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Frozen watchfulness
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しおりを挟む「……いや、でもせめて林檎くらいは、ご自分で剥けるようになったほうがいいのでは……」
これは完全に僕の老婆心というヤツだろうが、とはいえ、はっきりいって器用な子なら、林檎の皮くらい小学生以下の子でも剥ける。
それこそ林檎くらい剥けないと、モグスさんがいないときに困るのではないか。
しかしソンジュさんは、「あぁ、それに関しては」…だいぶあっさりと。
「…まず俺はそもそも、無理して林檎の皮を剥く必要はないと考えています。――皮にこそ多く含まれている、特別な栄養があるというのは、ユンファさん、ご存知ですか?」
「……いいえ…」
そもそもそんな、林檎の栄養価なんて特に気にしたことも調べたこともないし、僕は。――母さんが剥いてくれた林檎を食べながらの僕というのは、なんの気もなく、甘くて美味しいなぁとか、今日は蜜入りだ、とか、それっくらいのことしか考えていなかった。
「…そうですか。…実は林檎の皮は食物繊維も豊富で、ポリフェノールも果肉より、多く含まれているのだそうです。…総合的に見ても林檎は、果肉より、皮のほうに多くの栄養素が含まれているとか。――ことに赤林檎においては、アントシアニンという、赤林檎の赤色の素となるポリフェノールの一種が……」
「はあなるほど……」
言い訳が凄い。
…と、呆れた僕だが、ソンジュさんはそれを察したようである。――そう慌てた様子でもないが彼、すかさずこう弁明してきたのだ。
「…いえ、これは断じて、剥けないからという妥協的言い訳ではありませんよ、ユンファさん。――もちろん無農薬の林檎ですから、その点もなんら心配ありませんし…せっかく皮にも多くの栄養価が含まれているというのに、食べない手はないかと。…」
「……なら、なぜ僕に林檎を剥かせてるんですか」
そこまで栄養素にこだわりがあるというのなら、何もわざわざ僕に林檎の皮を剥かせなくても。――断ればよかったじゃないか? そこまで言うせっかくの栄養素は、今ナイフで剥かれている過程で、この泡風呂の中へ沈んでいっているんだぞ。
するとソンジュさん…途端に何か、声をぱっと明るくし。
「……え? はは、そりゃあ…せっかくユンファさんの手が触れた林檎を食べられるというのに、そんな……」
「もう大丈夫です、それ以上は……」
なんというかソンジュさん…顔は本当にめちゃくちゃ良いのに、時折セクハラスケベジジイみたいな、そういうところをたまにふっと感じてしまう瞬間がある。
僕は剥けた林檎の皮を、浴槽の泡に落としてしまったものの…――とりあえず皮は剥けたので、今度は食べやすいようにカットしてあげようかと、サクリ。…切り取るように、くし型切り。
「…あ、気を付けてね……」
「……ふふ、慣れてるので、大丈夫ですよ。…」
するとソンジュさんは僕の肩の上で、心配してくれた。
ただ、たしかにまな板の上でもないし、というのはわかるのだが、僕はこれでも料理に慣れている。――母さんが僕に、料理を教えてくれていたからだ。
というのも…相手が女性にしろ男性にしろ、将来のパートナーが炊事のできない人であったとしても、あるいは炊事が得意な人であったとしても――どちらにしても料理を覚えておいて、役には立っても困ることはない、と。
まあ…この一年半、ほとんど毎日、ノダガワの人たちに料理を作る、というのでより慣れてしまったというのもあるが――本当は、好きになったパートナーに料理を作ってあげなさい、と学ばせられていたはずなのに、変なところで役に立ってしまったものだ。
いや、それはともかく――。
「……というか、じゃあなぜ、浴室の冷蔵庫にナイフがあるんですか…?」
そもそもなんだが、じゃあなんでソンジュさんが使えもしないナイフが、此処にあるんだよ、と。――するとソンジュさんは、はは、と軽快に笑い。
「……手首を切るためです。」
「…………」
この、今、林檎剥いてる、…ナイフで…?
で…それを今から、食べるんだろ、…めちゃくちゃ明るい声で、なんてことを…――。
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