ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

文字の大きさ
上 下
422 / 606
夢見る瞳

25

しおりを挟む

 
 
 
 
 
 
 
「……、…」
 
 そういえば『夢見の恋人』は、ファンも多いために企業も成功間違いなしとメディアミックス――つまり映画化やドラマ化、マンガ化、アニメ化などの話もしばしば持ち上がるのだ。
 
 しかし、そういった噂は結局今のところ、すべてがしまっている。
 
 というのも、これは真偽不明の噂ではあると思うが。
 それらの企画をpine先生も一度は承諾するものの、『夢見の恋人』への思い入れが強いためか――処女作であり、自分の原点にして成功の象徴であればこそ、そんなのは当然だと僕は思うが――。
 ではいざ製作、の段階となるとpine先生が、たとえば脚本が気に入らない、こんなセリフを入れてもらっては困る、こんな展開は許せない、そもそも俳優が気に入らない、演技がイメージと違う、声が合わない、作画が気に入らない、この描写は自分のイメージとは違う、だとか。
 何かとpine先生が、をつけはじめる。
 
 ――それこそ先生の、他の作品に関してはそれらメディアミックス化が実現しているというのに――『夢見の恋人』にだけは特別な思い入れがあるのか、先生のそういったによって、結局はそれらすべてがお流れ、企画倒れとなる。
 人件費だって既にかかっている状況で「納得できないのでやっぱり無しで」は、若くして成功してしまったばかりに社会経験がない作家の傲慢だ。周りを振り回してもなんら悪びれることもなく、若いときからちやほやされすぎたばかりに自惚れ、王様気取りの我儘で調子に乗った作家がpineなのである。自分と、自分の作品へのナルシシズムが酷い。さすが中学生の癖に未成年同士のエロシーンを描いた非常識な作家なだけある。
 
 そして今となっては、もう端からそういった『夢見の恋人』の企画は、全て断られるようになり――いまだに「〇〇化したら“夢見の恋人”の人気が再燃しますよ」といったような声掛けはあるそうだが――、pine先生はもう一切取り合わず、取り付く島もない。
 
 謙虚さのカケラもない、本当に傍若無人な作家だ。
 読者はみんなメディアミックス化を望んでいる、ましてや続編だって待ち望まれているというのに、自分のプライドのほうが大切で、ファンの気持ちには一切寄り添わない、成功を鼻にかけて自惚れた、傲慢な作家だ――。
 …というような記事が、ゴシップ誌に掲載されていた。
 
 ちなみに僕はこれ、pine先生を世の中が責めるように、またその人が炎上するようにと、世論を批判の方向へ向けよう、というような悪意ある書き方の記事という印象を受けた。
 
 ただ僕の個人的意見としては、それは何もpine先生が傲慢なんでも、我儘なんでもないと思うのだ。
 ファンとしてはそりゃあもちろん、カナエとユメミがそういう、また小説以外の作品となっていきいきと動いている姿を見たいというのはあるが――とはいえその一方で、pine、という気持ちも大いにあるわけだ。
 
 それこそ原作たる、『夢見の恋人』を踏襲したものこそ僕らファンが求めているものなのであり、別人のようになったカナエやユメミを見たいとは少しも思えない。――まして『夢見の恋人』のストーリーが好きだからこそ、メディアミックス化したそれらも見たいわけであって、全くの別ストーリーになんかされてしまったら、カナエたちが言わないようなセリフを言っている姿なんて、…それこそ原作ファンとしてはガッカリだ。
 
 僕は一ファンとして、『、カナエとユメミが見たいのである。――そしてpine先生もまたそのようなお気持ちで、自分の『夢見の恋人』のカナエとユメミをきちんと描いてほしいからこそ、なかなか首を縦には振れない。…ましてや先生はもうこれ以上の迷惑をかけたくないからこそ、『夢見の恋人』に関してはもう一切、メディアミックス化を断っているんじゃないだろうか?
 だというのなら、むしろ常識的かつ合理的な判断をされているようにも思う。
 
 傲慢だろうか?
 傍若無人とはいうが、ましてや、そんな裏事情など露ほども知らない僕が何を言えるわけでもないが、どちらが悪いともわからないが――むしろファンとしては、その姿勢のほうが嬉しくもある。
 
 そもそも苦労して、一からキャラクターやストーリーを生み出したpine先生が、これはユメミじゃない、カナエじゃない。これは『夢見の恋人』じゃない。――世の人にを見せることは原作者として許せないし、自分の意向に添えないというのならば、このお話は無かったことに。――pine先生がそうおっしゃられるのは、あくまでも当然のことだろう。
 
 それこそ我儘でも難癖でも何でもなく、原作者であるpine先生にこそその権利があって然るべきであるし、ファンの気持ちに寄り添わないとはいうが、その一貫していて真摯な姿勢は、逆に自分の作品を愛しているファン想いなくらいじゃないだろうか。――むしろあたかもpine先生を世の中に叩かせようとしたその関係者こそ、傲慢というか何というか、僕はpine先生の大ファンであるというのもあって、その狡い方法で先生を従わせようというようなタレコミ主のほうが、正直かなり嫌なやつだと思ってしまう。
 
 まあ『夢見の恋人』の続編も出ないうえ、メディアミックス化もしない――もう今後『夢見の恋人』の新しい情報は出ない――というのは、正直少し残念には思うが。
 
 僕は、こればっかりは仕方ないことだとも思ってはいるのだ。
 それにそういう事情も鑑みれば、もしかするとpine先生はむしろ、『夢見の恋人』への熱量がどの作品よりも高いばかりに、妥協できないのかもしれない、という…ファンとしてはもできるのではないか。
 無闇矢鱈と他人の手が加えられたくないことに関してもそうだが、つまり自分自身が執筆するにおいても殊に、『夢見の恋人』に関してだけは妥協できない、だから続編は構想があろうが書き上げていようが、納得ができるまでは発表はできない…――なんて。
 
 なんて…そんなこと、あったりしないだろうか?
 いや、こんなのは勝手な(希望的観測の)想像でしかないが、もしそうなら『夢見の恋人』が大好きな一ファンとしては嬉しいような、寂しいような…まあ複雑な心境だが。――でも、ならばあるいは、いつか先生が納得できる仕上がりになったら…、なんて……まだ叶わぬ夢を見ている僕だ。
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...