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翳目 ※

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「………、…」
 
 見下ろすミルクティーは湯気もない――は、と顔の隣から、反問に近い吐息を聞く。
 だが僕は、これがある意味では今の最善策なんじゃないか、と。…まさか僕のほうからこの提案をするとは思ってもみなかったが、とにかく。
 
 僕はこう考えている。…恋愛と結婚は、違うものだ。
 
 恋と結婚の関係性は、遠い異国とよく似ていないか。
 たとえば…異国の地特産の果物や、インターネットの写真で見るその国の素晴らしい風景で、その国のことを好きになることがある。――遠巻きに見ているほうが、単純に胸がときめくものだ。
 それと同様に恋とは、恋人のことをまだよく知らない段階だからこそ、溺れるように好きになれるものなのかもしれない。
 
 しかし、その遠くから見ているぶんには完璧に見え、本当に素晴らしいと思っている国にも、蔓延はびこが必ずあり、はっきりいって問題を抱えていない国などはない。
 結婚というのは、その人のそうした短所や、あるいは抱えている問題、はたまたその人自体にはなんら卒がなくとも、その人を取り巻く環境や、共にあることで生まれてくるだろう障害や試練を、知らぬままにしてはならない。
 
 その前に、相手をよく知らなければならない。
 まあこれを普通のカップルで当て嵌めるならば、お互いをよく知るために同棲をしてから結婚を考えましょう、といった感じのステップとなるのだろうが(この例えでいうなら、何回も何回も旅行に行くだとか、留学して実際に短期間暮らしてみようといったところだろうか)。――しかし、僕たちにはおそらく、そのステップを踏むだけの余裕も時間もない。

 そして確かに僕は、その素晴らしいと思っている国に住む前に、どうせ無理だと決め付けてしまった。――だからまずは、住んでみよう。
 そうして住んでみた結果、その国の酸いも甘いも知った上でその国を愛し、そこに永住したい、帰化したいと考えられなければならない。
 そうでなければ、まず幸せな結婚とはならないはずだ。
 
 だから僕は、こう考えているのだ。
 今はきっと、この提案が最善策なんじゃないか――そう考えているのだ。
 
「…契約…そうすればきっと、お互いに別れざるを得なくなったときも、簡単に折り合いがつくだろうし…それこそ、言い訳にも使える……」
 
 きっと、と思っている僕はなぜか、こう直感しているところがあるのだ。
 ソンジュさんは少し、焦っている。――一週間。
 。――それには絶対に、がある。
 一週間と定められた“恋人契約”も、その期間中に僕の心を射止め、結婚に至りたい…というのも、思えば何かおかしいのだ。
 
 ――焦りだ。
 
 焦っている。
 ソンジュさんはなぜか、一週間ということにこだわり、そしてその期間中に僕を確実に惚れさせ、何としてでも結婚に漕ぎ着けようと焦っている風に見える。
 そもそもなぜそこまで僕にこだわり、僕のことを愛してくださっているのか。――それもわからないが、少なくとも僕は、ソンジュさんの気持ちは本物だと思う。
 
「…それに…もしそれで大丈夫なようなら――に移行することも、できるんじゃないかと思うんだ…」
 
 その上で僕は、こう提案しているつもりだ。
 今すぐに解決できない問題や試練、今はまだ見えていないそれらもきっとある。
 だから一旦はし――あとからどうするか…そのように問題解決の方法を考える期間があったほうがきっと、僕たちのようなパターンはよっぽどいいんじゃないだろうか。
 
 
 
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