ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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夢と目合う ※ ※モブユン

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 ※遅くなってごめんなさいです…(>︿<。)! もともとの1が100に膨らんでめっちゃ時間がかかっちまいまじだ(白目)※
 
 
 
 
 
 
 
「…ですから俺は今、のです…――。」
 
 と俺がつい「いつもの口調」でユンファさんに微笑みかけると、それでなくとも呆気に取られていたユンファさんは、…横向きにやや顔を傾けてなかば困惑、もうなかばは怪訝の横目で俺を見てくる。ただ彼の口元には何か、言うに言われぬ微妙な笑みが浮かんでいるのだ――間違えても当たり障りのないようにという慎重な、警戒の、曖昧な笑みだ――が、残念ながらそれはどう見ても、ほぼといった印象をしか覚えない。
 
「………ぁ、は、はあ…? ぇえ、ぇえっとぉー……」
 
 か細い声で言い淀みながらユンファさんは、恐る恐ると俺から目線を外し、その薄紫色の瞳を右斜め上へ向け、その瞳をおもむろに半周させるよう右斜め下へと移動させつつ、間を持たせ――彼は何とかして俺のセリフを理解しようと、またそれには何と返すのがこの場における最適解なのかと、必死に自分の頭の中を探索している――、まばたきがパチパチと多くなった切れ長の伏し目、黒いまつ毛の艶をチラチラと瞬かせながら、彼はわずかに黒眉を寄せ、
 
「……はは…あ、ぁそ、…そぅ…うなんですね、なるほど…」
 
 そう力なく笑うユンファさんは小さな声で、こそ俺の「魂のセックス目合い」を受容したかのような態度をあえて示す――が、しきりにまじろぐユンファさんの伏し目がち、その黒いまつ毛の下、彼の群青色に染められた瞳は当惑にはばわずかに揺らぎ、しかし「なるほど」とは言いながら彼、もはや『ど、どういうことだ…? 駄目だ、まるで意味がわからない…』と――そうユンファさんは、もはや『やっぱり僕に理解するのは無理だ』と、これ以上の追求も理解も受容も全く諦めてしまったらしい。
 彼はいつもならばせいぜい数時間程度の接客も、今宵に至っては、今から実に明朝五時までと長い時間を共に過ごさねばならない客の俺相手に――これから何時間も自分が接客をせねばならない、仕事として好意的な対応をせねばならない、それもほぼ信頼関係の無い初対面(と彼が認識している)客の俺相手に――、今宵も始まって早々の今(自分の正直な感想を口に出し)「いや何言ってんだアンタ、頭大丈夫か?」などと喧嘩を売るわけにはいかないと判断したのである(ある意味では自己防衛本能から、ここはなるべく角を立てないようにと判断したのであろう)。
 
 まあ思考内においてもはなから「いや意味わかんねえけどまあいっか、どうでも」と頭ごなしの否定と拒否から入るのではなく、一旦は柔軟になって、たとえ自分には理解できないことであったとしても、「理解できない、わからない」とすぐに切り捨てるのではなく、まずは何においても理解しようとは努めるべきだ、人間関係とはまず相手に受容と理解を示すところからだ――そうして「まずは相手を理解し受け入れてみよう」と試みるところがまた、何ともユンファさんの立派で素晴らしい、誠実なる好青年らしいところではある(さすがこの俺が惚れた人、俺は彼のそういうところにも惚れたのだよ)。
 ……が、一旦はそうして彼なりに噛み砕いて飲み込もうと努力したはものの、結局及ばず――お手上げだ、と――のユンファさんはどうも理解しきれないと諦め、また上手い切り返しも瞬時には思い付かなかったようではあるが、
 
 ただユンファさんは、今にその「(当たり障りのない)切り返し」を思い付いたようだ。…彼はまた俺の目を見るなり、強いて苦笑いを浮かべる。
 
「あはは…」
 
 しかしユンファさんのそのぎこちない苦笑は、彼としてはむしろおどけたつもりの笑顔である。つまりユンファさんはわざと苦笑いをしているのではなく(むしろ俺に「苦笑い」と思われるのは彼、恐れてすらいるのだが)、恐怖をこらえて無理やり笑っているために「(本音の)ドン引き」がその顔にすこし滲んでしまっているのだ。
 
