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第1話
008. 始まったらしい1
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「よいしょっと」
トスン、と腰を下ろしたハク。
それにつられて、ボクも地面に腰を下ろした。
ハクがさっきまで居たという野営地だった。
火を起こした跡と、少しの荷物、それと大きな布が石をよけた地面に置いてあるだけの、それだけの場所だった。
「そんな気がしたのよ」
ハクは自分を助けに来てくれたことを、そう話した。
「それにしても、あそこ――ゴブリンたちに襲われたところからこの場所まで、結構距離がありますよ?」
フッフフ、とハクは笑うだけだった。
現にあの後、肩を貸す形でハクと一緒に僕は歩いてきたが、一時間、とはいかないまでも結構な距離を歩いてきたと思ったんだけどな。
この世界の人の距離感は少し違うのかもしれない。
「飯にしましょうか。
オナカ空いてないかしら?」
ハクはのほほんと言って、火を起こし始めた。
「おなかはすいてま――」
そこまで言って、ボクの腹は正直な声を上げた。
フッフフ。
また、ハクは笑う。それも嬉しそうに。
一方のボクは格好がつかず、頬に熱を感じた。
「それよりも、ケガの手当てをしましょう!
さっきあんなに攻撃を受けてたよね?」
聞こえているのかいないのか、ハクは手際良くそばに積んであった薪を火元にくべると、荷物の中にあった飯盒、金属製の入れ物に水を入れて火にかけた。
何かを袋から取り出し、飯盒の中の湯に入れる。
「それは?」
「薬草、みたいなもんかな。
そこらへんに生えてる草なんだけどね」
薬草。
そうか、回復アイテムの基本は薬草か。
何故かボクの頭の中では一定の理解が及んだ。
ハイ、とハクから渡された手のひらに乗るサイズのドーナツ状の何か。
表面は少し光沢があり、手触りは陶器のよう。
全体的に少しずっしりと重みを感じる。
「食べなさい。麦の粉をこねて、焼き固めたモノ。
カンパンっていうの」
おぉ、ここではこういう形なのか。
ゆっくりと前歯で噛む。
コリンッ。
確かに硬い。けど、口に入れることの出来る最低限度の硬度だ。
ゴリッ。
ゴリュッ。
陶器かと思ったほどの固い破断物は、奥歯で噛み締めると次第にほぐれ、口の中で小さくなっていく。
うん、おいしい。
けど、ちょっと、やっぱり……
そんな風に思っていると、ハクが器を差し出してくれた。
茶碗ほどの深さのそれからは白い湯気が立っている。
どうやら火にかけたお湯らしい。
器の木目に口を付ける。
熱い液体が口に入ってくる。
カンパンが水分を奪い去った口中を、ほんのりと薬草の香りのする白湯が潤してくれる。
口の中が湿ったおかげで、カンパンの本来の味、甘味や塩味、麦の香りがやっと認識できた。
おいしい!おいしい!
言葉にならない、ボクの言葉。
ハクはそのボクの表情をみて、自分の器に口をつけていた。
それからしばらく、ボクはカンパンと白湯に交互に口をつけ、久しぶりの食事を楽しんだ。
その様子を見ている、ハクもなんだか嬉しそうだった。
◇ ◇ ◇
「改めて、ワタシはハク。
ちょっと仕事でこっちに来ててね。」
ボクが二個目のカンパンに手を付け、口に運ぶ勢いが落ち着いたのを見計らってハクは話し始めてくれた。
「アナタはイツキっていったわね。
あんな場所にいたけど、どこから来たのかしら?」
口の中のモノを食道に押しやって、ボクは答える。
「どこって、話せば色々なんですが……
あそこからきまして」
そういって天を見上げた。
真上では大きな月が輝き、その周りで星々が煌めいている。
あそこから落ちてきました。なんて言って信じてもらえるわけもないしなぁ。
どうしたら、自然に、この後問題なくことが進むように答えられるかな。
いっそのこと、ありのままに異世界から来ましたっていうべきかな。
そしたら――
いや、でも――
そんな風に心の中では様々な想定をしていたんだが。
「あーそー」
それだけだった。
「え?」
「『え?』ってなによ」
「いや、それだけなのかなって」
どうやらハクはボクが天から落ちてきた、という意図をそのままに飲み込んだらしい。
「この世界、背中に羽の生えたやつだって大勢いるわ。
飛んでるやつらが途中で羽がもげたら、落ちるしかないでしょう」
いや、そうではなくって。
「それより、これからどうするの?」
「これから……」
言葉に詰まった。
何かをしたくて、ここにいるわけではない。
それは確かなんだけど。
「今日は寝ることね。
疲れたでしょう」
それはケガをしたあんたの方じゃないの?
