ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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夢と目合う ※ ※モブユン

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 俺がユンファさんと今にもまた抱き合えそうな距離で向かい合い、「貴方に会うまでに三ヶ月も待ったんだよ」というようなことを言うと、ユンファさんは「…三ヶ月もですか…?」とそう目を丸くした。
 
「…そう、なんだ…三ヶげ……、……」
 
 ……何とも神秘的な瞳である。
 もともとの彼の瞳の薄紫色、いわば淡藤あわふじ色か、薄藤色かという青味がかった淡い紫色から、そうして彼の両方の切れ長のまぶたが大きく見開かれると、その瞳にはより多くの光が取り込まれ、すると彼の瞳はもっと淡く白っぽい色味の薄紫、潤沢なる透明感の美しい白菫しろすみれ色へと色を変える…――あぁ美しい……。
 
「……?」

「…綺麗」
 
 やはりユンファさんの“タンザナイトの瞳”は、世にも美しい神秘的な瞳だ…――Eye candy眼福…――全く贅沢な瞳である。たとえば今は白っぽい薄紫となっている彼の瞳だが、この瞳は時にアメジストのような妖艶な紫にも、またサファイアのような深く高貴な青にも、群青、葡萄茶えびちゃ、紺、瑠璃、青紫、青藤、淡藤、藤色、薄藤、淡紅藤うすべにふじ、……彼の目元に浮かぶ表情や、明暗の加減によって多様な色味に変わる多色性の、まさしくタンザナイトそのものといったような瞳、この神秘的な“タンザナイトの瞳”はまさに唯一無二……というと、
 ……この瞳が五条ヲク家の“神の目”である以上、厳密にいえば「唯一無二」ではないのだが(代々五条ヲク家当主に受け継がれてきたのがこの“タンザナイトの瞳”であり、彼の実母で現五条ヲク家当主のチュンファ氏もまた、彼と同じ“タンザナイトの瞳”を持っている)、しかし、五条ヲク家も代々世継ぎ一人しか持って生まれ得ないこの多色性の“タンザナイトの瞳”は、確実にこの広い世の中でもremarkableな異彩を放つ美しい瞳である。
 
「…カナイさん…? 三ヶげ…、…三ヶ月?」
 
「……綺麗だ…、まさに唯一無二の美しさ……」
 
 なるほどしかし、厳密にいう必要もない。
 というか厳密にいったところでもユンファさんの瞳は、俺にとっては間違いなく唯一無二の瞳なのだ。
 ――俺の唯一神であり、俺の唯一無二の初恋の人であり、十一年前のあの日からずっと俺が一途に想い慕ってきた絶世の美男子、月下ツキシタ夜伽ヤガキ曇華ユンファという人の、この俺が一目で惚れたほどに美しく神秘的な、いわば彼のこの“タンザナイトの瞳”は、まさに俺の「初恋の象徴」といえる貴石奇跡の瞳――初恋というものが至高の恋であると同時に、人の人生における唯一無二の恋でもあるように、また心、現実、内外の世界中どこを探しても、初恋の人という宿運の存在が二人と居ないように、彼のこの美しい瞳もまた、俺にとっては唯一無二の「初恋の瞳」なのである。
 
「……あの、カナイさん…?」
 
「……ましてや…この神秘的な魔性の魅力を放つ美しい瞳に、魅了されない人などいるはずがない……」
 
 まるでタンザナイトそのものといったような、この神秘的な瞳に魅了されない人などどこにいるだろうか?
 ――多くの「一目惚れ」は、「美しい瞳」から始まるものだといわれている。…たとえばアメジストやサファイアかと思っていた貴石が、ただそのような貴石というだけでも美しいというのに、何とふとした拍子にその色を変える。その瞬間には、誰もがあっと思うことだろう。
 
 はじめ見た瞬間には「あぁ綺麗な宝石」とそう、それだけでもその美しさに感心し、しかしのみならず、その綺麗な宝石がパッと色を変える……人は思いがけない奇跡を見たと己の目を疑い、思わず二度見をすることであろう――さっきまではアメジストのように深い紫色であったタンザナイトが、次の瞬間には、魔法のようにパッと煌めきながら色を変えて、サファイアのような濃い青色となっている。そして、その次の瞬間にはまたアメジストのような紫、しかしその次には何と薄紫、群青、紺、ワインレッド、青味の桃色、……
 
 すると人は、そのタンザナイトの魔法のような神秘的な多色性を物珍しがっているうち、段々その移り変わる表情の全てを見てみたいと欲が出てきて、きっとその貴石のことをじっと眺めてしまうことだろう。
 とても目が離せなくなるのである。次はどのような色になるのかな、どんな色になれるのかな、と――そう強く惹き付けられ――そうしてタンザナイトの神秘的な多色性の虜になっては、かの貴石をしばらくじっくりと眺めてしまうように、我知らず人は、ユンファさんのこの“タンザナイトの瞳”に魅せられ、なかば放心状態で、じっとその人の目を見つめてしまうことだろう。
 
 ましてやタンザナイトは、あれこれ傾けるや光に透かすやと試して眺めてみることで、その貴石の煌めきや明澄な美しさに魅了されながらも、ああこの角度のこの色が好き、ああこんな色にもなるのか、などと度々、新鮮な驚嘆の発見をもたらすものであるが、――その多色性の神秘的な魅力がある彼の瞳はそれと全く同様、それも、ユンファさんの目の形自体が切れ長の美しい完璧な形をしているのだから(さながらホープダイヤモンドの輝きを引き立てる、精巧なる美々しいプラチナのペンダントヘッドのように)、見つめるも全く苦痛がない、いくら見ていても不思議なほど飽きない――そのうちに時間をも忘れ、魅入っている――本当に魅惑的な瞳。
 
 彼の“タンザナイトの瞳”にはそうした、誘惑にも近しく人の目を誘うような、特別な魔性の魅力があるのである。
 その美しさはもちろんのことだが、物珍しい色の変わる瞳の面白さは、まず人の好奇心を惹き付けるところから始まる。――そうして初めこそ「好奇心」であったはずが、気が付けば人は彼の瞳に魅せられ、なかなかどうして目が離せず、否応なしにその瞳を見つめてしまっている。…さなかに自分のその愚かしさに気が付けどももう遅い、咄嗟に恥じらいまで覚えればいよいよという感じで、むしろその「気付き」こそが恋の始まりとなるのである。
 
 そうして気が付けば人は、彼のその美しい“タンザナイトの瞳”に「一目惚れ」をしている。
 
「…あの、あのカナイさん、大丈夫ですか…?」
 
「…一目惚れ、しちゃう……また……」
 
 清冽とした水の光沢、澄んだ青味の薄紫色――この“タンザナイトの瞳”の、何と美しいことか!
 もちろんユンファさんはその顔にしても非常に美しく、また長身の彼はスタイルからしてもかなり良いわけだが(もはや遠目からでも一目惚れされかねない)、何より、この“タンザナイトの瞳”に見つめ返されて惚れぬ人などいるはずがない。
 
 この絶世の美男子を前にしては、男や女やベータオメガアルファ…相対した者の属性別などという下らないカテゴリ的バイアスさえも観念する、もはや「絶美」を前にしては、男だ女だ、アルファだベータだオメガだなど無いも同然、男とて「絶美の男」を愛してしまう、女ならば尚「絶美の男」を愛してしまう、男を愛する女ですら彼の膣に指を入れよう、女を愛する男とて彼の陰茎にむしゃぶりつこう、
 
 ――全ての属性別の者の舌が驚く、「何て甘美な!」
 
 全ての属性別、老若男女誰しもがその「絶美」を愛するのみならず、誰しもが多淫にして最高神たるゼウスのように――艶福により肥えた神ゼウスのお眼鏡にも「人類一美しい」とかなった美少年ガニュメデス、その絶世の美貌に一目惚れをして鷹となり、その神の鷹の目に狙われては万事休すの美少年ガニュメデスを、あたかも神の特権とばかりに、人類から強奪するよう天へと連れ去ってしまったかのゼウスのように――、その「絶美」に執着をし、是が非でも我が物にしたいと激しく恐ろしい行動にも出かねない……そう、まるで俺のようにね……。
 