「ええーいやっい、いつの間にぃー…? あはは、僕、いつの間にカナイさんに抱かれて……いやというかも、もうだっ抱かれ、…ちゃったんですか僕…? へえぇ…僕、カナイさんの瞳に抱かr……え…ど、どういうこと……?」
 
 取り繕おうにも隠し切れないほど狼狽している彼は、結局最後には本音をもらしたが(というか言いながらにして『いや、マジでどういうこと…?』とまたしてしまったようだが)、これで彼、なかばはもう既に納得しかかっている。
 というよりかユンファさんは内心、無理やり自分を納得させようと努めているらしいのだ――『いや多分彼なりのジョークだったんだろう、まあそりゃあそうか。正直なかなか独特なギャグセンスだとは思うが、何にしてもここはノッて笑っておこう、ノリが大事だノリが、丸く収めるにはそれが得策に違いない……』
 
「……なぜそう警戒を……?」
 
「へエッ? いえ! まさかけ、警戒なんてそんな、とんでもないですよ~…! あははは…、…、…、…」
 
「……、…」
 
 四方八方ユンファさんの目が泳いでいる。
 なるほど、なぜかユンファさんにはやけに警戒をされてしまったようだが、いやしかし、俺にしてみれば全く冗談のつもりではなかった。冗談だなんてとんでもない。
 大真面目にあの「ロマンチックなセリフ」を言った俺は、むしろ我ながら、なかなかユンファさんに、ロマンチックな表現をしたように思っている。…のだけれど……なぜだ、なぜそうユンファさんにはされてしまったのだろうか?
 
「…あぁもしかして…わかりにくかったですか?」
 
「…ぁーなん、というか…わっ…かりにく、…ん゛、いやぁまあそ、…うぅん……ははは……」
 
「…………」
 
 ユンファさんのいまだ苦々しいその(あわよくば誤魔化す気しかない)笑みからして、彼は明らかに俺の言った「魂のセックス目合い」への理解に難儀している……というよりか、もはやしている……?
 しかしユンファさんは、まさか風俗店のキャストという立場で、機嫌を取らねばならない客の俺相手に「いや意味がわからないんですけど、ていうか気色悪いんですが」というような、(正直ながらも)辛辣なることはよう言えないのである。
 
「ま、まあ何ていうか…あのぉ、…何て、いうか……」
 
「…………」
 
 そう――ユンファさんの伏し目は今もなおこう言っている。…何なら、いま死んだ目(伏し目)で冷や汗をかきながら必死に(引き攣った)笑みを浮かべているユンファさんは、何となし気の咎めはありながらも――『ちょっと怖い…というか、というか…な、何というか…、これで“いやー凡人の僕には理解できなくって~”とか戯けても最悪ブチギレる可能性あるからなこういうタイプって(俺を理解できないなんて酷い、俺を拒むなんて酷い…的に)、それで怒らせたら……正直、……いや、いやお、お客様をとかとか決め付けるのはよくないよな…よくない。よくないよ…これだけのことでそう決め付けるのは人としてもよくない。し…大体これからこの人と何時間一緒に過ごすと思ってるんだ僕、仲良くしないと、そもそも会って早々だぞ……やっぱり散々引き留めてきたスタッフさんが合ってたのかな……僕、今夜、生きて帰れるんだろうか……? 引き返せ、…ないからなぁもう…もう車行っちゃっただろうし、というか、ここで断ったら最悪殺され……』
 
 いや殺すわけがないのだけれど…――最終的にユンファさんが俺ではなく、他の奴を選ぶような「浮気」をしない限りは、ね。
 
「……あは…はは…、すご、…す、凄くその…ぁ、あの…素敵な…? あぁいや、面白…というかいや、何というか…はは、ぁあーと、その……」
 
 伏し目がちに目を泳がせながら、硬い笑みを浮かべているユンファさんは、更にその当惑明らかな群青色の瞳でこういう――『いや、いやていうかまああれって多分単なるジョークだろう、でも一応“(そのジョーク)面白~い”とかはっきり言うのは念のため避けておこう、“いや違う、ジョークなんかじゃない馬鹿にするな!” だとか地雷踏んでキレられても怖いし(最悪殺されかねない)……で、でも多分本当に、一般人にはかなりわかりにくい下ネタ的なジョークだったんだろうし、あのアレだ、頭が良い人はブラックジョークが好き、みたいなアレだろ多分、ていうかそうであってほしい、むしろジョークじゃなきゃ怖すぎr…、……、…正直信じられない…な、なぜんだ……?』などと、…なるほど、俺は彼にをまでされてしまったようだ。
 ……いやそうか…俺がきちんと「なぜそうなのか」という理屈を(理屈の人である)ユンファさんに説明しなかったせいで、ゆくりなくこうした彼の当惑をくゆらせてしまったのであろう。反省。
 
