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序章
006. まずはご挨拶6
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ボクは見つめていた。
そのあまりにも対比的な光景を、じっとみていた。
それまでソコは醜い緑と、凄惨な赤に塗りつぶされていた。
もちろん緑ってのは好き放題に暴れまわるゴブリンたちのことで、赤って言うのは、ね…… 無抵抗で殺されていった動物たちのことだよ。
でも、そこに現れたのは凛とした青と、なんだろう……うまく言い表せないけど、直感で優しいと感じた白だった。
そう、今、ボクの目の前に立っている女性のことなんだけどね。
「大丈夫かね?」
女性は青いリップを塗った口元を小さく開いて聞いてきた。
ボクにだ。
彼女の肌は透き通った白。
まるで夜のうちに降り積もった雪が朝日で輝くように澄んだ白さをしている。
その髪と口元は氷の様に冷たい青をしているが、どういう訳か不思議と人としてのぬくもりを感じた。この場に似合わない温和な表情をしていたからかもしれない。
でも、その手にしているゴブリンの首からは赤く濁った血がドボドボと零れているし、なんならその周りでは首のつながっているゴブリンが多数、武器を手にして飛び回っている。
「だ、だいじょうぶ……です」
そう。
青髪の女性はボクに一言、答えると手に持っていた緑の小人の頭部を自分の顔の前に持ち上げて、さらに一言。
「んじゃ、ちょっと待ってなさいな」
そして――
おもむろに手にしていた首をボクに向けて投げつけた。
驚いたって言うよりも、何も考えられなかった。
だって、助けてくれたはずの人が、助けた相手に向かって、襲った相手のアタマを投げつけたんだよ。 ゴブリンの頭って言っても小ぶりのカボチャくらいの大きさだし、決して柔らかくも軽くもないだろうし。
長く赤い舌をビタビタとはためかせながら、もぎ取られた首が飛んできた。
その濁った黄色い目が焦点の合っていないことまでボクは見てしまった。
それくらいの距離まで、ボクは身じろぎできなかった。
当たれば怪我じゃ済まなかったんだろうな。
当たれば、ね。
ギャキッ――!
ボクの後方でうめき声が聞こえた。
振り向くと、ゴブリンが一匹、仰向けに倒れている。
その体はビクビクと痙攣しているが、立ち上がれそうにない。
だって、胸に大きく穴が開いているからだ。
その胸の穴の大きさは、そう。
さっきボクに向けて投げられたと思った小人の頭の大きさのソレだ。
ボクは女性の方へ視線を戻す。
「二匹目、かしら」
青髪の女性は着ていた青み掛かった灰色の着物の袖をまくって見せた。
「後ろには気を付けることね」
彼女は無防備だったボクを背後から襲おうとしたゴブリンを倒してくれたに過ぎなかった。でも、あの方法は怖かったよ。
女性は舞うような所作でボクに背を向けた。
いや、向かっていったんだ。
その場の、敵に。
気が付かなかったけど、彼女は武器を持っていた。
あまりにも自然で、何の違和感もないように携えていたのは一本の杖だった。
木でできた彼女の身長よりも長い杖は片方の先端がくるりと曲がって鉤状になっていた。まるで日常でよく見る、ハテナマークのそれの様に。
悠々と歩を進める着物姿の女性。
そして――
ブン
パキャッ。
ブンッ
ビチャッ!
