくもっていく。
 
 このままじゃ、小さな女の子に手を出した犯罪者になってしまう!

「この世界でも、そういう趣味の人はいるわよ。
 ただし、もれなく痛い目にあっているのだろうけど」

 それまで見たことのないメガネをかけた姿でルールブックの様なものをめくりながら忠言してくるエリィ。
 怖い事いわないでよぉ。

 ハクとアニーに詰め寄られて顔を青くさせていたボク。
 なんとか、説明しなくちゃ……

「ワタシたちにはアナタの言う、そのホンワカしたゴミ? みたいなものは見えなかったわよ」
「そうなのだ。視力でいえばワシの眼はかなり良い方なのだ」

 あぁ、要らぬお節介を焼いたばっかりに――

「アハハ。
 びっくりしたなぁ。
 でも、大丈夫だよ。
 きっと『ヤオ』のことだよ~」

 「『やお』?」
 
 ボクは思わずオウム返しのように口にした。
 そこでやっと、ハクとアニーは合点がいったのか、それまでひそめて居た眉と眉の間が平坦へいたんになった。

「あぁ、そういうことね」
「ごめんなのだ。
 キミも見えるひとなんだね。
 ワシやハクはそういうのがからっきしでさ」

 なんだろう、眼のイイ人でも見えないナニかなのかな。

「気にしないでね。
 怖い子達じゃないし、見えない人もふつうにいるんだ。
 イツキはこっち側なんだね」

 ニパッと笑うマグがその場を収めてくれた。

 怖い子達ってのはハクとアニーの事?
 こっち側ってなに?
 う~ん……
 理解が及ばないぞ?

 疑いは晴れたが、胸の中のモヤモヤは依然として晴れないままだった。
 そんな風に首をかしげていると、少女がポンと肩を叩いた。

「そんなことより、ほら」

 
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