「…なるほど、すみません説明不足でしたね。つまり、俺たちが瞳と瞳を真っ正面から向かわせ合い、お互いの二つの瞳がぴったりと寸分違わず重なり合うことで“一つ”となる…そういった“見つめ合う”という行為はすなわちセッ…」
 
「ぅあぁ゛ーあ、ぁああの、あのカナイさん? ずっと気になっていたんですが、そういえばさっき、…その…」
 
(なぜか)俺の説明を拒むようにそう切り出したユンファさんは、パッと俺の目を見て、ぎこちなく笑いながらもやはり相変わらず恐怖(『ヤバいジョークじゃなかったらしい、…!』)、…いやそれは認めない…彼は困惑している――が、それこそ「理解できない」から「怖い」のであろうし、俺の「説明が足りない」から「変態的」に思えるのだろうに、なぜユンファさんはその「解明」を拒むのだろうね…? ――、…彼、本当に冷や汗をかくほど困惑し……てはいるがユンファさんとて今、笑みの当惑顔ながらもはにかんだように、じわりとその白い頬を淡い薄桃に染めたではないか?
 ……ただユンファさんのその頬の紅潮が安直に「ときめいたか」と思ってはぬか喜びのようで、どうもその薄紫色の瞳には「ロマンチックで素敵」という感情はひと欠片も無いように見える。
 むしろ『もうこれ以上は勘弁してくれ、というか、何というかこの人、…何となくなんだが、正直していないか…?』
 
 ユンファさんは非常に微妙な笑みを浮かべ(頬はぽっと染まっているが)、その薄紫色の瞳で俺の目を懐疑的には見ながらも、美しいその顔をやや傾ける。
 
「さっきなんて言いかけ…というかその前に色々と気になることがあるんですが、ちょっと…その、…その、大丈夫ですか…? あのさっきちょっと…いや、多分僕の気のせいだとは思うんですが、…正直、どうも正気じゃな…ぁいやすみませんっ、あはは、あははは、いやいやそれはさすがに失礼ですよn…」
  
「ああっ可憐だ…! 頬がそ、染まって…んふふ、とっても素敵。…」
 
 まあ糠喜びこそしないけれど、それにしても、その白い頬に滲んだ淡い薄桃はあたかも可憐……――いやいけない。俺はさっと目を伏せる。
 
「…いえ駄目ですね、どうも絶世の美男子である貴方を前にすると、俺は興奮が抑え切れなくなってしまう…――ちょっと、待っていてね……」
 
 そう言いながら俺は胸の前で両腕を組んだが、それだとどうも落ち着かないので――結局は片手の甲にもう片腕の肘を立て、自分の仮面を纏う顎に人差し指の側面を添える。
 この体勢は俺が頭を働かせる際の癖とでもいうべきか、いや癖、というよりかは、これまでの成功体験から得た習慣というほうが幾分か正しい。とにかく俺は、顎なり頬なりこめかみなり、自分の顔のどこかしらに触れていると何か落ち着いて、滔々とうとうと思考がはかどる人なのである。
 
 いやそれにしても――。
 
「うん、おかしいな…何かがおかしい…、困りました、困った……我ながらはっきり言ってこのままでは危ない…、何故なぜかおかしくなりそうだ……」
 
「…いや何故かというか困っているのは僕っていうかごめんなさい正直もう既にちょっとおかし…」
 
「はい?」
 
(俺に聞こえないように)ひそひそ声かつ(俺に)聞き取れないよう猛スピード早口で言ったこととはいえ、全く聞き捨てならないな、と上目遣いに見ればユンファさんは、大分げんなり顔をしていた――それも俺のことを(俺の正気を疑う)懐疑的な目で見ていたようである…ショックだ…――が、しかし彼は俺と目が合うなりパッと一瞬で、誰が見ても明らかなほどわざとらしい誤魔化し笑いを浮かべる。
 
