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夢と目合う ※ ※モブユン
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しおりを挟む俺はこの部屋を選んだ時点で、ユンファさんが、この部屋の中でもこと「あの場所」に強く惹かれるだろうことは既に予測していた。
その予測をしていたその上で俺は更に、この部屋を選んだ時点で「希望」をもしていたのである。――ユンファさんの心が「あの場所」に、どうか強く惹き付けられてくれますように、とね。
……その実をいうと「あの場所」は、二人が再会をしたのち共に過ごす「記念すべき場所(部屋)」においての、俺の「外せない条件」の一つですらあったのだ。
したがって俺は今のユンファさんのために、むしろ彼と共に過ごす場所であるからこそ、あえて「あの場所」が設けられたこのスイートルームを選んだのである――。
「…貴方は“あの場所”がとても気になるのでしょう。…大丈夫、もう意地悪などしないから……むしろ俺は貴方に、この部屋の中でも一番“あれ”を見せたかったくらいなんだ。…だからゆっくり、じっくりと――今度は貴方の気が済むまで何時間でも、好きなだけ眺めていて構わないよ…。……」
いまだ滝の流れる岩壁の前にいる俺たちである。
言いつつ俺はユンファさんの肩を抱いたまま、彼と共に戻ろうとした――先ほど俺があえて通り過ぎた、穏やかな滝とテレビモニターのちょうど真ん中に位置する「あの場所」へと……それこそ俺は「その場所」の真ん前へ行こうとしたが、…案の定――「その場所」に踏み入る前にユンファさんはピタリと足を止め、慌てて隣の俺に振り返る。
ふるふると首を横に振る彼は焦りと葛藤、そして潜在的な恐怖心から、今にも泣き出しそうな目をしている。
「…ぁ、あのごめんなさい、――いいんですか、…いいんですか僕、…いや、でも、いや駄目、…ぁ、あの、あの、あの僕、そんな、…」
「…ふふふ、大丈夫…落ち着いて…? 勿論いいに決まっているじゃないか…――俺は貴方に喜んでほしくて…三ヶ月間、貴方のことをじっくりと想って、想って……そうして俺は、貴方のためだけに…この素敵なお部屋を探し出し、選んだんだ…」
皆まで言われなくとも俺にはわかる。
口篭って「あの、あの」とままならないユンファさんが今言いたかったこと、それとはこうである。「今この状況で自分は、自分のための鑑賞時間など取ってもよいのか」というのだ。――自分の「仕事」である「プレイ(セックス)」を差し置いて、ひいては「お客様」である「俺」を差し置いて、風俗店のキャストである自分が、「あの場所」をじっくりと鑑賞する時間など取ってよいのか、と。
また、今ユンファさんが抱いている葛藤とはそれのみならず、である。
何ならユンファさんにとって「あの場所」は、関心があるどころの話ではない。であるから彼はこう恐れてもいるのだ。――これで一度じっくりと鑑賞することを俺に許されてしまえば、自分はそれこそ何時間でも「あの場所」の前に佇み、時間を忘れるほど、(自分が接客をしなければならない客の)俺の存在をすら忘れるほどに、「それ」を食い入るように眺めてしまうかもしれない。と――そういったある種の「恐怖」に近い焦りや葛藤も今、ユンファさんの中には強くあるのである。
ただ厳密にいうと俺は、ユンファさんに「あの場所」の「鑑賞」を勧めているわけではない。――俺は彼に「あの場所」をじっくりと見てほしいのである。
それにしても、何にしてもユンファさんのこれは、ともすると「過剰反応」の程度かもしれない。…「鑑賞をする」にしてもだ…それこそ俺たちが共に過ごせる時間は今宵一晩、まだ零時にもならない今から明朝五時までと、そうして時間の余裕が(彼にとってはなお普段より)ある今宵において、たかだか部屋の中の「ある場所」を客と共に鑑賞するということに、一体、彼はどうしてそこまでの「罪悪感」を覚えているのか?
恐らく同じ風俗店のキャストであったとしても、それこそ彼以外のキャストならば大方、「あーこういうの自分好きなんですよね」とでも気楽に返したのち、普通に誘われるまま「あの場所」を客と観て回ったことだろう――何ならうってつけの「デート」にもなると一石二鳥、接客に活かす人とているのではないか――。
ユンファさんは俺の「貴方のためだけにこの部屋を取った」という旨に驚き、改めてこの大聖堂のような広いスイートに視線を巡らせながら、
「……ぼ、僕の…ため…? 僕のために、ですか…?」
とまごついている。『こんな…こんなに、かなり高そうな…こんなに特別そうな、スイートルームを…――たかだか風俗で、遊ぶためだけに…?』
「当たり前じゃないか…? 勿論貴方のためだけに、俺はこの最上級スイートルームを選んだのだよ…――。」
俺はユンファさんの片手を取り、この胸の前で握った。
しかし間違っても俺は、「風俗で遊ぶためだけに」このような最上級スイートを取ったわけではない。――どうやらユンファさんには勘違いをされてしまったようであるが、俺はゆめゆめ「ユンファさんのためだけに」、この最上級スイートルームを取ったのである。
「……、…、…」
ただ俺に手を握られてもユンファさんは、何か今にも泣き出しそうな目を遠く、この部屋のベッドの方向へ向けている。――ゆらゆらと揺れている、彼の憂いた青味の強くなった紫の瞳の、その奥には――どうやら潜在的な「恐怖」が深く根を張っているようだ。
まあ先ほど「鑑賞」を遠慮したがっていたユンファさんの、その表層的な精神ばかりでいえば、「仕事中の自分が、お客様を差し置いて遊んでいていいわけがない(お客様に失礼だから)」といったところではあったのだが――しかし彼の深層にある実情には、それこそその思考の根底にさえも「ある恐怖」に基づいた、根深い「隷属性」が潜んでいる。
今のユンファさんが潜在的に認識している、彼にとっての「今」とは――俺に金で「買われた自分」が、「俺を喜ばせなければならない時間」である。
――つまりユンファさんは、あたかも自分を俺に買われたのだと思っているのだ。
それをもっといえば――今の自分の「主人」は俺。
すなわち潜在的な認識としてユンファさんは今、自分が「俺の(性)奴隷」として此処にいるのだと思っているのである。
それはなぜか?
あのケグリ共がユンファさんに「値段」を付けてきたからである。あくまでも「労働者」ではなく、あいつらが徹底して彼のことを「商品」として扱ってきたためである。
そして、これまでユンファさんという「商品」を買ってきた者たちは、彼につけられたその値段分の時間だけ、ユンファさんの「一時的なご主人様」ともなってきた。
なぜなら、彼は「自分を買った者」には何をされても嫌がるな、逆らうな、受け入れろ、媚びろ、隷属しろ、…いわば(主人であるケグリ共に対するような)絶対服従の姿勢を「お客様」にも示せ、などと常日ごろからケグリ共に調教されてきているためである。
またそれのみならず、今のユンファさんは日々「金」というものに脅され、脅かされているので、むしろ本質的にいえば彼は、その「金」というものに服従をしているのだ。…いわばユンファさんは、「金」を主人とする「(性)奴隷」なのである。
つまり今のユンファさんの潜在的な認識上では、ともすればユンファさん自身よりも価値があり、人にとっても大切な「金」というものを支払われた以上、その「金」を支払った者に隷属をしなければならない…――と、多額の借金のためにあのケグリと「性奴隷契約」を交わしてからの彼は、潜在的に、そのような誤謬した価値観を植え付けられてしまっている。
そして、ユンファさんが今したくもないセックスを誰とでもしている理由――もっといえば、好きでもない、従いたくもないケグリの性奴隷となっている理由――とは、その「借金を返すため(ひいては両親のため)」ではあるのだが、……その「金」というものに伴っているのが「自分の肉体」であるせいで、ユンファさんは今や、もはや少しも疑うことなく「自分」というものに「値段」がついている――「自分」という存在の全ては金で買えるものなのだ――と、認識してしまっている。
