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Frozen watchfulness
15
しおりを挟むソンジュさんは僕の後ろで、自嘲するような薄い笑いを含ませた声を使い、語りはじめる。
「……俺は昔から、可愛げのない…愛されない子供だったのです。――子供のころから、この目は見え過ぎていたから……」
「………、…」
可愛げのない、子供。――愛されない子供。
僕はそのワードに、どうも違和感を覚えている。
「…子供らしくない子供で、いつも賢しら顔をして、大人の下心さえ見抜いていて…、わんわん泣きもせず、ニッコリと笑いもしない…――ずっとむすくれていて、言うことは聞くが、機械的で、本当に……」
――「可愛くない子供…」――まるで、見捨てるようなソンジュさんの、その冷ややかで呟くような言葉に、ぐ、と、僕の胸が苦しくなる。
「……、…、…」
それはまるで、その「可愛くない子供」という言葉がまるで、彼が発した言葉じゃないような感じがしたのだ。…他の誰かが、子供のソンジュさんに、そう冷ややかに呟いたような気がしたのだ。
いや…きっと誰かが、幼いソンジュさんにそう言ったのだろう。――冷ややかな目で小さな彼を見下ろし、「可愛くない子供…」と、
「……っ、…」
僕は密かに、下唇の裏を噛み締めた。
ソンジュさんの声は、あざけり笑っているようなのだ。
きっと…――子供の頃の自分を。
「…大人が求めているのは、無垢で、無邪気で、ニコニコしていて、素直に泣いて…感情表現が豊かな、可愛らしい子供でしょう? 大人に求められているのは、そういった少し馬鹿な子供なんですよ。…たまに悪戯をしたり、我儘を言ったり…素直に甘えたり、…まあ単にいえば、ちょっとだけ大人を困らせる子供のほうが、可愛いものなんです。」
「…………」
大人が求めている――子供?
子供らしい子供って、なんだ?
そんなの、おかしいだろ。
「…どれほどいい子でも、どれほどの優等生でも…いつもむすくれている子供は、大人に求められていません。大人に意見する生意気な子供なんて、もっと愛されない。――よかれと思ってそうしたって、結局可愛くないんですよ、そんな子供……大人にとって子供という存在は、大人よりも拙く、何をやっても下手で、下の存在でなければなりません。」
不気味なほどに穏やかで、それどころかうっすらと笑みが含まれているようなソンジュさんの声は、まるでなんてことないよ、痛くないよ、問題ないよ、と大人のために虚勢を張って笑う、子供のように思える。
「……それに、いくら手がかからないとしても、だからこそ…度外視されるといいますか、よっぽど問題児のほうが、大人には構ってもらえるものなのです。――守る必要のない存在を、どうして守るでしょうか。…一人でもしっかりと立っている存在を、誰が支えてやろうと思いますか。」
「……、…、…」
聞いているだけで、僕の息は上がってしまう。
泣きそうなのだ。――なぜ子供が素直に笑わないのか?
なぜ子供が、素直に泣けないのか?
なぜ子供が我儘を言わず、大人の言うことを聞いているのか。――それは、
「……だから俺は…大人に愛されない、可愛げのない子供でした。今となっては、あんなんじゃ当然だろうと、割り切っているつもりですが……」
「……、……」
大人に、両親に…――可愛がられ、褒められたいからだ。――大人に、愛されたいからだ。
認められたい。
自分の存在を、認められたいからなのだ。
叶うなら、せめて両親にだけは、全肯定してほしいからなのだ。――自分の存在を、自分の存在意義を、肯定してほしいから。
頭を撫でてほしいから。――微笑みかけてほしいからだ。
いい子でいれば、きっといつか自分のことを、見てくれると信じているからだ。――たとえどんな子供であっても、どんなに大人びていて聞き分けのよい子だったとしても、純粋に、それでも…愛してもらえると、唯一無二の両親という存在に、大人に、いつか気にかけてもらえる、愛してもらえると――子供はいつも、信じているからだ。
「…それでも…愛されてみたかったな、と、たまに思います。…お父さんと、お母さんに…――。」
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