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Frozen watchfulness

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 で――今は、(さっき脱がされかけた)紺色のバスローブをちゃんと、腰紐を結んでまで着終わった僕だが。――ソンジュさんがどうしてもやりたい、やりたいというので、…今は僕、彼にドライヤーで髪を乾かしてもらっている。
 
 広く清潔な洗面台の前、僕の髪を指で梳くようにしたり、軽く浮かせて根本のほうに風を当ててみたり…ソンジュさんのその手付きはとても優しく、また、そのドライヤーの風にしても熱いわけではなくて、不思議と心地良い温度だ。
 それになんか、僕の知っているドライヤーのけたたましい爆風の音より、静かな気もする――もちろんブオオ…と、そういった音はしているのだが――。
 
 まるで床屋さんで髪を乾かしてもらっているようだ。
 
「…熱くないですか…?」
 
「……はい…、……」
 
 気持ちいい。
 が…――ここまでソンジュさんにしてもらっておいてなんなんだが、僕はちょっとだけモヤモヤしている。
 
 
 僕が先ほどから呆然としているのは、だ。
 おいおい、聞いてないんだが…――と。
 
 
 というのも、僕が危惧していた――。
 
 
 あれ…まさか、浴室中のボタンを一つ押すだけで、プシュッと音が鳴り…浴室と脱衣場を隔てている透明なガラスの壁が一面、白くすりガラス状に濁る。――なんて、つまりそれによって、外から浴室の様子が見えなくなる――なんて、…聞いてないし、それ、なんならお風呂に入る前に教えてくれてもいいことだったのでは?
 
 そう…実は浴槽の中の泡で、ひと通り体を洗い終わったあと…じゃあシャンプーもしましょうか、体の泡も流さないといけませんしね、なんてソンジュさん…――洗い場に出たかと思うと、一旦シャワーをスルーして歩いてゆき…ああ。正直目を疑ったね、――シャワーフックのある壁、それの隅にある、サウナモードとかのスイッチがあるところのどれかを、パチリ。――するとみるみるうちに、
 
 プシューーー…――だ。

「……、……」
 
 あんなにハラハラしたんだぞ。
 しかもセックスしている最中、「あーモグスさんが入ってきたら、俺たちのえっち見えちゃいますね?」なんてからかってきて、ソンジュさん…――性格悪いな、普通に。
 ていうか、まあ、よかったけど…もしそうして、丸見えスケスケ状態がデフォルトだった場合、本当にいつかそういうになったかもしれないし――なんなら僕はその想定もしていて、お風呂をいただく際には、モグスさんに毎回、できるだけ一言言ってから入らないとな、とか思っていたのだ。
 
「……はぁ…全くもう…、…」
 
 なんだよ、それ全部杞憂かよ、しかもソンジュさんにはすっかり一杯食わされた、子供みたいな悪戯をされた格好である。――「綺麗な髪だね、ユンファさん…」そう大人の色気をたっぷりと感じられる声で呟いたこの人が、そういった大人げない悪戯をしてきたかと思うと、
 
「…………」
 
 信じられない。――いや、
 
『…男はいつまでも少年のままなのよ、そういうもんよ? パパだってキャンプのときとか、カブトムシ一匹であ~んなにはしゃいじゃって、わたし恥ずかしかったくらいよ、全く…女にはカブトムシもゴキブリもおんなじようなもん…何? ユンファだって、もう大学院生のくせに、まだまだ赤ちゃんみたいだもんね~~?』
 
 そういえば父さん、あのとき…『ねえ見てジスさん! ユンファ、ほらカブトムシ、カブトムシ捕まえた!』――捕まえたカブトムシを母さんに見せながら、父さんは少年のように目をキラキラさせてはしゃいでいたが、一方の母さんはというと、カブトムシの腹側(脚が畳まれたほう)をドン引きして見ながら『はいはい……』と、眉を顰めていたな。
(ちなみに僕も『どこにいたの?』と、ちょっとだけはしゃいでしまった…。)

 
 男は何歳になっても、いつまでも少年のようなまま、どれだけ大人の顔をしている人でも、そういった(馬鹿な)一面は持ったままだが――女には大人になるにつれて(あるいは初めから…?)カブトムシもゴキブリも同じようなもんになる、…か。
 
 
 なんとなく、深い…――。
 
 
「…………」
 
 母さんのあのセリフが、なぜだか今は、やけに信憑性を帯びている…――。
 
 
 
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