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恋は盲目 ※モブユン
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しおりを挟む「…ユンファさん…気を付けろよぉ、全く…」
かなり心配そうな顔をしているモグスさんは、くいっと顎でソンジュさんのことをしゃくり、示すと。
「…コイツ、マジでユンファさんのこと好きすぎて、も~~ぉ何するか…」
「…はい。気を付けます、ありがとうございます…――あの、もしかしてですけど、…まさかさっきの話って、僕が監禁されるとか、そういう、こと……いや、まさかとは思いますが……」
好きすぎて…なんだかよくわからないが、僕は気を付けたほうがいいらしいな――まあどのみち僕は今、初期とはいえオメガ排卵期きているので、自然と気を付けることだろうが――、今わかりましたと頷いた僕は、しかしまさかな、と笑う。
いや、事件の話で盛り上がっていたというにしては、あまりにもモグスさんが僕のことをシリアスに心配してくださるもので、…まさか、とは思うが。
「……そうですが」
「…………」
「……、――あの、ところでモグスさん……」
ソンジュさんの肯定は聞かなかったことしよう。
そういえば…と、僕は今しがたやっと思い出したのだ。
そうだ、レディさんたちにあの旨――今後の展開によっては、せっかくお作りくださるという化粧品が無駄になってしまう可能性があるため、ひとまず今回は遠慮したいという旨――を、モグスさんに伝達してもらおうと思っていたんだった。
「…ん?」――僕が話しかけると、どこかきょとんとした顔を僕へ向けてきたモグスさんを、僕は真剣に見据える。
「…すみません…あの、お手数ですが、レディさんたちにこう伝えてほしいんです…――えっと…その、話し合いの結果によっては、もしかすると…化粧品が無駄になってしまうかもしれないので、…悪いんですが今回は、遠慮したいと……」
言いにくいながらも僕がそう伝えると、モグスさんは目を丸くして「あぁ…」と、何か曖昧な声を出す。
それと同時に僕は、ぞく、とする、重たいものを感じた――僕の半身にだけ、まるで重力がいくらか割り増ししているようだ、――そう…ソンジュさんに向いているほうの半身が、だ。
モグスさんはどことなく呆れたような真顔をくい、と傾け、うなじを押さえると。
「…いや…? 正直、その必要はないんじゃない…?」
「…で、ですが、本当にそうなりかねないような…」
…話の内容なのだ。――これで(恋人)契約破棄、ともなったらそれこそ、レディさんたちに申し訳が立たない。
しかしモグスさんは、ひょいっと凛々しい眉を上げ。
「いやいやユンファさん。――多分だけどね、…例えば貴方が、“もうソンジュのことなんか大っ嫌い!” とか言ったってどうせコイツ、貴方のことを手放すつもりなんか、これっぽっちもないよ。…絶対なんかしら理由つけて、丸め込もうだとか? 一緒に解決しましょーだとか。あるいは、ならまた惚れさせてみせますーとしか言わない。どーせ。」
「………、…」
飄々とした――なかば呆れ顔の――モグスさん、そしてひらひら、否に振られるモグスさんの片手。
なぜだろう…『…この一週間以内に――絶対にユンファさんを、本気で俺に惚れさせてみせる。』――ソンジュさんのあの言葉が、パッとなぜか僕の頭にフラッシュバックしてきた。
ましてやこれは、長年共に過ごしてきた、ソンジュさんの短所長所を知り尽くす、いわばお父さんポジションの、モグスさんの言葉――すると、かなり説得力は感じてしまったものの、だ。
いやしかし思うに、僕がソンジュさんのことを「大嫌い」と言うよりももっと、…もっと…別れに直結するような内容の話だと思うのだ。――だから、
「…いえ、大嫌いというよりももっと…その、ソンジュさんにとっては、かなりご迷惑な……」
「うーん…、そりゃあなんなんだって聞きたいとこだがね…――まあ聞かないでおくけどさ? なんにしたってアンタ、ずっと思ってたんだけど…、あーちょっと……」
モグスさんはどこか訝しげな顔をし、そういった鳶色の目で僕を見据え、どことなく疑問げな声で。
「もしかして…結構、ニブチンか?」
「……、は…? ニブチン、ですか…?」
ニブチン…――とは、鈍い人のことだ。
いや、そりゃあ僕は愚図といったらそうなんだが。
なぜこの件で、ニブチン…――鈍い、と?
僕は首を傾げているが、相変わらずモグスさんは呆れ顔である。
「……おぉ、…いや、わかるじゃん…? はっきりいうけどよ…どう考えたって、いや、どう見たってソンジュは、ユンファさんにベタ惚れだろ…?」
「……、…そう…ですか…?」
目が丸くなる。…僕は正直ソンジュさんに、そこまで惚れられているとは認識していなかった。
いや、ベタ惚れ、の基準がよくわかっていない、というのも関係しているだろうが。――であるから僕は、単純な疑問に近い、確かめたい、というようなニュアンスの反問を、モグスさんにしたのだ。
するとモグスさんは、なぜか目をぐわぁっと見開きながら――何かやけにショックそうである――、大袈裟なほど激しく、はぁぁ…っと息を呑む。
「……、…、…っ信じられないわ、こんな、…アレでか? おい、アレでわかんねえってのかい?」
「……?」
なぜそんなに驚かれるんだ。
いや、ベタ惚れならベタ惚れだよ、と肯定していただければ僕は、そうなのかと単に一応は納得したのだが。
「…いやモグスさん、正直俺も苦労しているのですよ…ユンファさんのこれに関してはなかなかね…、はっきりいって、俺もかなり手を焼いているところなのです。」――ソンジュさんにまでどこか呆れ声で、そう言われる始末の僕だ。
「いやだろうなあ…頑張れよソンジュ、…いやーすっごいよ、初めて見たわ、こんな……」
「……、……?」
初めて見たって…何を、だ?
モグスさんは何か、未知のものを初めて見た、というような驚きと関心の顔をして、僕のことを眺めている。
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