ただ彼がそのような「認識」を持ってしまったということも、恐らくはあのケグリの思惑通りなのであろう。
そうして「自分を買った者」の全員に隷属を強いられてきたユンファさんは、徹底的に、「この世の中の全ての人々」よりも下等で薄汚い、醜い、安くてちんけな性奴隷として扱われてきた。…何なら彼の深層心理にはあたかも当然のように、『こんな自分にお金を出してくださっただけ(僕なんかを買っていただけただけ)有り難い』という思いさえ潜んでいるかもしれない。
そのように「下等な商品」だと自分を認識しているユンファさんならば、コントロールはもちろんのこと、「所有」もまあ容易いということなのであろう。
何にしても――それだから今のユンファさんの潜在的な認識上では、なんら疑うこともなく俺に「自分の肉体」、ひいては「自分」を俺に金で買われたのだ、というものになっているのだ。
ただし、もちろん俺が今夜に「買った」と認識しているものとは、あくまでもユンファさんの「人生の時間」にプラス、「(ユンファさんが俺に施してくれる)サービス」といったところである。
そもそも人は人を買うことなどゆるされていない(人身売買などこのヤマトの法律ではゆるされていない)。
――人が人の持ち得るもので買うことができるのは、平易にいえばその人が「(個人の能力を駆使して)作り出したもの」か、あるいはその人の「労働力(とその労働に伴う時間)」といったところであろうか。
しかし余談にはなるが、金を出さなければユンファさんとセックスができない奴らこそ、ある意味では一番哀れな存在なのかもしれない。
綺麗事でいえば人という存在に「値段」などつけられるものではないし、また人とは決して、誰しもが値踏みをされてよい存在ではないことは確かであるが――もし仮に、月下・夜伽・曇華という人に値段をつけられてしまった場合、それこそ、俺の全財産を注ぎ込んででも決して買えない値段になることは間違いないだろう。――むしろ彼という人が金で買える存在ではないからこそ、彼を二束三文で「買える」幸せな者が多くいるという状況が今なのである。
……が…それこそケグリにしても、「金」の存在無くしては決してユンファさんを抱くことなどできないわけであるから、ある意味でアイツ(を含めたあらゆる奴ら)は、大層哀れな男たちである。
それはまあ一応、今の俺でもあるのだけれど……何にしても、いずれはユンファさんのその「間違った認識」をもまた、この俺がぜひ正してあげたいところである。――ユンファさんにはぜひご自分の「正当な価値」を知ってもらいたい。
――とはいえ、それだからこそだ。
ユンファさんがそのような「(間違った)認識」を携えて此処へ来てくださったから、こそ。――だからこそ俺はこの部屋を選んだのであり、またそれだからこそ、彼にはおよそ「あの場所」が必要なのである。
「…貴方には“ゆるし”が必要だね」
俺は遠くを見ている、今にも泣き出しそうな悲しいユンファさんの横顔に、そっと「ゆるし」を与えるような声でそう語りかけた。――彼は「え…?」と穏やかながら虚ろな反応と共に、俺へふっと振り返る。やはり虚ろな表情、やはり翳りのある群青色の瞳が、俺の言葉をぼんやりと訝っている。
「……ゆる…し…?」
「…そう…――“ゆるし”だ…、……」
俺は胸の前で握っていたユンファさんの片手をやや上げ、彼のその手の上に顔を俯かせた。――何て儚い人なのか。
ユンファさんの潜在意識の中には、彼を縛り付けている「鎖」がある。そしてその「鎖」は、彼の「恐怖」に基づくものである。
だからこそ先ほどのユンファさんは、「あの、あの」と口篭ってしまったのである。――ただし今ユンファさんのことを縛り付けているものとは、他ならぬ潜在的な彼自身が生み出している「鎖」なのだ。…それもその「鎖」は、あたかも凍り付いた永遠の檻「コキュートス」の如く、彼が自分自身を守るために凍り付かせた「氷の壁」に打たれた杭に留められている。
