451 / 606
目覚める夢
21
しおりを挟むそうして僕は、母さんになかば無理やり「ユンファにそっくりな子が出てくるんだから、読んで確かめてみな」と『夢見の恋人』を押し付けられ、それを読むことになったのだが――。
今の僕から結論を言わせてもらうと、ユメミはたしかに、僕にそっくりではある。――薄紫色の瞳、切れ長のまぶた、やや面長のすっきりとした輪郭に痩せ型、作中では鴉の濡れ羽色と表現されている黒々とした眉と黒髪、青みがかった色白の肌…そしてどこか、性格もまた少し僕に似ている。
もちろん僕はユメミのような美少年というわけではないが、ただたしかにユメミと僕は身体的特徴と、そして僕が読んでいて共感しうる程度には性格も、僕に似ている登場人物だったのだ。…が――残念ながら僕には、カナエのような男の子に出会った記憶はない。
僕はその鬼才っぷりから勝手に、pine先生はアルファなんじゃないかと思ってはいるものの、そもそも僕の知り合いには、これまでにアルファは一人もいなかった(それはあくまでも当然のことなんだが、僕が通っていた中高は私立とはいえ、まさか飛び抜けてお家柄も良く優秀なアルファがいるはずがなかったのだ)。
ましてやまさか、pine先生と会ったことなんかあるはずもない。…そもそもソンジュさんと出会うまで、アルファにすら出会ったことがなかった僕だ。
あるいは、僕がpine先生だと知らないで会っていたとしても、そもそも僕は、三歳年下の子と出会う機会なんかそうなかった。――エスカレーター式の男子校で、下級生の幅はもちろん広かったが、部活も人気のない文系(文芸部だ。ただし僕は創作活動はしなかった)で後輩も少なく、周りの友人も同級生ばかりだったのだ。
そしてもちろん、僕の同級生や数少ない後輩たちは、みんなベータである。…あるいはpine先生がベータだったとしても、それこそ文芸部の部員はみんな、もともとの僕タイプ――純愛小説なんて馬鹿馬鹿しい、それなら純文学を読めよ! タイプ――しかいなかったのだから、彼らの中にpine先生がいた…とも考えにくい。
つまり…僕は見ず知らずの“三歳年下の小説家”なんて、本当に誰一人知らないのだ――まあ街ですれ違ったりなんかはあったかもわからないが――。…そもそも、僕を作品のモデルにするほど密接な関係を持った小説家なんか、というかそもそも小説家なんか僕は、今になってやっと出会ったソンジュさん以外に知らないのである。
ということは、だ。
たしかにユメミと僕は似ているにしろ、とはいっても、これは運命の悪戯に違いなく――結局は偶然、所詮は他人の空似、ということである。
「…………」
それかあるいは――…僕が覚えていないだけ、
なんて…まさかな。
10
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説





久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる