ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

文字の大きさ
上 下
465 / 606
目覚める夢

35

しおりを挟む

 
 
 
 
 
 
 
「あ、会えないってなんだよ、ユメミ、なぜそんなことを言うんだよ…」
 
 しかし、カナエにとってそれはショックなことだった。
 何も知らないカナエは、高校を卒業してもユメミと関係を断つつもりなど毛頭なく、むしろ高校を卒業するタイミングで、ユメミに告白しようと決めていたのだ。――なぜ、と尋ねたカナエの言葉に、ユメミは遠く窓の外の夕暮れを見て、振り返らなかった。

「なぜかな。そんな気がするだけだよ」
 
 そうとだけ言って、ユメミは見ていた窓のロックを外し、ガラリとそれを横に引いて開けた。――すると聞こえてきた、文化祭のフィナーレに校庭で開催されている、舞踏会のワルツが聞こえてきたのだ。
 
「そんな気って、」更に問い詰めようとしたカナエ。
 そこで振り返ったユメミはニコッと、困ったように笑って立ち上がり、カナエの手を取った。…カナエは大好きなユメミの、その白くて大きな手に言葉を失った。――そしてユメミは無理やりカナエを立ち上がらせ、「踊ろうよ」と微笑み、そっとカナエの体に身を寄せた。
 
 ユメミの綺麗な微笑が一瞬間近に見えて、近くで見た透き通った薄紫色の瞳が綺麗で、カナエはまた何も言えなかった。ドキッとしたからだ。
 ふわりと嗅いだこともない、甘くて素晴らしい桃の匂いがユメミから香った。……二人は踊り出さなかった。
 
 そしてユメミもまた、カナエの大きな体にドキドキしていた。…カナエから香るほのかな汗の匂いが、なにかやけにとても良い匂いに感じていた。――二人は“運命のつがい”であった。
 
 ゆったりとした優雅な音楽が窓の外から、ノイズ混じりに聞こえている。
 
 二人はそのまま自然と、ぎこちなく両腕を動かして、抱きあった。
 震えている手でユメミの腰を抱き寄せるカナエ、カナエの背中にそっと両手を回したユメミ。――カナエはたまらなくなって思わず、
 
「ユメミが好きだ」
 
 言いながらカナエは、ユメミを強く抱き締めた。
 それに意表を突かれ、驚いたのはユメミだった。
 
「え…?」
 
「俺、一目惚れだったから。初めてのとき付き合ってっていったのも本心だった。此処で寂しそうに外見てるユメミが、すごく綺麗だったから。…っというか、ユメミは本当にいつも綺麗だ。見た目も本当に綺麗だし、お前の中身も本当に綺麗だ。…可愛いと思うときも、カッコいいなコイツって思うときも、美しいって思うときもある。ずっと…ずっと好きだった、お前のことが…」
 
 待ち望んでいながらも、叶ってほしくはなかった“夢の言葉”にユメミは、はっと小さく息を呑んだ。
 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...