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目覚める夢
19
しおりを挟むちなみにその頃の僕は、もう無事に第一志望の大学へ進学していた。
そして、僕は大学から帰って来てすぐ――リビングのテーブルの上に放置されていた、その本…そう。
『夢見の恋人』を見つけたのだ(しかも二冊)。
いや、なぜかとは言ったが、そもそも、こういう純愛ラブストーリーが大好きな僕の家族なんか、一人しかいない。――僕の母さんだ。
正直僕はそれを見たとき、母さんをちょっとからかってやろうかと思った。…大学生ともなっていれば思春期も終わり、反抗期なんてもうとっくに終わっていたし、何より、この頃の僕たちはしばしば「全く母さんは」「ほんっとにユンファは~…」というような冗談を交わしてあっているような親子仲でもあったので、このときも僕は丸々そのつもりであった。
まあ、そもそも僕の反抗期の症状自体一人になりたい、放っておいてくれよ、という程度のものだったし、僕の両親は僕がそのモードとなったら好きなだけ僕を放置してくれていたので、思春期に反抗期が重なっていた時期の僕と両親でも、なんだかんだ言って関係性は良好なままではあったのだが。
それで、洗濯かごを小脇にかかえ――洗濯物を干し終えたのだろう――ガララ、と庭から帰ってきた母さんへ、僕は開口一番こう言って、彼女をからかおうとした。
「…ねえ、母さんってこんなの読むんだ? 本当に女の人ってこういうの好きだよね。…正直どこが面白いの? 人の恋愛なんて見てても、別に面白くもなんともないじゃないか。」
なんてニヤニヤしながら『夢見の恋人』の文庫本を持って言った僕は、大学生にはなっていたが、はっきりいってまだまだ子供だったのだ。――人が面白いと思っているものを馬鹿にすることで、どこか優越感に近しい感情を持ってしまうような…結構、嫌な奴であった(が、男子には割によくありがちな心理状態でもある)。
ましてや、それこそこの頃の僕は、恋愛なんて陽キャのリア充がすることだろ、なんて考えていたくらいの奴だった。…つまり簡単にいえば…恋愛なんてものにキャアキャアしたり、ドキドキしたりなんてことは、僕には無縁のものだと思っていたわけである。
しかし、僕にそうなかば馬鹿にされた母さんだったが、彼女は(もともとさっぱりした性格の人というのもあって)「うん、好きよ。面白いよそれ」とさらり、即答――なんなら彼女、顔自体はクールなところのある美人なんだが、子供のように目を丸くしてきょとーんとしていた――。
「素敵なお話なんだよそれ。ほんとに」
と少しも動じた様子ない母さんは、洗濯かごを窓辺に置いて、すたすたと僕のほうへ歩いてきた。――そして、彼女より背の高い僕を見上げるなり母さん、ニヤッとしたのだ。
「…ユンファも読んでみれば? 読んだら案外、あなただってハマっちゃうかもしれないじゃない。」
「…え? いや、こういうのは僕、マジで興味な…」
「大体あなた、どうせ帰ったらゲームばっかりしてんだから…ゲームなんかより、コレ読んでたほうがまだ、マーシっ!」
と言って僕の手から『夢見の恋人』をパッと奪い取り、グッと僕の胸板へそれを押し付けた母さん。
いや、僕はもともと本が好きだ。…ゲームが好きなのも事実だったが、言われなくともそれこそこの頃は、年に何冊も本を読んでいたくらいだ(完全に文系)。
そして、その本を買ってくれるのは母さんである。
つまり彼女のこれは完全なる嫌味…いや、僕のからかいへの仕返しだ。
「いやいい、ほんとに興味ない…」
僕はうんざりした態度で、それを押し返そうとしたが。
母さんはにやっと笑って、ぐっ。…更に僕の胸に(僕がわずかに後ろへよたつくほど)その『夢見の恋人』を押し付けてきては、悪い笑みを浮かべ――顎を引き、上目遣いで僕を見てきた。
ただし、もちろんまさか息子に女として甘えている顔なんかではなく、完全に『いいのかなぁ…? 損しちゃうと思うけどお?』という、子を煽る母の含みある顔だ。
「……実はこれねぇ、あなたにそっくりな子が出てくんの…。その子がもう一人の主人公で、アルファの男の子のお相手なんだけど…、ねえユンファ…? 実はママ、密かに思ってたの…――もしかしたらその子のモデルって、ユンファ君なんじゃなあーぁい…?」
なんて言うのだ母さんは、にやりと悪い顔をして――。
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