ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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Frozen watchfulness

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 すーっ…すーっ…と今度は、丁寧にクシで僕の髪を梳いて、整えてくれているソンジュさんは、後ろから僕に話しかけてくる。
  
「…俺が思うに…ケグリはきっと、ユンファさんが五条ヲク家の生まれであることを知っていて、貴方を手に入れようとしていたんだと思います。…」
 
「……、そうかも、しれませんね……」
 
 それこそ、僕こそがそのこと――僕が五条ヲク家に生まれた存在であること――を今日知ったのだが、…逆にいうときっと、月下の両親もそのことを知っていたのだろうし、ケグリ氏もまた、十条に関わりがあるからなのか、はたまた僕の父と友人であったからなのかはわからないが、何にしても、僕もそのように思う。
 ケグリ氏もきっと、僕が五条ヲク家に生まれたオメガだと知っていたのだろう。
 
「…恋心のみならず、ケグリは、貴方を手に入れることによって権力が欲しかったのだろうし…、それに……」
 
「………、…」
 
 権力…――なるほど、とは思う。
 ケグリ氏らしいと、なんとなくだが思うのだ。
 自分の大学よりも良い大学に行っていたオメガの僕が、果ては続けて、大学院にさえ行っていた僕が許せず――僕に酷くするときは、いつもあの人…“オメガのくせに、ヤガキのくせに”と言っていたのだ。
 そしてソンジュさんは僕の後ろで、少しムッとしたような低い声を出す。
 
「……復讐の意味もあったのかもね…――というのもケグリは、十条…というか、ヲクにまつわる存在に、があるのですよ。…」
 
「……、……?」
 
 ケグリ氏が…ヲク家に、恨み…――?
 
「…ですから、五条ヲク生まれのユンファさんを犯す卑劣な快感や、優越感…――十条の自分よりももっと高貴な生まれの、五条ヲクの血が入ったユンファさんを所有している、という支配欲…――そういった醜い欲を、きっと貴方を性奴隷にしていじめることで、満たしていたところもあるのでしょう……」
 
「……、ていうか、ケグリ氏って本当に、十条家の生まれだったんですね……」
 
 そういえば僕は、その点も詳しく聞きたかったのだ。
 たしかにケグリ氏は、たびたび自分が十条家の生まれだと言って自慢していた。…正直、僕は半信半疑どころか、ほとんど嘘だと思っていたんだが…――どうやらソンジュさんの口振りからしても、それは事実のようである。
 
「…それに、恨みって…?」
 
 また、僕はそれに関しても気になっている。
 洗面台の広い鏡越しにチラリ見れば、僕の背後に立っているソンジュさんは、僕とおそろいの、紺色のバスローブを着ている。――ただ、僕の髪を乾かすことを優先したその人の、そのホワイトブロンドの髪はタオルドライのみで、いまだ湿ってくっついた細い毛束がちらほら、…しかもオールバックだった髪型から、前髪が下りて…その前髪の影の下、隙間から切れ長の綺麗な目が、――僕の目は泳ぎ、やっぱり僕は、目線を伏せた。
 
「…うぅん…言うか、どうか…――正直、迷いますね」
 
「……いえ、無理には聞くつもりないんですが…、……」
 
 なんだか…なぜかはわからないが、ゾクッとしたな、ソンジュさんのその、湯上がり姿…――セクシーだ、というのは本当にそう思ったんだが…なんだろう?
 怖いくらい、ゾクゾクっと…悪寒に近かったのだ。
 
「……まあ少なくとも、俺もモグスさんも、前からケグリのことは知っています。――俺なんかは特に、顔見知りという程度ですけど……」
 
「…………」
 
 ソンジュさんは詳しい回答をするかどうか、決めあぐねているようだ。――悩ましげに「…うーん…」ともう一度唸ったソンジュさんだが、結局は。
 
「まあどうせ、これから過ごすうちにわかってしまうことかもしれませんし……」――と、言う向きな考えに変わっていっているようだ。
 
「…何より、ユンファさんに隠し事をするのは正直、胸が痛みますのでね…――実は……」
 
 そこでソンジュさんは、やはり少し言葉に詰まった。
 ――しかしそう間を開けることもなく、す、と軽く息を吸い込んでから、思い切ったように。
 
 
 
 
 
「――実はケグリ、モグスさんの…なのです。」
 
 
 
 
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