「…あぁいえいえ、なんでも…あははは……」
 
「……そう。いいよ…その可憐な美貌に免じて、今のは聞かなかったことにしてあげる……」
 
 世の中ルッキズムの不当性が叫ばれているが、それに反してもやはり絶世の美男子とは、こういったときに得をするよね。月下ツキシタ夜伽ヤガキ曇華ユンファという人に対してだけは俺とて、当為とうい大いに贔屓するに決まっている。いや贔屓ですらないか。そもそもユンファさんが、大体のことは笑って許さざるを得ないほどの圧倒的な美貌を持っているのだから、俺が、彼のやることなすこと全てを広大な海ほど大目に見てしまうのも致し方がないこと。
 とはいえ、俺は特別「外見重視主義者」というわけでもなく、美人だろうがイケメンだろうがそうじゃなかろうが、ユンファさん以外の人の外見なんて至極どうでもいいのだけれど――ましてやを持つ俺にとって、表面的な美など高が知れている。俺は友人にしてもむしろ外見にしろ内面にしろUnique唯一無二かつ、波長の合う人としか連れ合おうとは思わない――、しかし相手が絶世の美男子、それも、俺があの日に一目惚れをした初恋の人であるユンファさんともなると、その美貌に対してばかりはさすがに俺だって弱くもなるのだ。
 
「んふ、これが惚れた弱味というやつだね…?」
 
「…へ…? あ、あはは…あぁ、それは…どうも……」
 
「……、……」
 
 棒読み……まあ、まあいい。
 さて、まあそれはいいとしても、困ったことに――俺はまた目を伏せ、顎に添えていた人差し指をすっと立ててその指先を、今度はこめかみに当てる。とん、とん、とん、とそこを軽く指先で叩きながら……俺は対処策を考えねばならない。…今夜が始まって早々、……。
 
 どうも俺は、ユンファさんを前にするとちょっとしたことをきっかけにして、驚嘆が表出るほどに興奮してしまう。そのせいか、どうやら彼には「羞恥心が欠如している」とまで思われてしまったようだが、俺は別にそのような「(ユンファさんにドン引きされるような)変人奇人」では、ましてや俺は間違っても「変態」などではない。
 この俺が「変態」だなんてとんでもない…非常に心外…だが、俺はどうやらユンファさんに、先ほどそういったをされてしまったらしいのである。
 
 この俺が――「変態」だと……?
 俺はまさか露出趣味などないし、まあゲイであることを昔は「変態(性欲)」といったそうだが、今の時代ゲイ(およびレズビアン、バイ)というだけで「変態」と言われるほうが「おかしい」と、だんだん多くの人に、その事実に目を向けてもらえる時代にもなってきた――性愛および恋愛対象が異性か同性かの違いしかないのだから、その通り、基本的には性的、恋愛的指向の他には何一つとして、異性愛者と同性愛者の違いはない。
 何なら「生殖本能に逆らっている」という認識もなかば誤謬ごびゅうしたものであり(全属性別と子孫を残せるアルファ女性、オメガ男性に向けた同性愛はともかくしても)、本能ばかりで生きている動物たちにさえ同性愛傾向が認められているのだから(有名な話でいうと、オスペンギンのつがいが見捨てられた卵を孵化ふかさせて子育てをし、きちんとひなを独り立ちさせたというエピソードもある)、その実、同性愛というのもまた一種の「Naturalな指向」なのである――つまり、その点においても俺は明らかに「変態」ではない。
 
「…たとえ数的に見れば少数派であったとしても、俺は極めてnaturalな男だ……」
 
「……、…、…」
 
 チラと上目に様子をうかがえば、ユンファさんは怯えた顔をして伏し目がち、俯いていた。彼の美しい切れ長の伏し目はこう言っている……――『、ってことか…? いやそりゃあ少数派だろう、だから変態なんだし……』
 
「……はぁ、…」
 
 まあ今はいい。――今このタイミングで俺が何をどう弁明しようとも、ユンファさんには単なる「言い訳」と捉えられかねないどころか、ともすれば、ユンファさんの「(俺に対する変態という)誤解」はより深まるだけかもしれない(問わず語りほど図星を疑われる態度もないのである)――俺はまた目を伏せ、とんとんとこめかみを人差し指の先で叩きつつ……(自信回復と今後の弁明のために)今はひたすら自己正当化。
 
 

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