ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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目覚める夢

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「…………」
 
 では…モウラとのことには、何かしらちょっとしたものでも、何かヒントのカケラくらいはないものだろうか。
 騙されていたとはいえど、一応恋人関係であったモウラのときは、どうだったか――と…思い出してはみるが。
 初めて誘われたデートのときも夜に待ち合わせ、安いチェーン店の居酒屋でいくらか飲んだあと、夜の公園を手を繋いで歩き――ホテルに誘われたが、僕はその日は断った。
 そのあとも同じようなデートを何度かしたのち、(嘘とはいえ)モウラから告白をされて僕たちは付き合い、そのあとは――今思えば僕はかなり馬鹿だなと、今ならわかるが――費用はすべてモウラ持ちだったとはいえ、僕ははじめからモウラと昼に会ったことはなく、恋人になったあとは尚の事ロクなデートもしないで、ほとんどモウラと僕は、ラブホテルでセックスばかりしていたじゃないか。
 
 デートというか…もはやあれは、デートですらない。
 結局モウラは僕を抱いて、抱いて、抱いて…表向きばかりは優しく僕を抱いて――ひたすら抱いて、ひたすらセックスをして、――『綺麗だよ、ユンファ』
 
 
「……、…」
 
 
『…んっ…、モウラ、さ…っあ…――んっ…ん…、あっあんまり、顔…見ないで…、変な顔、してるから……』
 
『…どして。いいんじゃん別に、ヤってたらそんなもんでしょ。てかそういうの萎えんだけど』
 
『……え、…あ…ご、ごめん、でも、僕……』
 
『だから顔隠すなって! お前ぶっとばすよ、…』
 
『ひっ…ご、ごめんなさい……』
 
『いや、――綺麗だよ、ユンファ。あともっと声出して、ちょっと萎えてきたわ…』
 
『あっ…ご、ごめんなさ、…ん、…あぁ…あ……』
 
『もっと子宮めちゃくちゃに突いてっていえよ』
 
『んっ…も、もっと…僕の子宮…め、めちゃくちゃに、突いて…モウラさん……』
 
『はは、可愛いじゃん。ちゃんとめちゃくちゃになれよ?』
 
 
 
「……、…」
 
 
 馬鹿だ…恋人なんていっていたときから僕は、性奴隷として扱われていたじゃないか。何が、恋人…なぜ愛されてると勘違いできた、なぜ騙されていた、なぜ――僕は、
 
 
『バーカ。マジで馬鹿だよな、お前さ。さすがオメガって感じ? 毎日穴という穴にちんぽ咥え込んでる淫乱肉便器のくせに、“まだお付き合いしてないから”なんて純情ぶって俺とのセックスを断ってるお前、マジで面白かったわ。…なに自分の価値見誤ってんの? ヤバい勘違いだかんな、それ。肉便器のお前の体なんかさ、正直タダでも高いわ。これから毎日、タダまんよろしくな。』
 
 
「……、…、…」
 
 僕は、…綺麗じゃ、ない。
 肉便器だ…――タダよりももっと安い体だ。
 こんな顔で、こんな体で…抱いていただけるだけ、有り難い。
 
 
『…どこまで頭弱いのお前? 嘘なわけねーじゃん。――いや、お前を愛してるってのが嘘。借金も嘘。…馬鹿なお前を風俗に堕として、金稼ぎがしたかっただけだよ。親父の計画に、一枚噛ませてもらったってだ、け。』
 
 
「……、ごめん、なさい……」

 やっぱり、僕なんか、綺麗じゃない。
 本当に僕なんかでいいのだろうか、ソンジュさんは、本当に…――「貴方は本当に美しいよ…。とても綺麗だ、ユンファ…」――『綺麗だよ、ユンファ』――「こんなに美しい人に惚れてしまった俺はきっと、なんだ。ははは…」――『綺麗だよ、ユンファ』――「……。本当に綺麗だ、貴方は本当に綺麗だ…本当に、…ユンファさんは理性無くなるくらい綺麗だよ! っその、いや…聞いて…――俺はユンファさんのことが本当に大好きだよ。貴方は本当に美しい、心から綺麗だと思ってる…本当だ、貴方は見惚れてしまうくらいの美形だ。貴方の全てを俺は本当に、本当に心から愛してる……」――どうしてを、
 残酷な嘘だ、愚かにも真に受けてしまった、…有り得ないのに――。
 
「ごめんなさい…、ごめんなさい……」
 
 綺麗じゃない…綺麗じゃない、こんな体…こんな顔、ブスで汚くて、馬鹿で変態、淫乱のマゾ、取り柄なんか何もない僕だ、それなのにどうしてソンジュさんは、僕なんかがいいと言えるんだろう、――ソンジュさんもやっぱり、モウラみたいな裏があるんだろうか、僕のことを利用して、何か利益を得たいだとか、そういう…――有り得ない。
 
「……、…」
 
 どうして…僕、どうして僕なんだろう。
 彼の婚約者の人のほうが絶対綺麗だろうに、絶対にその人のほうが容姿も中身も、美しいんだろうに――なぜあえて僕なんだろうか、チョロいからだろうか、馬鹿だから、騙しやすいからだろうか。
 駄目だ…僕は、またソンジュさんのことを疑ってしまっている。…これでも僕は彼を信じたいのだ…だが、どうしても警戒してしまう。――またモウラに騙されたときのようなことが、起こってしまうんじゃないかと。
 
 
「…………」
 
 ソンジュさんもいつか――モウラのような、をしてくるんじゃないだろうか。
 彼も本当は、ただ僕をもてあそんで、楽しんでいるだけなんじゃないだろうか。…「綺麗だ」という言葉を真に受けている僕を見て、内心では僕のことを「馬鹿なやつだ、不細工のくせに」と嘲笑っているのかもしれない。――本当は僕と結婚するつもりなんかなく、本当はきちんと婚約者と結婚をするつもりで、ただそのようにプロポーズをして僕が真に受けるかどうか、そのあとあっさり捨てて…絶望している僕を見て、ただ楽しみたいというだけなんじゃないだろうか。
 
 
 “「いやユンファ、まさかお前のような、馬鹿で愚図で。ブスで淫乱で。オメガにしても全く出来損ないの。誰にでも股を開くような、タダまんの。どうしようもない変態オメガのお前なんぞが、――私たちに、本気で求婚されていたとでも思っていたのかね…?」”
 
 
「……ごめんなさい…」
 
 わかっていた。
 僕なんか…――僕なんか、誰にも愛されるわけがない。
 それこそご主人様がたにさえ、僕は愛されない。
 まさか有り得ない…――有り得ない、有り得ない、有り得ない。
 
 “「オモチャにして遊んでいただけだよ、ただの都合のいい道具だ、お前なんぞ。…そうして遊んどるうちに、あるいは、アルファの血が入っとるオメガのお前と…同じくアルファの血統を受け継いだ自分たちの間に、アルファの子供を作ろうとしていただけなんだ。」”
 
「…はい……」
 
 “「…お前にアルファの子供を孕ませ、産ませてやろうな。――なあユンファ…じゃなきゃお前のような、どうしようもない淫乱のマゾ肉便器を、誰が娶ろうなどとするものかね。誰にでも股を開く、汚い体のくせしてなぁ…恥を知らんか恥を。常に体中からザーメンのにおいがしてたまらんわ、臭いぞぉ、なあユンファ」”
 
 
「……はい、ごめんなさい……」
 
 まさか、本気で性奴隷の僕なんかと、結婚したいわけがない。
 九条ヲク家のソンジュさんが――という以前に、利害の一致も何もなく、ただ僕を好きだからと求める人も、ましてや僕なんかと結婚したいなんて思う人は、そもそもいないのである。
 
 
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