 地上の誰しもがこの危険な美貌の男には一目で惚れる、天の神々においてもその「絶美」を声高々に褒め称え欲しがる――そうして天と地全ての存在が、彼の絶世の美貌を深く愛することであろう。
 
 要するに、この類稀なる“タンザナイトの瞳”をも含めて月下ツキシタ夜伽ヤガキ曇華ユンファという美青年は、あたかも満開の月下美人らしいその美貌で、老若男女属性別に関わらない多くの人々の目を魅了してきたのみならず――しかし、およそ彼自身にしてみれば知らず知らずのうちに――その瞳から放たれる人を強く惹き付ける何か魔性の魅力、媚態というのではない天然の甘い芳香、満開に花びらを開かせた月下美人の放つ濃く甘い魅惑的な芳香…いやその瞳、美貌、もはやその艶めかしい唆られるような芳香は、彼の麗しい全身から放たれているといって何ら過言ではない。

 しかし、やはり何よりも人を強く惹き付けるのはその、美しくも魔性の魅力を放つ、神秘的な多色性を秘めたる“タンザナイトの瞳”――何も俺ばかりではなく、多くの者が彼の瞳に魅せられて、この絶世の美青年に「一目惚れ」をしてきたことだろう。
 
「……え…? ひ、一目惚れ…?」
 
「……欲しい」
 
 しかもある意味では悪いことに、そうして、そのある種悪魔的な魅力に誘われるがままに彼の貴石の瞳を見つめてしまったが最後、その“タンザナイトの瞳”に見惚れているうちに、人の胸の中には「欲しい」という感情が芽生えはじめる。
 
 人が取り憑かれたように見つめてしまう、強い魔力を無防備にも放っている、美しくも純然たる無辜むこの貴石――どのような素晴らしい貴石も、かのホープダイヤモンドと同様に、ただ世にも美しく神が創り出したというだけのこと…すなわち貴石そのものは性善無辜なのである。しかしその「美」は「無防備な美」だ。悪いのは、いつしもその至上の美に魅せられ、貴石という富に執着をする人間のほうなのだ――その瞳の恐ろしい魔性の魅力は、およそ人の目を「神秘の美」で呪い、「美」という鎖で、見る者の目の自由を奪うようである。
 
 そうして世にも美しい貴石へ我先にと伸びる数多の手がひしめき合う、「欲しい、欲しい、欲しい」とタンザナイトは、そのおぞましい無数の欲望の影に脅かされる。
 
 しかし金で買える本物のタンザナイトならばまだしも、当然その貴石の瞳を持つこの美貌の青年は、金なんかでは到底買えない「人」である。
 いや、むしろタンザナイトよりも欲しがられて当然である。タンザナイトという貴石は、人によってはあらずもがなの存在ともなりかねないが、一方のこの美青年は、当然人としての肉体を持っている。
 人によっては何の役にも立たない、下手すれば無用の長物ともなりかねない綺麗な石より、それをも持ち合わせながら確実に欲望を満たせる美貌の肉を選ぶ所以ゆえんは、いわば生物としての真っ当な本能が故か。――結局はタンザナイトという貴石までもが、月下ツキシタ夜伽ヤガキ曇華ユンファという美青年の「代替品」とも成り下がりかねないのである。
 
 だがユンファさんが「人」である以上、その美青年が「欲しい」という己の感情を満たすためにはまず、彼の心が自分に寄せられなければ、俺たちはその美貌の青年を手に入れる契機さえも得られない。
 
 しかしこの美青年の心は強くたくましく、これまでは誰かに寄りかかることさえも必要とはしなかった。そしてこの美青年の心は固く閉ざされており、これまでは決して誰かのものにはならなかった。
 
 しかるに人は、特に男は、なかなか手に入れられない存在にほど強く惹き付けられる。…男は自分の努力が報われる結果が好きだ。男は自分の実力を試された結果、その実力によって得られる実りが大好きだ。そして男は、人がなかなか手に入れられなかったものを「自分が手に入れた」という結果、そしてその結果による己の実力の証拠、ステータスシンボルが欲しい、なぜなら己が手にした「結果」を見せびらかすことで、他の男を見下せるから……まあ男とは、多かれ少なかれ大体そういった生き物なのである。
 
 世の中男のほうが理性的だと言われがちだが、よっぽど和を乱さないに長けた女のほうが理性的かもしれない。
 そういった女の目からは醜悪で野蛮で酔狂なように見えるかもわからないが、そうはいっても、人にはよれど、男は女よりか本能レベルで闘争心が強い生き物なのだ。
 
 つまり男には、どうも「獲得」に酔いれたいという本能がある。
 そして、それだから男の人生は、ちょっとしたボタンの掛け違えを皮切りにして狂う可能性がある…――いくら金を積めども「金では買えない」美青年、またいくら愛を積めどもそれが陳腐じゃあだとなるだけ、そうして簡単には手に入らない「美」にこそいやまさる「欲しい」、「何がなんでも欲しい」、迷走するその渇望にも近しい感情は最悪の場合、人を狂わせる…――まるでかのホープダイヤモンドのように――俺はそうしてユンファさんに狂わされた男を、その実何人も知っている。
 
「……ぁ、あの欲しいって…何が、でしょうか…?」
 
「…欲しい…、欲しい…、欲しい…、欲しい……」
 
 それはまさしく俺である。
 しかし他にも多くいる。ケグリだ。モウラだ。ズテジだ。彼を虐げてきた数多くの男たちだ、彼の肉体を暴いてきた者たち全員だ。そいつらは、月下ツキシタ夜伽ヤガキ曇華ユンファという美青年が、決して「金では買えない」と知ってはいながらも、「何としてでも金で買ってやる」と、彼を金で物にしようとしてきた。
 
 ――それはなぜか?
 
 、あいつらは、彼の人生のほんのひと時を金で買う他に、この絶世の美男子を手に入れられる術を持たないためである。
 俺だけのものと運命初めから定められている月下ツキシタ夜伽ヤガキ曇華ユンファ、その美青年に横恋慕をしてくる俺の恋敵は、これまでも、またこれからも、限りなく数多いことであろう。
 ――だが幸いなことに、
 
「…か、カナイさん? カナイさん? カナイさん、大丈夫ですか? さっきからちょっと…」
 
「貴方が欲しい」
 
「…え…」
 
「俺は貴方が欲しいんだ」
 
 俺はユンファさんの両頬を、そっとこの両手のひらで包み込んだ。あまりにも白いのでひんやりしているかと思ったが、その雪のような白さに反して、彼の頬はあたたかくしっとりとしている。
 そして俺は「俺の目を見て」、その驚きと困惑に小さく揺れながらも従順に俺の目を見てくるユンファさんの、その薄紫色の“タンザナイトの瞳”を、この“アクアマリンの瞳”でじっと見つめる。
 
「……、…」
 
「…貴方は綺麗だよ。本当に美しい」
 
 透き通った瑞々しい光沢のある、二つの薄紫色の瞳――何とも綺麗だ。世にも美しい。――だが、俺の瞳もまた美しいに違いない。
 ユンファさんには、俺の瞳もまたじっくりとよく見てほしいのだ――“神の目”はいずれも神秘的な輝きを持つとされる――俺のこの“アクアマリンの瞳”は、ユンファさんの、その“タンザナイトの瞳”ほど多様に色を変えることこそないが、やはりアクアマリンと同様の輝きがある他、多少なら明暗による色の変化も楽しめる、らしいのだ(らしいというのは、やはり俺も鏡でしか自分の水色の瞳を見たことがないためである)。
 
 ところで俺の“アクアマリンの瞳”、アクアマリンの異名は「天使の石」や「人魚石」、はたまた「不老不死の石」やら「夜の女王」と数あれど、どだい「アクアマリン(海の水)」という名称からも、多くは「青く透き通った海」とのイメージが強いのだが、
 一方ユンファさんの“タンザナイトの瞳”は確かに、某ハイジュエラーが名付けたタンザナイトの名称にまつわる、「(タンザニヤの夜空、あるいはタンザニヤの)夕暮れの空」のよう――ちなみに、五条ヲク家の“神の目”が“タンザナイトの瞳”と呼ばれるようになったのは割とつい最近のことであり、もとは「黝簾玉眼ゆうれんぎょくがん」と呼ばれていたのである(なお“アクアマリンの瞳”もまた以前は「藍玉眼らんぎょくがん」と呼ばれていた)――。
 
 ……とそう、ユンファさんのその“タンザナイトの瞳”を「夕暮れの空」と思ったが、いやしかし、それよりか彼の瞳はもっと神秘的かもしれない。
 
 まこと空には間違いないが、――たとえば日暮れの空と夜明けの空を一枚の写真に切り取ったとして、前情報なしにはその空が夜明けの空なのか日暮れの空なのか、およそほとんどの人には判別がつかないことだろう。
 しかし、全くよく似ているその夜明けの空と日暮れの空には、明確なる対極性がある。朝の訪れの空か、夜の訪れの空か、これより太陽が沈むのか、昇ってきているのか、今から明るくなるのか、暗くなるのか……いや、そのどちらにも転ぶ、朝にも昼にも夜にもなり得るのだ、しかしどちらにも転ばない、それらどれにもなり得ないのだ、ユンファさんの瞳は…――つまり彼の瞳は、その束の間の、そのどちらともつかない「幻想的な一瞬の空」を摘み取った瞳なのだ――全くミステリアスで神秘的だろう。
 
 すなわち、この“タンザナイトの瞳”の神秘的な多色性はさながら夜明けとも日暮れともつかない幻想的な、あのほんの一瞬の、昼と夜、朝と夜の境い目の空、曖昧な、どちらでもないがどちらでもある、いわばTwilight sky…薄明はくめいの空、そのミステリアスな美しい薄明の空をひと欠片摘み取り、丹念に研磨をしたあと、その薄明のぎょくを完璧な切れ長の両目にめ込んだかのよう…――。
 
 その「ミステリアスなTwilight sky」こそが、月下ツキシタ夜伽ヤガキ曇華ユンファの、この“タンザナイトの瞳”なのである――。
 
「……あの、はは…て、照れちゃいます、…そ、そんなに見つめられると……?」
 
「…俺の心が、貴方の瞳の色に染まっている……」
 
 なるほど。俺の瞳がアクアマリンという「海」ならば、ユンファさんの“タンザナイトの瞳”が見せるその「空」の色を、俺の瞳の水面は鏡のように映し出す……のみならず、彼の瞳の幻想的な薄明かりが、俺の瞳の中へ差し込むことによって生まれる「トワイライトゾーン」は、俺の瞳の奥の暗がりが、彼の瞳が放つ光に照らされ、染まっているからこその幻想的な目合まぐわいの証である。
 すなわち俺もまた、月下ツキシタ夜伽ヤガキ曇華ユンファの色に染められるべき存在ということだ。…俺の陽光に染められるべき月、それもまたユンファさんであるが、それと同時に彼は、海である俺のことを染めるべき空でもあるのだ。
 
 
 なるほど、――。
 
 
「……? …ぁ、あのー…?」
 
「……この瞳には永遠を感じる…、飽きるわけがない…、永遠に見ていられるよ、全く綺麗だ、見事なほどに美しい…、まるでタンザナイトそのもの……だが――今は俺だけのものだ…いや、これよりは永遠に…俺だけのもの。んふふふ……」
 
 この“タンザナイトの瞳”と見つめ合えば、何かこの美しい貴石を独り占めしているかのような至福が、俺の瞳の奥に心地良い光の熱となって宿ってゆくようだ。
 ――やがては時間など気にせず、いつでもどこでもこの美しい瞳と好きなだけ好きなように見つめ合え、この“タンザナイトの瞳”を好きなだけ好きなように眺められ、その多色性の瞳が、さまざま多彩な色へと移り変わる様を、ひとまず満足するまで楽しめる至福の日々――が、近いうち俺の人生には必ず齎される。…間違いない。確定事項だ。
 
 俺のモチベーションを保つにおいて、もはやこの“タンザナイトの瞳”を手に入れたいというだけでも、いっそ十二分といえるかもわからない。
 
 いや、俺は今、抗えない吸引力に引き込まれるようにして、ユンファさんの瞳に見惚れてしまっている――これから俺は、何度このような経験をするだろう? 
 
