466 / 606
目覚める夢
36
しおりを挟む恋い慕う相手のカナエに「好きだ」と告白されたユメミは、本当はとても嬉しかった。…完全に思いかげないことだったかというと、抱き合っていたためにそうでもなかったが、やはり驚いたユメミは――その驚きに釣られて喉元まで、「僕も君が好き」という言葉がせり上がってきていた。
しかしユメミはすんでで思いとどまった。離れ、カナエの真剣な赤ら顔を見ながらおどけて、「え?」と笑った。
「カナエくん、じゃあ僕とキスしたいってこと? 僕と、エッチできるってことなの? カナエくん、そんな…、そんな…」
ユメミはカナエを拒むつもりだった。「僕のこと、そんなふうに見てたの? 君は男なのに、気持ち悪い」――ユメミはそう言うつもりだった。だが、ユメミにはそれが言えなかった。
好きだったからだ。大好きなカナエを、傷付けたくはなかったからだ。
「できるよ。したい」
そう真剣な顔をして言ったカナエは、それを証明するとでもいうように、さっとユメミの唇を奪った。
驚いたユメミは目を瞠ったが、二人の合わさった唇はお互いに震えていた。――結局ユメミは拒むことができずにそっと目を瞑り、カナエは、ユメミの唇の甘さにもっと唇を押し付けた。
ユメミの唇は柔らかかった。しかし、カナエの唇は強張って硬かった。…すぐそこに顔があることはもちろん、お互いの気を使った鼻息にまで、二人はドキドキしていた。
恋をしあった二人のこの初々しいキスは、しかし二人とも各々に、少しだけ思うものが違っていた。
夢を見ているような気分のユメミ――夢を叶えたような気分の、カナエ。
…ややあってゆっくりと離れた二人は、どちらも顔を真っ赤にしていた。…赤面した涙目のユメミに、カナエは真剣な顔をしてこう言った。小さく震えた声だった。
「俺はお前と結婚したい。エッチも、キスも、ユメミとならいくらでもしたい。だから改めていうよ。――俺と付き合ってください、ユメミさん。…そして俺の恋人として、俺とこのダンスを踊ってください。」
カナエは真剣だった。――カナエの今にも泣き出しそうに潤んだ目に、嘘は一欠片もなかった。…その淡い青目を見つめてしまったユメミは言葉を失っていたが、断らなければならないとは思っていた。
「僕、ダンスは踊れないんだ」
だからユメミはこう言った。告白への断りは口にできなかった。…しかしカナエに片手を取られ、その手の甲にキスを落とされると、ユメミはそれ以上何も言わなかった。
二人はそのまま自然と、ノイズ混じりの不細工な音楽に合わせて、ゆったりとワルツを踊りだした。
「ところで、どっちがどっちやる?」
「もう踊り始めて、既に決まってるじゃないか。全くカナエくん、君はいつもそうだ」
二人はお互いに涙目で見つめ合い、笑いあった。
ユメミはぎこちなくステップを踏みながら、なんでもないふりをしている。しかしユメミはその実、腰に添えられたカナエの手にドキドキしていたし、自分がカナエのブレザーをまとう背にそっと添えた手にもドキドキしていた。
カナエはユメミをリードするようにステップ踏みながら、なんでもないふりをしている。しかしカナエはその実、自分の背に添えられたユメミの手にドキドキしていたし、自分でブレザーの上から添えた彼の腰にもドキドキしていた。
何より二人は、瞳の虹彩の皺までよく見える距離にお互いの顔があるのに、今にも死にそうなほどドキドキしていた。だから二人とも、顔をしっとりとうす赤くしていた。
ただ何か二人は同じような、誤魔化しの微妙な笑みを浮かべていた。
「…カナエくん、実は僕、本当にダンスは踊れないんだ」
「今更いうなよ」
「うん、確かに」
「俺に合わせればいいじゃん。てか上手いよ、踊れてる」
「確かに、君のお陰」
ステップを踏みながら、二人は目を合わせるたび、くしゃりと可笑しくなって笑った。そして見つめ合い、すると照れてしまってどちらかが下を見る。――しかしまたどちらかが「カナエくん」あるいは「ユメミ」と呼びかける。するとそれが発端になって、二人はまた目を合わせる。
そのようにしてカナエとユメミは、一曲が終わるまでぎこちなくも可愛らしいワルツを踊った。
11
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説







塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる