ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

文字の大きさ
上 下
460 / 606
目覚める夢

30

しおりを挟む

 
 
 
 
 
 
 
 
 
「お前、俺と付き合わない?」
 
 にわかにそう言われたユメミは、ふっとその白い顔を振り向かせた。…ユメミは冷たく据わった切れ長の目でカナエの顔を見るなり、そのふっくらと赤い唇をゆるく閉ざしたままに何もいわず、ただその人形のように整った無表情を、小さく横に振った。…“いいや”と。
 
 そして彼はすっと立ち上がり、「どこに行くんだよ」と初めてされた拒絶にうろたえるカナエを置いて、その日はふらり、ユメミは鞄を肩から下げて、どこかへと消えてしまったのだ。
 月を手に入れようとした愚かな男。――ユメミのその拒絶に、カナエは初めて自分の愚かさを知った。
 
 ユメミ以外ならばカナエはこれまで、なんだって手に入った。…もちろん本物の愛こそ知らなかったが、それでも仮初かりそめの恋人ならば――実際に作ってはこなかったが――、いくらでも簡単に手に入れられたことだろう。
 
 しかし、いざ本当に欲しいと思った月…ユメミは新月のように消え失せてしまった。するとカナエは悔しいやらショックやらで、その日はとてもよく眠れなかった。――カナエは生まれて初めてされた拒絶にどうしたらいいかわからず、おかしくなりそうだったのだ。
 
 そして次の日にもまた図書室で、また昨日と同じように窓辺でたそがれているユメミのもとへと行くカナエ。
 昨夜しこたま用意した文句の言葉たちを抱えていたはずのカナエは、しかし美しいユメミの横顔を見てしまったら結局、「お前、俺はアルファなんだけど」としか言えなかった。
 
 しかも、それはカナエにとって、あまりにも思わず言ってしまったことであった。…実は自分が一番嫌っていた、“アルファの自分に逆らうつもりか”なんて意味を孕んだその自分の言葉に、内心で一番ショックを受けたのはカナエだったのだ。
 
 というのも、“自分がアルファだから上(それ以外は下)、アルファだからこその特別扱い”――カナエはもともとそうした、世間的にはといわれてしまうような価値観を嫌っていたのだ。
 なぜならその価値観は、カナエにとって損得勘定以上の人間関係を築くことを邪魔するものであり、自分の満たされない気持ちや寂しい気持ちの原因が、その人間関係にあるからだ、と彼はわかっていたためである。
 
 しかしユメミは、「俺はアルファなんだけど」といったカナエにも、まったく動じることはなかった。――それどころか余裕たっぷりに、自分の言葉にうろたえているカナエへと、優しく綺麗な微笑みを向けた。
 
「そう…それで? だから、何。」
 
「え?」
 
 カナエは意表を突かれたように、目を瞠った。
 しかしユメミのほうはというと、何か少し迷惑そうな伏し目がちとなり――その切れ長の目がまた美しく、カナエはどうしてもユメミが欲しいという熱を感じたが、一方のユメミは白々しい感じで、落ち着き払っていた。
 
「僕はオメガだ。それで、君がアルファね…だからってこれから、何か起こるのか?」
 
 と半笑いでのびやかに言って、ユメミはアルファであるカナエを怖がるだとか、あるいはおもねるだとか、そういった態度を見せることはなく――むしろつっけんどんなカナエの「俺はアルファだ」という言葉を、少しからかうようですらあった。
 カナエは言葉を失い、口を少し開けて固まっていた。
 するとユメミは、チラリと冷ややかな目をしてカナエを見遣った。――とても意思の強そうな切れ長の目だった。
 
 
「僕は君に、僕がオメガで、君がアルファだからって、何か特別なことが起こるのかって聞いてるんだよ」
 
 
 ユメミのそれは、挑発的ですらあった。
 これは、普遍的なオメガであればまずあり得ない態度である。…相手がアルファだと知ったとき警戒心を持ったり、あるいは逆らえばどうなるかわからない、という潜在的な認識がオメガ属にはどうしてもあるために、ユメミのこれはまず尋常ではない態度だった。
 ましてやアルファであるカナエは、本能的にオメガに恐れられるばかりか、ベータにさえ媚びへつらわれることに慣れていたのだから、これはカナエにとって衝撃的な出来事だったようだ。
 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...