 それこそ俺が見た「予知夢」においても、(恐らく彼と結婚して何年目かだというに)俺はそうして、相変わらずユンファさんの美貌に見惚れていた。
 
 しかし、それもまた全く至福の未来といえるではないか? 何年連れ添ってもなお見惚れるだけの美貌をもつ人を、我が生涯の伴侶に…――美人は三日で飽きる、ブスは三日で慣れる? とんでもない! どうやら俺のユンファは、永遠に見飽きない美貌の持ち主なのだ ――もはやただの幸福というだけではいっそ物足りない、そうともなれば俺は間違いなく、「世界で一番幸せな男」となれるのである。
 
 
 大変だ……もはやモチベーションが保てるどころの話ではなくなってきた――マジで勃起してきた。
 
 
「…カナイ、さん…? あの、カナイさん? カナイさん? か、カナイさーん?」
 
「……んふふふふ……」
 
 すなわち見つめ合うとは、ユンファさんの美しい“タンザナイトの瞳”を俺が独占している、ということ。――そして二人きり、二人だけの狭い世界視界で、お互いの瞳の瞳孔の弛緩や収縮、機微ある虹彩の色、その皺一本一本に至るまでもをじっくりと確認し合うとは、まさに隅々まで触れる丁寧な愛撫、まさぐる…ということ。
 またお互いに、相手の瞳の色形を己の瞳にし合うとはいわばキス、それは光沢を生む涙という唾液あればこそ、そして虹彩の色という遺伝子、皺というDNAを相手の瞳の奥の奥、最奥へとす、その瞳の瞳孔に入り込み貫くのは、ぶれのない真っ直ぐとした瞳孔から放たれる光線束、相手の水晶体をも犯し、最奥の視神経に至るまで真っ直ぐと貫く、――畢竟ひっきょう見つめ合うという行為は――「魂のセックス目合い」だ。
 

 
「セックスしちゃった……もう。しちゃったね俺たち。んふ、クククク…」
 
「……は、…はあ……?」

 ユンファさんは明らかに怪訝けげんな顔をして俺を見てくる。――しかし、間違いない。


 
「…ですから俺は今、のです…――。」
 
 
 
 俺は今この“アクアマリンの瞳”で、ユンファさんの“タンザナイトの瞳”を、ひいては月下ツキシタ夜伽ヤガキ曇華ユンファを、俺は、俺のこの瞳で抱いたのである――。
 
 
 
 
 
    ×××


【いつもありがとうございます!
 遅くなって申し訳ありません、ここ数日迷宮入りしておりまじだ……そしてごめんやで、こっそりタイトルを「夢と目交う(まなかう)」から「夢と目合う(まぐわう)」に変更しました……というかむしろ僕的にははじめから「まぐわう」のつもりだったんですが、あ~~ややこしやなので絶対おれこれいつか間違えるな、これぜっったいいつか「まぐわう」を「まなかう」って間違えるな!!と思ってたらマジで間違えてましたしかもタイトルで!てへぺろろろ~~しょぼ~ん……(普通に「目合う」ってまぐわうって読めないからな、皆さまのためにも冒頭あたりにその単語入れてルビふっとこ!とかやってたくせにしっかりタイトルのほうで堂々と間違えてました、やっぱりさすがだね僕、うっかり大臣すぎるなほんとな…) とりあえずもうタイトルしか変える元気がないので、皆さまに向けたブログみたいなんの文中にある「夢と目交う」はもうそのままに生き恥晒しときます、どうか許してほぢ……】
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