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第1話
009. 始まったらしい2
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満点の星空の下、しばし戸惑った。
そばにはパチパチと薪のはぜる火、目の前には美女が背を向けて寝ている。
実際、今までに体験したことのない景色だけど、
物語、マンガやアニメではたまに見る情景だけど、
「どうしたもんかなぁ」
リアルに口をついたのはそんな一言だった。
さっさと自分も寝てしまえばいいんだろうけど、なんだろう、何かをした方がいいのか、何もせずにいたほうがいいのか、色々と考えてしまう。
ここにまた、昼間の様にゴブリンなんかの敵が襲ってこないように寝ずの番をするのがいいのか。
でも、ボクなんかが見張っていたって戦力になることはないし。
寝てしまえばいいんだろうけど、ベッドもなにもない地面に寝転がったって背中は痛いし、寒かったら寝られないし……
「寝られない、かい?」
ハクが横になったまま声をかけてきた。
「寒いなら、そこの外套にくるまって火に当たってると良いわ。
明日もあるんだから、ね」
そういって、ハクは背を向けたまま白いてのひらをひらひらと見せた。
しばしの間、お互いの声は無かった。
火の粉の爆ぜる音が時折聞こえるのみだった。
ボクはブルりと身震いしたが、そばにあったハクの言う外套を手に取ると、そのままハクの身体にかけ、焚火を中心にハクの反対側に行った。
膝を抱えるように座り、両の手を紅い炎にかざして暖をとっていた。
そのまま天を仰ぐ。
「あそこから、落ちてきたんだ。
本当だったのかな、実際」
誰に行ったわけでもなかった。
ただ、自分に確認するためだけのつもりだった。
「そうよ?」
うわぁ!?
予想外の返事があったことに驚いて、声を出してしまった。
「なによ。
ウチよ」
「いや、わかるけど。
でも、いきなり……」
ボクの隣にはあの、女神・エリィがいた。
相変わらず椅子に腰かけたように、ふよふよと宙に浮いている。
白い絹織物のような布を巻いた体はこの闇夜に少し発光しているようだった。
「ずっといたわ
ずっと見ていたの」
「ずっとって、アレを?」
「あれも、これも、よ」
エリィの率直な返答に、ハァ、とボクは息を漏らして右の指で眉を掻いた。
「じゃあ、なんで助けてくれなかったの?
たいへんだったんだ!」
思わず語気が強くなった。
ハクがウゥン、と呻いて身じろぎをしたので、ボクは慌てて声のトーンを落とした。
「なんでって、みてたから」
「みてたからって……」
どうやらエリィの声はハクには聞こえていないらしい。
ボクは小声で続ける。
「見てるだけなの?」
「ウチはすべてを見るためにお前をここに呼んだの。
言ったでしょ?」
言ってた。
「しっかし、期待を裏切らない無能っぷりね」
はぁ?
「いいのいいの
それも含めてのイツキだからね」
「納得がいかない」
女神・エリィはグフフと品のない笑いをボクに投げかける。
「助けられるだけの存在、そんなんでいいの?」
グゥ、という声ではない音しかボクの喉からは返事が出てこなかった。
しかし、それだけではいけない、と言葉をひねり出す。
「でも、ボクにはなんの力も能力もないから――」
「勇気も?」
ない、さ。
一時、迷ったが事実はそうだ。
エリィの容赦ない言葉の拳に打ちのめされるボク、イツキの精神図。
「じゃあ、これから身につけなよ」
女神は宙に、座ったボクの肩ほどの高さに両の足を浮かせ、立ち上がった。
その両手を天に向かって広げてみせた。
「力も、スキルも、勇気も――
すべてを掴めばいいのよ。
それができる世界なんだよ、ここは」
「この世界の名は?」
思わず聞き返してしまった。
「とうに忘れちゃったわ。
ここの住人たちは『ユーディ』っていうらしいわ」
元の世界では持ち合わせなかった全てを、ここでは手に入れられる。
ボクが膝の前で無意識に握った、両の拳に力が入る。
「そうか、ボクにもできるんだ……」
女神は慈悲の笑顔をボクに向けた。
「いいこと?
みなさい。
全てをみる。
それがお前のすることよ」
ボクも立ち上がった。
その目線が女神・エリィと合う。
瞳の中に映るボクの顔は、希望に溢れていた。
「あぁ、お前の職業、おしえとくわ」
ふいに女神が告げる。
「お前の職業は
『観客』 よ」
観客ゥ!?
