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夢見る瞳
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しおりを挟むつまりpine先生は、若くしてかなりの天才なのである。
ただ、その若くして…というのが世間に広く知れ渡った事由というのは、正直あまり穏やかなものではなかったようだ。
というのも――恐らくは『中二の天才小説家』という風に売り出したほうが、より本が売れるというような出版社の策略か何かで――あるとき、ゴシップ誌に『pineは中二の天才小説家だった!』という見出しが載った。
しかし、そこまではまあともかくとしても――いや、そればかりでもきっと、当時の世の中の人はかなり(僕のように)驚いたことだろうが――なんと彼は、今でいうところの炎上をしてしまったことにより結果として、世間に、その“十四歳の天才小説家”ということが広く知れ渡ってしまったようなのである。
では、なぜpine先生が炎上してしまったか、というと――実は『夢見の恋人』の作中に、比喩的ながらもセックスシーンがあったためだ。
とはいえそれは、別に直接的な描写ではないし、性器の名称が出てくることもない。――しかし一般的な文芸作品のように、彼らはセックスをしました。との一言で終わっていることもないし、匂わせといえるほどぼやけた描写というわけでもない。
ならどんな感じなのか、というと――そのセックスシーンのみ、あえて二人の会話文だけで構成されているのだ。…するとまあ結局は、最中の描写があるとも言えてしまうわけである。
いや、それが逆に読者の想像力を掻き立てるようであり、またその巧みな描き方によって、作中のカナエとユメミが今どういった状況なのか…が、頭の中に映像が流れてくるほどたやすく想像できるようなものとなっているのだ。――これが本当に芸術的で、天才的なのである。
しかしそのことを、別の方面から見ればこうもなってしまうのだ。
そうであったとしてもpine先生は、自らも未成年の内に…つまり中学二年生にしてセックスシーンを描いてしまったわけで、しかもそれは未成年(高校生)同士のセックスシーンである…ということになる。
それはたしかに間違いないことなのである。――そうともなれば、世の中は大騒ぎだ。
すると世論は大まかに言って『芸術なのだから別にいいじゃないか、こんなに優秀な若い芽をそれくらいで摘むべきではない派(文学という芸術であって明らかにセクシャルコンテンツではない、そもそも情緒的かつ比喩的な表現であるし、高校生ともなればする子も多いのだからこれくらいいいだろ派)』と。
『駄目に決まっている派(いくら比喩的であろうとも性行為の描写は青少年が描いてよいものではなく、ましてや未成年同士の性行為描写は褒められたものではない、同年代への影響も懸念される派)』――に、二分していたそうだ。
ちなみにそうだというのは、僕はその『夢見の恋人』を発売当時に読んだわけではなく、のちのちになってから読んでいるためである。
つまり、僕がこの作品を読んだ時点ではもうすっかりその件は落ち着いており(なんなら忘れている人も多かったのではないか)――またpine先生は、世論にも屈することなく自分の作品を次々と発表していたため、世の中は、その若い天才が描いた作品群の評価のほうに、よっぽど忙しくなっていたのだ。
ちなみに『夢見の恋人』はいまだ出版停止となっていないどころか文庫本化までされているあたり、なんだかんだ言っても、あのセックスシーンも含めて世の中には許容されたということなんだろう。
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