そして、その「凍てついた鎖」のもう片方の端に繋がっているものとはもちろん、彼の首に巻き付けられている「首輪」である。――すなわちケグリがユンファさんにつけた「首輪」である。
今ユンファさんを縛り付けている、その「凍てついた鎖」をあえて簡単に紐解けば、まあこういった感じであろう。
自分は俺に何をされても喜ぶ「ラブドール」であらねばならない。例え喉の奥に何を突っ込まれようが、例えどのような乱暴な扱いをされようが、例え強姦に近い形での行為を強いられようが、自分は「気持ちいい、嬉しい、ありがとうございます」と微笑まなければならない。
自分は俺が喜ぶこと以外は何もしてはならないし、俺が喜ぶこと以外は何も言ってはならない。そして、自分は決して俺を不愉快にさせ、怒らせるような言動を取ってはならない。自分は俺を喜ばせるためだけにしか笑ってはならない。自分は俺に何をされても常に嬉しそうに笑っているべきであるが、俺に「泣け」と命じられたならみっともなく泣かなければならない。
すなわち自分は「自由意思のない(一時的な)俺の所有物」である。
今のユンファさんは悲しいかな、俺の「綺麗なお人形さん」なのである。俺に服を脱がされても何を着せられても嬉しそうな顔をするしかない、彼は俺の「着せ替え人形」なのである。彼は俺に頬を打たれても犯されても、何をされても「気持ちいい」と笑う、俺の「ラブドール」なのである。
あるいはまるで俺の「明晰夢」なのである。
俺の願った通りの言動をしか取らないつもりの、美しくも悲しい俺の「明晰夢」――ユンファさんは自ら「俺の夢」になろうとしている。
なぜユンファさんが自ら、そのように凍てついた「鎖」で自分のことを縛り付けているのか?
まずユンファさんは潜在的に、俺に買われた自分の「今」、もっといえば、俺に絶対服従を誓って仕えなければならない「今」に、その隷属を徹底しなければならない「主人(俺)」を差し置いて取る「(心身共に自由を許された)自分の時間」など、たったの一秒たりとも許されていないと認識している。――それが「鎖」だ。
しかもそれのなお悪いことに、今の彼の顕在意識下では「風俗店のキャストとして(自分だけがのめり込んで楽しむのは、客の俺に悪いから)」というだけなのである。
せめて表層にその認識があるのなら、是正もまたその分いくらかは容易いものであったのだが――表面の埃を落とすのならいくらかは容易かろうが、中に入り込んでしまった埃を落とすには、まず解体から始めなければならないだろう――。
ましてや「(奴隷の)自分が何かを楽しむ」だなんてもってのほかであると、ユンファさんは潜在的にそう自分のことを「鎖」で縛り付けている――それはなぜか?
――自分を守るためである。
ひいてはそのような(性奴隷としての)怠慢を犯せば、今に(一時的な主人として認識している)俺の「怒り」を買う。…すると本当の主人であるケグリの「怒り」をも買うこととなり、その結果として、自分は惨たらしい「お仕置き」をされるかもしれない。
と――要するにそれこそがユンファさんのことを蝕み、縛り付け、ときに彼が自らを磔刑に処してさえしてしまうような「恐怖」の正体なのである。
そういったような「恐怖の方程式」がユンファさんの中で成り立ってしまっているのだが、すなわちそれこそが彼に成されてしまっている「マインド・コントロール」なのであり、だから今にユンファさんは、自分でコントロールができない「過剰反応」をしてしまうほどの「恐怖」を潜在的に感じている。
しかし悪いことに、およそ今ユンファさんが認識しているその「恐怖」の程度というのは、「漠然とした嫌な予感」くらいのものであろう。だからなお悪いのである。
――つまり今ユンファさんは、ほとんど無意識で自分を守るために(その「お仕置き」を受けることを免れるために)、自分自身を「鎖」で縛り付け、潜在意識からそのようにして自分を守っている――そのために彼は、「あの場所」に行くことをなかば拒むようにして、何なら「そこ」に「自分の強い関心」があるからこそ、「あの場所」に行くことに対して強い「罪悪感」を覚えている。
