ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

文字の大きさ
上 下
285 / 606
Frozen watchfulness

15

しおりを挟む
 
 
 
 
 
 
 
 
 ソンジュさんは僕の後ろで、自嘲するような薄い笑いを含ませた声を使い、語りはじめる。
 
「……俺は昔から、可愛げのない…愛されない子供だったのです。――子供のころから、この目はから……」
 
「………、…」
 
 可愛げのない、子供。――愛されない子供。
 僕はそのワードに、どうも違和感を覚えている。
 
「…子供らしくない子供で、いつも賢しら顔をして、大人の下心さえ見抜いていて…、わんわん泣きもせず、ニッコリと笑いもしない…――ずっとむすくれていて、言うことは聞くが、機械的で、本当に……」
 
 ――「可愛くない子供…」――まるで、見捨てるようなソンジュさんの、その冷ややかで呟くような言葉に、ぐ、と、僕の胸が苦しくなる。
 
「……、…、…」
 
 それはまるで、その「可愛くない子供」という言葉がまるで、彼が発した言葉じゃないような感じがしたのだ。…他の誰かが、子供のソンジュさんに、そう冷ややかに呟いたような気がしたのだ。
 いや…きっと誰かが、幼いソンジュさんにそう言ったのだろう。――冷ややかな目で小さな彼を見下ろし、「可愛くない子供…」と、
 
「……っ、…」
 
 僕は密かに、下唇の裏を噛み締めた。
 ソンジュさんの声は、あざけり笑っているようなのだ。
 きっと…――子供の頃の自分を。
 
「…大人が求めているのは、無垢で、無邪気で、ニコニコしていて、素直に泣いて…感情表現が豊かな、可愛らしい子供でしょう? 大人に求められているのは、そういった少し馬鹿な子供なんですよ。…たまに悪戯をしたり、我儘を言ったり…素直に甘えたり、…まあ単にいえば、ちょっとだけ大人を困らせる子供のほうが、可愛いものなんです。」
 
「…………」
 
 大人が求めている――子供?
 子供らしい子供って、なんだ?
 
 そんなの、おかしいだろ。
 
「…どれほどいい子でも、どれほどの優等生でも…いつもむすくれている子供は、大人に求められていません。大人に意見する生意気な子供なんて、もっと愛されない。――よかれと思ってそうしたって、結局可愛くないんですよ、そんな子供……大人にとって子供という存在は、大人よりもつたなく、何をやっても下手で、下の存在でなければなりません。」
 
 不気味なほどに穏やかで、それどころかうっすらと笑みが含まれているようなソンジュさんの声は、まるでなんてことないよ、痛くないよ、問題ないよ、と大人のために虚勢を張って笑う、子供のように思える。
 
「……それに、いくら手がかからないとしても、だからこそ…度外視されるといいますか、よっぽど問題児のほうが、大人には構ってもらえるものなのです。――守る必要のない存在を、どうして守るでしょうか。…一人でもしっかりと立っている存在を、誰が支えてやろうと思いますか。」
 
「……、…、…」
 
 聞いているだけで、僕の息は上がってしまう。
 泣きそうなのだ。――なぜ子供が素直に笑わないのか?
 なぜ子供が、素直に泣けないのか?
 なぜ子供が我儘を言わず、大人の言うことを聞いているのか。――それは、
 
「……だから俺は…大人に愛されない、可愛げのない子供でした。今となっては、じゃ当然だろうと、割り切っているつもりですが……」
 
「……、……」
 
 大人に、両親に…――可愛がられ、褒められたいからだ。――大人に、愛されたいからだ。
 
 認められたい。
 自分の存在を、認められたいからなのだ。
 
 叶うなら、せめて両親にだけは、全肯定してほしいからなのだ。――自分の存在を、自分の存在意義を、肯定してほしいから。
 
 頭を撫でてほしいから。――微笑みかけてほしいからだ。
 いい子でいれば、きっといつか自分のことを、見てくれると信じているからだ。――たとえどんな子供であっても、どんなに大人びていて聞き分けのよい子だったとしても、純粋に、それでも…愛してもらえると、唯一無二の両親という存在に、大人に、いつか気にかけてもらえる、愛してもらえると――子供はいつも、信じているからだ。
 
 
 
「…それでも…愛されてみたかったな、と、たまに思います。…お父さんと、お母さんに…――。」
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...