すると、ハクはその場にごろりと背を向けるとスゥ、と寝息を立て始めてしまった。
「もう、寝てる、の?」
このように、異世界1日目は終わったわけだけど、これからどうしよっか。
トスン、と腰を下ろしたハク。
それにつられて、ボクも地面に腰を下ろした。
ハクがさっきまで居たという野営地だった。
火を起こした跡と、少しの荷物、それと大きな布が石をよけた地面に置いてあるだけの、それだけの場所だった。
「そんな気がしたのよ」
ハクは自分を助けに来てくれたことを、そう話した。
「それにしても、あそこ――ゴブリンたちに襲われたところからこの場所まで、結構距離がありますよ?」
フッフフ、とハクは笑うだけだった。
現にあの後、肩を貸す形でハクと一緒に僕は歩いてきたが、一時間、とはいかないまでも結構な距離を歩いてきたと思ったんだけどな。
この世界の人の距離感は少し違うのかもしれない。
「飯にしましょうか。
オナカ空いてないかしら?」
ハクはのほほんと言って、火を起こし始めた。
「おなかはすいてま――」
そこまで言って、ボクの腹は正直な声を上げた。
フッフフ。
また、ハクは笑う。それも嬉しそうに。
一方のボクは格好がつかず、頬に熱を感じた。
「それよりも、ケガの手当てをしましょう!
さっきあんなに攻撃を受けてたよね?」
聞こえているのかいないのか、ハクは手際良くそばに積んであった薪を火元にくべると、荷物の中にあった飯盒、金属製の入れ物に水を入れて火にかけた。
何かを袋から取り出し、飯盒の中の湯に入れる。
「それは?」
「薬草、みたいなもんかな。
そこらへんに生えてる草なんだけどね」
薬草。
そうか、回復アイテムの基本は薬草か。
何故かボクの頭の中では一定の理解が及んだ。
ハイ、とハクから渡された手のひらに乗るサイズのドーナツ状の何か。
表面は少し光沢があり、手触りは陶器のよう。
全体的に少しずっしりと重みを感じる。
「食べなさい。麦の粉をこねて、焼き固めたモノ。
カンパンっていうの」
おぉ、ここではこういう形なのか。
ゆっくりと前歯で噛む。
コリンッ。
確かに硬い。けど、口に入れることの出来る最低限度の硬度だ。
ゴリッ。
ゴリュッ。
陶器かと思ったほどの固い破断物は、奥歯で噛み締めると次第にほぐれ、口の中で小さくなっていく。
うん、おいしい。
けど、ちょっと、やっぱり……
そんな風に思っていると、ハクが器を差し出してくれた。
茶碗ほどの深さのそれからは白い湯気が立っている。
どうやら火にかけたお湯らしい。
器の木目に口を付ける。
熱い液体が口に入ってくる。
カンパンが水分を奪い去った口中を、ほんのりと薬草の香りのする白湯が潤してくれる。
口の中が湿ったおかげで、カンパンの本来の味、甘味や塩味、麦の香りがやっと認識できた。
おいしい!おいしい!
言葉にならない、ボクの言葉。
ハクはそのボクの表情をみて、自分の器に口をつけていた。
それからしばらく、ボクはカンパンと白湯に交互に口をつけ、久しぶりの食事を楽しんだ。
その様子を見ている、ハクもなんだか嬉しそうだった。
◇ ◇ ◇
「改めて、ワタシはハク。
ちょっと仕事でこっちに来ててね。」
ボクが二個目のカンパンに手を付け、口に運ぶ勢いが落ち着いたのを見計らってハクは話し始めてくれた。
「アナタはイツキっていったわね。
あんな場所にいたけど、どこから来たのかしら?」
口の中のモノを食道に押しやって、ボクは答える。
「どこって、話せば色々なんですが……
あそこからきまして」
そういって天を見上げた。
真上では大きな月が輝き、その周りで星々が煌めいている。
あそこから落ちてきました。なんて言って信じてもらえるわけもないしなぁ。
どうしたら、自然に、この後問題なくことが進むように答えられるかな。
いっそのこと、ありのままに異世界から来ましたっていうべきかな。
そしたら――
いや、でも――
そんな風に心の中では様々な想定をしていたんだが。
「あーそー」
それだけだった。
「え?」
「『え?』ってなによ」
「いや、それだけなのかなって」
どうやらハクはボクが天から落ちてきた、という意図をそのままに飲み込んだらしい。
「この世界、背中に羽の生えたやつだって大勢いるわ。
飛んでるやつらが途中で羽がもげたら、落ちるしかないでしょう」
いや、そうではなくって。
「それより、これからどうするの?」
「これから……」
言葉に詰まった。
何かをしたくて、ここにいるわけではない。
それは確かなんだけど。
「今日は寝ることね。
疲れたでしょう」
それはケガをしたあんたの方じゃないの?
すると、ハクはその場にごろりと背を向けるとスゥ、と寝息を立て始めてしまった。
「もう、寝てる、の?」
このように、異世界1日目は終わったわけだけど、これからどうしよっか。
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