だからこそユンファさんは今、とても気楽にはなれないでいるのだ。――ましてやユンファさんの潜在意識にある「鎖」はそれのみならず、『僕はゆるされていない。僕はゆるされない。僕はゆるされてはならない。』というのも、まるで聖痕のように深く刻み込まれてしまっているようである。
また更にいえばユンファさんは、恐らく今の顕在意識上においても自分のことを、「今はなお罪深い」と認識してしまっていることだろう。――しかしそれも俺が思うに、全く誤謬をした認識である。
「……、…“ゆるし”…って……?」
ユンファさんは自分の片手に祈るよう顔を伏せた俺に、ややあってからそのような質問をしてきた。――俺は目を閉ざしていたが、やおら薄目を開ける。
「……ふふふ…、…さあ……?」
俺は目を伏せたままにとぼけた。
なるほど――今のユンファさんは、不意に「自由」を与えられることもまた怖いらしい。
「…貴方に必要な“ゆるし”が何なのか…俺にそれはわからないけれど…――まぁ多分……」
自由…それすなわち、つい先ほどまでは少しも与えられてこなかった、今の性奴隷の自分が忘れたい、忘れていたほうがよっぽど楽な「自我」を思い出しかねないものであるからである。――しかしだからこそ今のユンファさんには、「あの場所」が必要である。だからこそ俺はこの部屋を選んだのだ。
今の貴方には「自由」が必要だ――。
「…きっと貴方に必要な“ゆるし”を与えてくださるのは、“あの場所”だ…――。」
俺はゆっくりと目を上げてゆく――。
まあ平易にいえば先ほどのユンファさんは、「いえ大丈夫です。そんなことよりもっといちゃいちゃしましょう(プレイを始めましょう)」とでも遠慮をしたかったのであろう。しかし彼は動揺のあまり、上手くそのことを言葉にはできなかった。彼は「あの、あの」と口ごもり、すぐにどうしたらよいかわからなくなったろう。
「…ねえ、だけれど本当は…――貴方が一番、そのことをよくわかっているんじゃないのかな…?」
ゆっくりと…目を上げてゆく――。
しかし、「どうしたらよいかわからなくなる」と動揺したということは、それだけ「あの場所」に彼が強く惹き付けられているということである。却ってどうでもよい場所にならユンファさんも、もっと気楽になれたはずなのだから。――要するに、むしろユンファさんの本音としては「ちゃんと見たい」からこそ、いっそ「どうしても見たい」からこそ、彼の精神がそのように揺さぶられたのである。
いや、その「揺れ」はおよそ「あの場所の光」を受けたユンファさんの「魂」が、その「光」によって揺さぶられたのかもしれない。
それほどユンファさんにとって「あの場所」は、「魂」から強く惹き付けられるような場所なのだ。…あるいは「神のお導き」かもしれない。ユンファさんは「魂」から抗いきれない神の力に惹き付けられて、今もなお神に導かれているのかもしれない。――『早くこちらにおいで』と。
いけないと思いながらも強く惹き付けられ……思わず忘れかけていた「自我」を思い出し、激しい抵抗にも近い動揺をするほどに、ね――。
俺はおもむろに伏せていた瞳を上げ――ユンファさんの怯えているような表情を見据えた。
「ねえ、ユエさん…? ――何を怖がる必要があるのかな…、なぜ貴方は…あれほどお優しい方々のことを、そうして恐れるの…? 恐れる必要なんかないはずでしょう……」
「…お、恐れて、……、……」
ユンファさんは「恐れてなんかいませんが」と言いかけて、さなかにハッとした。――自分の中にある「恐怖」が、彼の横目に映ったのである。
「貴方は何も怖がらなくてよいのです。…さあ俺と共に参りましょう、“あの場所”へ…――。」
恐れることなどない。間違いなく「あの場所」は、貴方にとっての「ゴルゴタの丘」ではないのだから――。
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