296 / 606
Frozen watchfulness
26
しおりを挟むすーっ…すーっ…と今度は、丁寧にクシで僕の髪を梳いて、整えてくれているソンジュさんは、後ろから僕に話しかけてくる。
「…俺が思うに…ケグリはきっと、ユンファさんが五条ヲク家の生まれであることを知っていて、貴方を手に入れようとしていたんだと思います。…」
「……、そうかも、しれませんね……」
それこそ、僕こそがそのこと――僕が五条ヲク家に生まれた存在であること――を今日知ったのだが、…逆にいうときっと、月下の両親もそのことを知っていたのだろうし、ケグリ氏もまた、十条に関わりがあるからなのか、はたまた僕の父と友人であったからなのかはわからないが、何にしても、僕もそのように思う。
ケグリ氏もきっと、僕が五条ヲク家に生まれたオメガだと知っていたのだろう。
「…恋心のみならず、ケグリは、貴方を手に入れることによって権力が欲しかったのだろうし…、それに……」
「………、…」
権力…――なるほど、とは思う。
ケグリ氏らしいと、なんとなくだが思うのだ。
自分の大学よりも良い大学に行っていたオメガの僕が、果ては続けて、大学院にさえ行っていた僕が許せず――僕に酷くするときは、いつもあの人…“オメガのくせに、ヤガキのくせに”と言っていたのだ。
そしてソンジュさんは僕の後ろで、少しムッとしたような低い声を出す。
「……復讐の意味もあったのかもね…――というのもケグリは、十条…というか、ヲクにまつわる存在に、恨みがあるのですよ。…」
「……、……?」
ケグリ氏が…ヲク家に、恨み…――?
「…ですから、五条ヲク生まれのユンファさんを犯す卑劣な快感や、優越感…――十条の自分よりももっと高貴な生まれの、五条ヲクの血が入ったユンファさんを所有している、という支配欲…――そういった醜い欲を、きっと貴方を性奴隷にしていじめることで、満たしていたところもあるのでしょう……」
「……、ていうか、ケグリ氏って本当に、十条家の生まれだったんですね……」
そういえば僕は、その点も詳しく聞きたかったのだ。
たしかにケグリ氏は、たびたび自分が十条家の生まれだと言って自慢していた。…正直、僕は半信半疑どころか、ほとんど嘘だと思っていたんだが…――どうやらソンジュさんの口振りからしても、それは事実のようである。
「…それに、恨みって…?」
また、僕はそれに関しても気になっている。
洗面台の広い鏡越しにチラリ見れば、僕の背後に立っているソンジュさんは、僕とおそろいの、紺色のバスローブを着ている。――ただ、僕の髪を乾かすことを優先したその人の、そのホワイトブロンドの髪はタオルドライのみで、いまだ湿ってくっついた細い毛束がちらほら、…しかもオールバックだった髪型から、前髪が下りて…その前髪の影の下、隙間から切れ長の綺麗な目が、――僕の目は泳ぎ、やっぱり僕は、目線を伏せた。
「…うぅん…言うか、どうか…――正直、迷いますね」
「……いえ、無理には聞くつもりないんですが…、……」
なんだか…なぜかはわからないが、ゾクッとしたな、ソンジュさんのその、湯上がり姿…――セクシーだ、というのは本当にそう思ったんだが…なんだろう?
怖いくらい、ゾクゾクっと…悪寒に近かったのだ。
「……まあ少なくとも、俺もモグスさんも、前からケグリのことは知っています。――俺なんかは特に、顔見知りという程度ですけど……」
「…………」
ソンジュさんは詳しい回答をするかどうか、決めあぐねているようだ。――悩ましげに「…うーん…」ともう一度唸ったソンジュさんだが、結局は。
「まあどうせ、これから過ごすうちにわかってしまうことかもしれませんし……」――と、言う向きな考えに変わっていっているようだ。
「…何より、ユンファさんに隠し事をするのは正直、胸が痛みますのでね…――実は……」
そこでソンジュさんは、やはり少し言葉に詰まった。
――しかしそう間を開けることもなく、す、と軽く息を吸い込んでから、思い切ったように。
「――実はケグリ、モグスさんの…実の兄なのです。」
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる