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夢見る瞳
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しおりを挟む僕が数ある小説家の中でも特に好きな作家――pine先生。
そして、彼の作品の中でも殊に僕が好きな作品である『夢見の恋人』の作者もまた、pine先生だ。
ちなみに『夢見の恋人』の主人公は、“カナエ”という男子高校生だ。――薄い金髪に青い瞳を持つ、背の高いアルファの男の子で、名家生まれの美少年アルファということもあり、とにかく彼は学校内外問わず、よくモテていた。
しかしカナエ自身は、多くの人に惚れられはしても、誰かに自らが惚れた経験はなかったが――そんなカナエもあるとき、校内の図書室の窓辺でたそがれていた美少年に、一目惚れをする。
その美少年は、夕暮れに染まる窓の外を、夢を見ているかのように遠くぼんやりとした、それでいてとても色っぽい目で眺めていた――その美少年こそカナエの同級生であり、カナエが一目惚れをした相手――オメガ男性の、“ユメミ”だった。
彼は意志の強そうな切れ長の目をしていながらも、どことなく今にも壊れてしまいそうな雰囲気のある、儚げな美少年なのである。
作中でユメミは――場面によっても違うが――このような感じで表現されている。
透き通るようなユメミの薄紫色の瞳は、見る角度によって赤紫にも青紫にも他の色にも見える、宝石のような美しい瞳だ。
涼やかながらもどこか妖艶な切れ長のまぶた、長く黒いまつ毛は濡れているような艶を持ち、鼻もすっと高くて横顔も美しく、小さくも凛々しいやや面長のすっきりとした輪郭、ぽってりとした唇は、血を薄く塗ったかのように妖しくも色っぽく色付いている。
まるでアメジストに柔らかな白い求肥を被せたかのような、そうした透明感のある色白の肌を持ち、すると際立つのは鴉の濡れ羽色の、美しい黒髪と整った眉。…その上ユメミは背も高くスタイルも良い、痩せ型の美少年である。
優しい陽光のような明るい金髪と美しい青目を持ち、人からは美神アポロンのようだとさえ評されるアルファのカナエ――月光のように儚げな色香をその白肌に纏い、それでいて満月のように意志の強そうな薄紫色の瞳をもつ美少年、オメガのユメミ。
『夢見の恋人』は、その二人の男子高校生たちの、純愛ラブストーリーを描いた作品である――ちなみに何度も読み返している作品のため、僕はもうわざわざ見返さなくとも内容は覚えているのだが、今は割愛する――。
そして、その『夢見の恋人』を書いたのは、pineという作家先生だ――が。
pine先生は、この『夢見の恋人』で作家デビューした当時――なんと、まだ中学二年生であったそうなのである。
それを知ったとき、僕は本当に驚いた。
あの素晴らしい『夢見の恋人』でデビューした当時のpine先生は、まだまだ少年と見做される年齢の十四歳であった――僕が『夢見の恋人』を初めて読んだ大学生の時点でも、彼はまだ十六歳の高校生だった――のだから、そりゃあ驚かないはずもない。
そして、その当時に中二…と計算してみたところ、なんとpine先生は僕よりも三歳年下だった。――僕はそのことを知ったとき、一瞬本当なのかと疑い、いやそんなわけない、と頭でまず否定してしまったほどだ。
それほどに『夢見の恋人』は、とても中学生が書いたとは思えないほどに精巧で、かつとても芸術的な美しい文章で彩られた、かなり完成度の高い作品なのである。
事実、この『夢見の恋人』で華々しく作家デビューしたpine先生は、その作品が世の人に評価され、このデビュー作『夢見の恋人』によって、世にその若き天才の名を轟かせた。…それこそ一時期は、このヤマトで社会現象ともなっていたくらいだ。
そのような人が、中学二年生である――というのだから、もはや天才としかいいようがない。
ちなみにそれを知ったときの僕は、いっそ嫉妬心さえ芽生えるようなことはなかった。…驚愕こそしてはいたが、凄すぎる、と素直に興奮したくらいだ。――いや、まあそれはそもそも、僕が執筆だとかそういった創作活動をしない人であるから、というのもあるだろうし、何より、その時点でもう僕は、pine先生の大ファンになっていたため、というのもある。
この世の中にはとんでもない天才がいるものなのだなと、僕は嫉妬するどころか先生の天性の才能に圧倒され、神秘的な畏怖の念すら覚えていたくらいだったのだ。
いや、もちろん自分より年下だからといって、年上の僕より才能が劣っているだ、僕よりも能力が低いはずだ、なんて、そんなことはあり得ない。――むしろ僕なんかより、才能に恵まれた若い人々はこの世の中にいくらでもいることだろう。
それに、もちろん極々平凡な僕なんかに何か際立った才能があるとも、これから何かそういったものが開花するとも思ってはいないが――往々にして才能というものは、いつ開花するか、それがどのようなものなのか、またいつそれが世に評価されるか……三歳で評価される天才もいれば、七十、八十歳で評価される天才もいる。
当然のことながらそういったタイミングは、人生それぞれ、人それぞれなんだろうとも、僕は思うわけである。
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