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夢見る瞳
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しおりを挟むもし本当に、もう既にソンジュさんには、決められた婚約者がいるというのなら――ならば尚の事僕との結婚なんか、彼のご両親が許すはずもないことだ。…もしか、だから彼は「(自分のご両親には)事後報告をするしかない」と言ったんじゃないだろうかとも思える。
そうなら僕は、どうしたらいい――?
僕がなぜこのように苦悩するか…それは、ソンジュさんのその気持ちに応えたいという思いが、確かに僕の中にあるからだ。――唯一の我儘。
「……、…、…」
これまで…あんなにボロボロになるまで耐えてきたソンジュさんの、その唯一の我儘を聞いてはあげたい。そもそも僕だって本当は…――しかし、僕との結婚によってソンジュさんは、不幸にもなり得ることだろう。
周りに祝福されない結婚では、人は幸せになれない。
ただ二人が幸せなだけでは、ままならないものだろう。
二人きりで生きてゆけるわけではない。
人は人としてコミュニティに属さなければ、生きてはゆけない。――彼は先ほど「二人で逃げよう」とも言ったが、九条ヲク家という余りあるほど知名度のある名家に生まれたソンジュさんが、どこかでひっそりと隠れて暮らす、なんてことはまず到底無理な話だ。
ましてや彼は、九条ヲク家の次期当主という立場の人である。
すると、まず海外に行こうとも逃げ切ることなんかできない。ヲクという名は海外でも、ヤマト王家の末裔として有名なのだ。…結局どこに行ったって、彼の背中の九雀はその数多の神の目で監視しているし――どこに行こうが結局、あの九雀はソンジュさんを、九条ヲク家に縛り付けることだろう。
また、その立場から逃げずに僕と結婚をしても、ご両親が認めないならばどのみち、ソンジュさんは不幸になってしまうかもしれない。
そもそも認められていない結婚では、「さっさと別れなさい」といわれてしまうのが関の山だろう。
なら僕がご両親に認められればいいわけだが、本当にソンジュさんに決められた婚約者がいるとしたら、尚の事それはかなり望み薄なことだ。――ソンジュさんのあの勝算を聞いた上でも、正直僕はそのようにしか思えない。
それはなぜか。
それはソンジュさんのみならず、もう既に彼と結婚をすると、いわば人生の道筋を決めた彼の婚約者の人と――そのつもりで彼らをサポートし、またソンジュさんのご両親ともそのつもりで関わり合っているだろう婚約者のご両親、親戚の存在があるからだ。
当然のことながら結婚というのは、当人二人だけの人生に変化をもたらすものではない。…両家の両親を含めた、――ソンジュさんが九条ヲク家の人ならば尚の事――多くの親族の人生をも変える人生の大きな選択が、結婚というものなのである。
はっきりいって、これで僕とソンジュさんが結婚をしてしまえば、ソンジュさんはかなり勝手な人だ。
それこそ婚約者の人はもちろん、婚約者の親族たちだってそれですんなり、はいそうですかと引き下がるわけがない。――どうしたって、無茶で勝手な我儘を言っているのは、ソンジュさんになってしまうのだ。
ソンジュさんのご両親、婚約者、婚約者のご親族――突然現れた僕とソンジュさんが結婚し、そして「あなたとは結婚しません」なんて言った日には、みんな面目丸潰れだと憤るに違いないだろう。
婚約者の人だって、昨日まで確かに結婚すると思っていた相手のソンジュさんに、いきなり「好きな人ができてその人と結婚するからあなたとは結婚できなくなりました、さようなら」なんて言われた日には、根底から何もかもが崩されたかのようなショックを受け、屈辱や恥辱を味わってしまうとは、さすがに容易に想像がつく。
勝手に何を決めているんだ、そんな話は聞いていない。
例えば、自分の子供が突然そのような無下な婚約破棄を切り出されたら、僕だってそう怒ることだろう。――例えば僕が、そのようなあまりにも突然で残酷な婚約破棄を言い渡されたら…それこそ僕だって、ショックを受けるに違いない。
これまで結婚することを前提に付き合ってきた恋人…そのようなソンジュさんに、「やっぱり好きな人と結婚するから、さようなら」なんてある日突然言われた日には、どこまで勝手なのかと僕だって怒ることだろう。――しかもその相手は、性奴隷だった僕のようなのである。
推測するに、九条ヲク家のソンジュさんの許婚ともなればまず家柄も良く、当然、まさか僕のように性奴隷になった経験などないような、そんな身綺麗な人のはずだ。
またこれは憶測の域を出ない話だが、九条ヲク家の跡継ぎ(アルファの子)を生まねばならないともなれば、ソンジュさんの婚約者とはもしか、ヲク家に関連した名家生まれのオメガ、かもしれない(ベータ属とではベータ属が生まれやすいためである)。
すると、僕のような性奴隷であった身分卑しいオメガに、ソンジュさんを盗まれる――酷くプライドを傷付けられた果て、あるいはどうなってしまうか…その人は自殺を考えてしまうかもしれない、下手すれば月下の両親にも迷惑がかかるかもしれない、考えるだけでも恐ろしいことだ。
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