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夢見る瞳
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しおりを挟む「……、…」
そういえば『夢見の恋人』は、ファンも多いために企業も成功間違いなしとメディアミックス――つまり映画化やドラマ化、マンガ化、アニメ化などの話もしばしば持ち上がるのだ。
しかし、そういった噂は結局今のところ、すべてが噂で終わってしまっている。
というのも、これは真偽不明の噂ではあると思うが。
それらの企画をpine先生も一度は承諾するものの、『夢見の恋人』への思い入れが強いためか――処女作であり、自分の原点にして成功の象徴であればこそ、そんなのは当然だと僕は思うが――。
ではいざ製作、の段階となるとpine先生が、たとえば脚本が気に入らない、こんなセリフを入れてもらっては困る、こんな展開は許せない、そもそも俳優が気に入らない、演技がイメージと違う、声が合わない、作画が気に入らない、この描写は自分のイメージとは違う、だとか。
何かとpine先生が、無茶な難癖をつけはじめる。
――それこそ先生の、他の作品に関してはそれらメディアミックス化が実現しているというのに――『夢見の恋人』にだけは特別な思い入れがあるのか、先生のそういった我儘によって、結局はそれらすべてがお流れ、企画倒れとなる。
人件費だって既にかかっている状況で「納得できないのでやっぱり無しで」は、若くして成功してしまったばかりに社会経験がない作家の傲慢だ。周りを振り回してもなんら悪びれることもなく、若いときからちやほやされすぎたばかりに自惚れ、王様気取りの我儘で調子に乗った作家がpineなのである。自分と、自分の作品へのナルシシズムが酷い。さすが中学生の癖に未成年同士のエロシーンを描いた非常識な作家なだけある。
そして今となっては、もう端からそういった『夢見の恋人』の企画は、全て断られるようになり――いまだに「〇〇化したら“夢見の恋人”の人気が再燃しますよ」といったような声掛けはあるそうだが――、pine先生はもう一切取り合わず、取り付く島もない。
謙虚さのカケラもない、本当に傍若無人な作家だ。
読者はみんなメディアミックス化を望んでいる、ましてや続編だって待ち望まれているというのに、自分のプライドのほうが大切で、ファンの気持ちには一切寄り添わない、成功を鼻にかけて自惚れた、傲慢な作家だ――。
…というような記事が、ゴシップ誌に掲載されていた。
ちなみに僕はこれ、pine先生を世の中が責めるように、またその人が炎上するようにと、世論を批判の方向へ向けよう、というような悪意ある書き方の記事という印象を受けた。
ただ僕の個人的意見としては、それは何もpine先生が傲慢なんでも、我儘なんでもないと思うのだ。
ファンとしてはそりゃあもちろん、カナエとユメミがそういう、また小説以外の作品となっていきいきと動いている姿を見たいというのはあるが――とはいえその一方で、pine先生が納得した作品だからこそ見たい、という気持ちも大いにあるわけだ。
それこそ原作たる、『夢見の恋人』を踏襲したものこそ僕らファンが求めているものなのであり、別人のようになったカナエやユメミを見たいとは少しも思えない。――まして『夢見の恋人』のストーリーが好きだからこそ、メディアミックス化したそれらも見たいわけであって、全くの別ストーリーになんかされてしまったら、カナエたちが言わないようなセリフを言っている姿なんて、…それこそ原作ファンとしてはガッカリだ。
僕は一ファンとして、『夢見の恋人』の、カナエとユメミが見たいのである。――そしてpine先生もまたそのようなお気持ちで、自分の『夢見の恋人』のカナエとユメミをきちんと描いてほしいからこそ、なかなか首を縦には振れない。…ましてや先生はもうこれ以上の迷惑をかけたくないからこそ、『夢見の恋人』に関してはもう一切、メディアミックス化を断っているんじゃないだろうか?
だというのなら、むしろ常識的かつ合理的な判断をされているようにも思う。
傲慢だろうか?
傍若無人とはいうが、ましてや、そんな裏事情など露ほども知らない僕が何を言えるわけでもないが、どちらが悪いともわからないが――むしろファンとしては、その姿勢のほうが嬉しくもある。
そもそも苦労して、一からキャラクターやストーリーを生み出したpine先生が、これはユメミじゃない、カナエじゃない。これは『夢見の恋人』じゃない。――世の人に名前だけを冠したそれらを見せることは原作者として許せないし、自分の意向に添えないというのならば、このお話は無かったことに。――pine先生がそうおっしゃられるのは、あくまでも当然のことだろう。
それこそ我儘でも難癖でも何でもなく、原作者であるpine先生にこそその権利があって然るべきであるし、ファンの気持ちに寄り添わないとはいうが、その一貫していて真摯な姿勢は、逆に自分の作品を愛しているファン想いなくらいじゃないだろうか。――むしろあたかもpine先生を世の中に叩かせようとしたその関係者こそ、傲慢というか何というか、僕はpine先生の大ファンであるというのもあって、その狡い方法で先生を従わせようというようなタレコミ主のほうが、正直かなり嫌なやつだと思ってしまう。
まあ『夢見の恋人』の続編も出ないうえ、メディアミックス化もしない――もう今後『夢見の恋人』の新しい情報は出ない――というのは、正直少し残念には思うが。
僕は、こればっかりは仕方ないことだとも思ってはいるのだ。
それにそういう事情も鑑みれば、もしかするとpine先生はむしろ、『夢見の恋人』への熱量がどの作品よりも高いばかりに、妥協できないのかもしれない、という…ファンとしては輝かしい見方もできるのではないか。
無闇矢鱈と他人の手が加えられたくないことに関してもそうだが、つまり自分自身が執筆するにおいても殊に、『夢見の恋人』に関してだけは妥協できない、だから続編は構想があろうが書き上げていようが、納得ができるまでは発表はできない…――なんて。
なんて…そんなこと、あったりしないだろうか?
いや、こんなのは勝手な(希望的観測の)想像でしかないが、もしそうなら『夢見の恋人』が大好きな一ファンとしては嬉しいような、寂しいような…まあ複雑な心境だが。――でも、ならばあるいは、いつか先生が納得できる仕上がりになったら…、なんて……まだ叶わぬ夢を見ている僕だ。
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