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夢と目合う ※ ※モブユン
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しおりを挟む――この人は間違いなく僕の“運命のつがい”だ。
その宿運こそ十三歳の俺があの日に直感したことではあった。
が、しかしこの世じゃ人の直感やら勘やらというのはともすれば漠然とした頼りない、脆弱で根拠の足りない、いわば気のせいとして簡単にあしらわれてしまうほどの、申し訳程度の判断材料扱いを受けてしまうようなものでもあるのである。
――ましてや相手はあのユンファさんだ。
彼は人のことを慮れないとか共感力が低いとか、はたまた人の感情論を認めないような冷血漢タイプではない。
……が、かといってロジカルな人らしいのもまたそのようである。
俺は収集した資料の中にあったユンファさんの大学時代の論文を、眼光紙背に徹するように読んでみた。そしてそれを分析してみた結果、ユンファさんの基本的性格の中には「ロジカルな傾向」がありありと見て取れたのである。
すると感情論やら直感やらよりかは根拠、エビデンス、裏付け、…要するに、そういった確固たる目に見えた証拠も無く俺が「貴方は俺の“運命のつがい”だと思います」などといったところで、恐らく彼は、「多分それ気のせいですよ。というかそんな“運命のつがい”なんてファンタジー、さすがにクサいです」なんて、薄ら笑いでも浮かべて返すタイプだと見える。
「貴方は俺の“運命のつがい”です。」
すなわちユンファさん相手なら、確たる証拠を見せ付けた上で俺はこう言い切らなければならない。
そうでもしなければ十中八九、あの理屈の人であるユンファさんは信じない――というか、そうしても微妙かもわからないが(彼なら更にその証拠を疑う気もしなくはない)……何にしても証拠があるに越したことはない。そのほうがまだマシという程度であったとしも、あったほうがまだプラスであるのはそうだろう。
この件を明らかにしておくにおいての最大のメリットはやはり、『俺たちがかなり稀有な運命の相手同士である』ということをユンファさんに強調できる、というのに尽きる。……するとそれが無いよりは早く、多かれ少なかれユンファさんが俺のことを恋愛対象、ひいては伴侶(候補)として意識するトリガーとなるはずだ。
ということで俺は、すぐさま専門機関に検査キットを申し込んだ。
ちなみに、検査するにおいては医療機関への受診の必要は無かったのだが、これはDNA検査ともなれば同意書には「本名」の記入が必要不可欠であった。――が、それも俺のゆく手を阻む壁とはならなかった。
幸いなことにこの頃の俺は彼の真名――という言い方はもっとも伝統的なもので、「月下・夜伽・曇華」という字(漢字)、いわゆる本名――もまた、ある縁故から知り及ぶに至っていたのである。
のみならず俺は、月下・夜伽・曇華という人の生い立ちから家庭環境、学歴、体のサイズから何から何まで――ユンファさんに関する情報は得られるだけ大小問わず何でも得ようとしていたし、ここまで実際にその多くを得ていた。
しかしもちろんこのヤマトの社会通念上では、勝手に人の名の字を把握するなどというのはまあ、限りなく黒寄りのグレー判定ではある。そのため俺は一応、(それでユンファさんに嫌われても損なので)今もなお知らぬ存ぜぬを貫き通してはいるのだ。――が、その件にしろ、同意書に勝手に彼の本名を記したのにしろ、大義成すためには必要悪であったことだろう。
さて同意書は難なくクリア。電話での本人確認もある男の幇助によりクリアした。そうして検査キットは一週間と経たず我が家へ――では、次に。
どのようにしてユンファさんの検体――皮膚や粘膜など――を採取したものかな。
そこで俺は思い付いた。
あのオメガ専門高級風俗店――ユンファさんが働いている、いや厳密にいえば、モウラとかいうケグリの放蕩息子に騙された彼が強制的に働かされているという風俗店――『DONKEY』を俺が客として利用し、ユンファさんを指名すればいいのだ。
まあそれでまさか「検体を取るためにちょっとうなじをこの綿棒で擦らせてもらってもいいですか?」などと馬鹿に真正面からの体当たりをするわけにはいかないが(それで「いいですよ」などと快諾されてはむしろ俺が恐ろしい)、しかし風俗店を利用するともなれば、彼の肌をちょっと擦るくらいなら訳ないことだろう。
そうだな……それも、できればユンファさんの知らぬ間に検体採取できることが望ましい。――ということで趣味と実益を兼ねて、その際にはとにかくたっぷりじっくり時間をかけてユンファさんの体を愛撫して長時間愛情を込められながら煮込まれたとろっとろの牛スジビーフシチューのようにしてから、とにかくたっぷり何度も何度も何度も何度も何度も何度もしつこいくらいにイかせてイかせてイかせてイかせてイかせてイかせて金星、いや月に飛んだかくらい、いやいやOver the moonというくらいイかせて彼のことをくったくたのへっとへととなるまで疲労させ、疲労困憊のユンファさんがくったりと寝付いたところでそっと密かにバレないように……検体採取をしようか。
いいね、完璧ではないか。とても楽しそう。
なお、なぜあえて俺が『DONKEY』を選んだのかに関してだが――もちろん俺はカフェ『KAWA's』及び、会員制ハプニングバー『AWAit』の存在にも行き着いてはいた。要するにユンファさんのことを虐待しておきながらも彼の働きのおかげで甘い汁を啜り、奢侈淫佚の限りを満喫しているドブガワ共にもたどり着いてはいたということである。
もちろん、それこそあの『KAWA's』や『AWAit』でもユンファさんに接触することは可能である。しかし諸々の理由からどう考えてもその方法は望ましくないため、今回の場合は『DONKEY』の利用が最適解であった。
例えば『KAWA's』等でユンファさんの検体を採取するとなると、どうしても他の者の体液などまで採取してしまう可能性がある。――またユンファさんの知らない間に検体採取をするということはそれらの店であると極めて難しい。一人の客が彼を独占できる時間があまりにも短いため、常に急かされている状態のユンファさんは神経も過敏になっているだろうからだ。
更にいえば、彼の検体を採取したことがケグリやその店の客などにバレてしまうリスクもあるため、やはり二人きりとなれる『DONKEY』での指名が望ましい。
など、そういった諸々ある理由の内には何より、俺がその店へこの胸に一物ある段階で行くわけにはいかなかったというのもあるのである。――それこそあの店には作戦決行の日に奇襲をかけるよう、満を持してからゆくりなく敵陣へと乗り込むことが望ましい。
なぜならその店には、鼻持ちならないあのノダガワ・ケグリが居るからである。
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