ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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恋は盲目 ※モブユン

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【このお話には、モブユン(微?)が含まれています。苦手な方は「※」が付いているページにご注意ください。】

    ×××
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「――ねえ、とりあえずホテルでいい…?」
 
「……、…」
 
 僕の片手を取って引いてゆくのは、見知らぬ男だ。
 後ろ頭も原色の赤髪、この男は僕よりも若干…五、六センチくらいは背が低いか。――僕の数歩前を歩くその男に手を引かれるまま、僕はとぼとぼ歩いている。
 
「…てか、ほんとにオメガなんすよね? 案外その匂い、フェロモンじゃなくて香水? だとしたらちょっと……」
 
「…………」
 
 フェロモンの匂い…オメガ排卵期がきて、初日もまだそう経っていない頃合いだが――おそらく、ベータのこの男に気が付かれてしまったのは、僕が走っていたせいだ。
 
 それは、どういうことか。――つまり僕が走って、である。…というのもフェロモンはその実、汗腺から出てくるものなのだ。
 
 汗腺というのは、肌の毛穴の奥にある。
 そして人間はみんな、汗腺から湧き出てくる汗を毛穴から表へ出すわけだが、その汗腺というものは二種類ある。
 一つはエクリン腺というもの。…ここからはサラサラとした水っぽい、ほとんど匂いのない汗が出てくる。
 
 そしてもう一つは、というもので――簡単にいえばアポクリン腺は、人間のフェロモンを分泌する汗腺である。
 そのアポクリン線は脇、耳の裏、性器周辺、乳輪などに多く存在している――そのため、いわゆるワキガ体質の人はこのアポクリン腺が発達している――のだが、オメガ属は殊に、うなじにも多くそれがある。
 またオメガ属は、他属性よりもそのアポクリン線が多く発達しているため、オメガ排卵期中には濃く強烈なフェロモンが、体中から香ってしまうのだ。
 
 つまり、僕はオメガ排卵期初期に全身にじっとり、ダラダラと汗をかきながら走っていたせいで、そのアポクリン線から分泌され始めているフェロモンが、汗と共に多く流れ出し――結果として(初期にしては)いつもより濃く、フェロモンを香らせてしまったのだと思われる。
 
「…ねえ聞いてる? ねえ、なんでしょ? で、今オメガ排卵期きてんだよね。…」
 
「……ふぅ……」
 
 おそらく、この口ぶりからしてもこの男は本来ならば、僕のような男は性愛対象に含められないタチなのだろう。
 さしずめ、僕がオメガ排卵期のきているオメガでなければ、この男はまず、僕なんかには用無しであった。…そうならこの男は先ほども、その場を素通りしたに違いない。
 
 しかし――僕のフェロモンのせいで、一時的に僕が性的に魅力的に見えていることも手伝い――この男は僕の、オメガ排卵期を迎えたには用があるのだ。
 
「……、まあでも、この匂い嗅いでるとマジでムラムラクるし、多分間違いないか……」
 
「……、…」
 
 つまりこの男は――僕のがあれば何でもよい。
 人の性欲なんて馬鹿馬鹿しいものだ。
 生殖本能と恋愛を同一視する人も世の中にはいるものだが、世の中には、生殖に伴う責任を負いたくない男や女が山ほどいる。――性奴隷になってから初めて知ったことだ。
 
 
 恋なんかしていなくても、セックスは簡単にできる。
 
 
 
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