「戦士でも、魔法使いでもなく、観客!?」
思わずボクは問い返してしまった。
「そう、そんじゃ、いい夢を見るのよー」
無責任に、ボクの職業を告げて、女神・エリィはその場で姿を消してしまった。
消えた向こうには、夜の闇しか立っていない。
そんな、この世界での役割が、『観客』って……
そばにはパチパチと薪のはぜる火、目の前には美女が背を向けて寝ている。
実際、今までに体験したことのない景色だけど、
物語、マンガやアニメではたまに見る情景だけど、
「どうしたもんかなぁ」
リアルに口をついたのはそんな一言だった。
さっさと自分も寝てしまえばいいんだろうけど、なんだろう、何かをした方がいいのか、何もせずにいたほうがいいのか、色々と考えてしまう。
ここにまた、昼間の様にゴブリンなんかの敵が襲ってこないように寝ずの番をするのがいいのか。
でも、ボクなんかが見張っていたって戦力になることはないし。
寝てしまえばいいんだろうけど、ベッドもなにもない地面に寝転がったって背中は痛いし、寒かったら寝られないし……
「寝られない、かい?」
ハクが横になったまま声をかけてきた。
「寒いなら、そこの外套にくるまって火に当たってると良いわ。
明日もあるんだから、ね」
そういって、ハクは背を向けたまま白いてのひらをひらひらと見せた。
しばしの間、お互いの声は無かった。
火の粉の爆ぜる音が時折聞こえるのみだった。
ボクはブルりと身震いしたが、そばにあったハクの言う外套を手に取ると、そのままハクの身体にかけ、焚火を中心にハクの反対側に行った。
膝を抱えるように座り、両の手を紅い炎にかざして暖をとっていた。
そのまま天を仰ぐ。
「あそこから、落ちてきたんだ。
本当だったのかな、実際」
誰に行ったわけでもなかった。
ただ、自分に確認するためだけのつもりだった。
「そうよ?」
うわぁ!?
予想外の返事があったことに驚いて、声を出してしまった。
「なによ。
ウチよ」
「いや、わかるけど。
でも、いきなり……」
ボクの隣にはあの、女神・エリィがいた。
相変わらず椅子に腰かけたように、ふよふよと宙に浮いている。
白い絹織物のような布を巻いた体はこの闇夜に少し発光しているようだった。
「ずっといたわ
ずっと見ていたの」
「ずっとって、アレを?」
「あれも、これも、よ」
エリィの率直な返答に、ハァ、とボクは息を漏らして右の指で眉を掻いた。
「じゃあ、なんで助けてくれなかったの?
たいへんだったんだ!」
思わず語気が強くなった。
ハクがウゥン、と呻いて身じろぎをしたので、ボクは慌てて声のトーンを落とした。
「なんでって、みてたから」
「みてたからって……」
どうやらエリィの声はハクには聞こえていないらしい。
ボクは小声で続ける。
「見てるだけなの?」
「ウチはすべてを見るためにお前をここに呼んだの。
言ったでしょ?」
言ってた。
「しっかし、期待を裏切らない無能っぷりね」
はぁ?
「いいのいいの
それも含めてのイツキだからね」
「納得がいかない」
女神・エリィはグフフと品のない笑いをボクに投げかける。
「助けられるだけの存在、そんなんでいいの?」
グゥ、という声ではない音しかボクの喉からは返事が出てこなかった。
しかし、それだけではいけない、と言葉をひねり出す。
「でも、ボクにはなんの力も能力もないから――」
「勇気も?」
ない、さ。
一時、迷ったが事実はそうだ。
エリィの容赦ない言葉の拳に打ちのめされるボク、イツキの精神図。
「じゃあ、これから身につけなよ」
女神は宙に、座ったボクの肩ほどの高さに両の足を浮かせ、立ち上がった。
その両手を天に向かって広げてみせた。
「力も、スキルも、勇気も――
すべてを掴めばいいのよ。
それができる世界なんだよ、ここは」
「この世界の名は?」
思わず聞き返してしまった。
「とうに忘れちゃったわ。
ここの住人たちは『ユーディ』っていうらしいわ」
元の世界では持ち合わせなかった全てを、ここでは手に入れられる。
ボクが膝の前で無意識に握った、両の拳に力が入る。
「そうか、ボクにもできるんだ……」
女神は慈悲の笑顔をボクに向けた。
「いいこと?
みなさい。
全てをみる。
それがお前のすることよ」
ボクも立ち上がった。
その目線が女神・エリィと合う。
瞳の中に映るボクの顔は、希望に溢れていた。
「あぁ、お前の職業、おしえとくわ」
ふいに女神が告げる。
「お前の職業は
『観客』 よ」
観客ゥ!?
「戦士でも、魔法使いでもなく、観客!?」
思わずボクは問い返してしまった。
「そう、そんじゃ、いい夢を見るのよー」
無責任に、ボクの職業を告げて、女神・エリィはその場で姿を消してしまった。
消えた向こうには、夜の闇しか立っていない。
そんな、この世界での役割が、『観客』って……
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