ブンッッ
ボキッ。
細身の彼女が杖を振るたびに重厚な風切り音が聞こえる。
そしてそのすぐ後に、破壊音が耳に届く。
それがゴブリンたちを排除する音だというのは容易に分かった。
だって、明らかに骨が折れて肉が飛び散る音なんだよ、これ。
あたりは文字通り、死屍累々。
殺された動物と、それを殺して殺されたゴブリンたちの死骸がばら撒かれている形だ。
うめき声をあげる小人もいた。
辛うじて息のあるゴブリンは地べたに頭を付けて両の手を合わせて何かを言っている。
命乞いであることは誰が見ても明らかだった。
その地に伏したゴブリンの頭に女性は杖の曲がっていないほう、石突を向けた。
「なにもそこまですることないでしょう?」
ボクは思わず声をかけた。
一方的な殺戮者に刃を向けられた経験も、そこから助けられた経験もなかった。
でも、その刃を握っていた手が震え、必死に合わせられる姿を見たら……
「でもね?」
女性がボクの方を見て話しかけたその時だった。
トスッという軽い音がした。
そしてボクは、自分の一言を後悔した。
そのあまりにも対比的な光景を、じっとみていた。
それまでソコは醜い緑と、凄惨な赤に塗りつぶされていた。
もちろん緑ってのは好き放題に暴れまわるゴブリンたちのことで、赤って言うのは、ね…… 無抵抗で殺されていった動物たちのことだよ。
でも、そこに現れたのは凛とした青と、なんだろう……うまく言い表せないけど、直感で優しいと感じた白だった。
そう、今、ボクの目の前に立っている女性のことなんだけどね。
「大丈夫かね?」
女性は青いリップを塗った口元を小さく開いて聞いてきた。
ボクにだ。
彼女の肌は透き通った白。
まるで夜のうちに降り積もった雪が朝日で輝くように澄んだ白さをしている。
その髪と口元は氷の様に冷たい青をしているが、どういう訳か不思議と人としてのぬくもりを感じた。この場に似合わない温和な表情をしていたからかもしれない。
でも、その手にしているゴブリンの首からは赤く濁った血がドボドボと零れているし、なんならその周りでは首のつながっているゴブリンが多数、武器を手にして飛び回っている。
「だ、だいじょうぶ……です」
そう。
青髪の女性はボクに一言、答えると手に持っていた緑の小人の頭部を自分の顔の前に持ち上げて、さらに一言。
「んじゃ、ちょっと待ってなさいな」
そして――
おもむろに手にしていた首をボクに向けて投げつけた。
驚いたって言うよりも、何も考えられなかった。
だって、助けてくれたはずの人が、助けた相手に向かって、襲った相手のアタマを投げつけたんだよ。 ゴブリンの頭って言っても小ぶりのカボチャくらいの大きさだし、決して柔らかくも軽くもないだろうし。
長く赤い舌をビタビタとはためかせながら、もぎ取られた首が飛んできた。
その濁った黄色い目が焦点の合っていないことまでボクは見てしまった。
それくらいの距離まで、ボクは身じろぎできなかった。
当たれば怪我じゃ済まなかったんだろうな。
当たれば、ね。
ギャキッ――!
ボクの後方でうめき声が聞こえた。
振り向くと、ゴブリンが一匹、仰向けに倒れている。
その体はビクビクと痙攣しているが、立ち上がれそうにない。
だって、胸に大きく穴が開いているからだ。
その胸の穴の大きさは、そう。
さっきボクに向けて投げられたと思った小人の頭の大きさのソレだ。
ボクは女性の方へ視線を戻す。
「二匹目、かしら」
青髪の女性は着ていた青み掛かった灰色の着物の袖をまくって見せた。
「後ろには気を付けることね」
彼女は無防備だったボクを背後から襲おうとしたゴブリンを倒してくれたに過ぎなかった。でも、あの方法は怖かったよ。
女性は舞うような所作でボクに背を向けた。
いや、向かっていったんだ。
その場の、敵に。
気が付かなかったけど、彼女は武器を持っていた。
あまりにも自然で、何の違和感もないように携えていたのは一本の杖だった。
木でできた彼女の身長よりも長い杖は片方の先端がくるりと曲がって鉤状になっていた。まるで日常でよく見る、ハテナマークのそれの様に。
悠々と歩を進める着物姿の女性。
そして――
ブン
パキャッ。
ブンッ
ビチャッ!
ブンッッ
ボキッ。
細身の彼女が杖を振るたびに重厚な風切り音が聞こえる。
そしてそのすぐ後に、破壊音が耳に届く。
それがゴブリンたちを排除する音だというのは容易に分かった。
だって、明らかに骨が折れて肉が飛び散る音なんだよ、これ。
あたりは文字通り、死屍累々。
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うめき声をあげる小人もいた。
辛うじて息のあるゴブリンは地べたに頭を付けて両の手を合わせて何かを言っている。
命乞いであることは誰が見ても明らかだった。
その地に伏したゴブリンの頭に女性は杖の曲がっていないほう、石突を向けた。
「なにもそこまですることないでしょう?」
ボクは思わず声をかけた。
一方的な殺戮者に刃を向けられた経験も、そこから助けられた経験もなかった。
でも、その刃を握っていた手が震え、必死に合わせられる姿を見たら……
「でもね?」
女性がボクの方を見て話しかけたその時だった。
トスッという軽い音がした。
そしてボクは、自分の一言を後悔した。
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