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Frozen watchfulness
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しおりを挟むソンジュさんは、銀一色の小さなフルーツナイフを手にして戻り、またその場に腰を下ろした。――こう言いながら。
「…ユンファさんなら、もっとジロジロ見ても構わなかったのに…――俺の、デカチン。…」
「……ぁ、いえ、いえそんな…失礼ですから……」
別にそこまで見たいわけじゃないし、さすがに。
というかソンジュさん、もしかしてご自身のご自身の呼び方、デカチンがデフォルトなのか…――いや初めて会ったよ、そんな(変な)人。…男でもなかなかいないというか、むしろ大概の男は(本音はともかく)謙遜しているからこそ、相手に「おっきいね♡」と言われると嬉しいわけである。
「……はは…ではお願いします、ユンファさん」
「……、ん、ぁ…は、はい……」
また後ろから密着してきたソンジュさん、前に回った彼の手に渡されたナイフ、囓りかけの林檎――だいぶ食べ進めているようなんだが(もう半分は食べられており、芯が見えている)、いや、提案しておいてなんだけど、もう今更じゃないか?
「……、……」
まあ、いいか…――と、僕はショリショリ、歯型のついた林檎の、その真っ赤な皮にナイフの刃を当てて、するする剥いてゆく。
これは気持ち良いくらいだ…この果物ナイフ、めちゃくちゃ切れ味が良いのだ。…それに軽いので小回りもよく効く、もしやアルミか何かでできているのか。――となるとコレ、…プロ仕様か?
「…おぉ…上手だね、ユンファさん……」
「……っ、…そうですか…?」
僕にくっついたまま、僕の耳元で甘い声を出すソンジュさんには、ぴくっとしてしまったが。――普通に林檎の皮くらい、誰だって…それこそ小学生の子だって、こうして剥けるものだろう。
いや、大人なんだぞ、と示すためにこうやって林檎を剥き始めて、今更気が付いた…――こんなくらいでどうして、僕が立派な大人の男だと示せるんだよ…。
「……ふぅ……」
逆に大人げないというか、子供っぽい張り合い方だったな、よっぽどこのほうが…――。
とは、いえ…だからといっても、この林檎の皮をもう剥かない、なんてこともできるはずはなく。――というか。
「…ソンジュさんも、お料理が趣味なんですか…?」
僕は手元を見ながら、それとなくそう聞いてみた。
この、暫定プロ仕様の果物ナイフがある、ということは…――つまりそれだけ調理器具にもこだわりがある人なのでは、と思ったのだ。
が――。
「…いいえ? 俺、料理なんか全くできません。」
「………、…」
え。
さらにソンジュさんは、事もなげに続ける。
「…それこそ…林檎さえ俺は剥けません。――だから先ほどは、丸かじりせざるを得なかったのです。」
「……あ…あーなるほど、…はは…、……」
なるほど、としかコメントできない。
だがソンジュさん…――さっき、ケグリ氏たちのことはさんざん「やーい家事の一つもできないこの変態赤ちゃん三匹(※要約)」とか煽りに煽りまくっていたような。
いや、まあ料理ができない、というだけで、他のことに関してはできるのかもしれないか。――それこそ執事のモグスさんもいるわけだから、家事はやらないだけでできる人、なのかもしれない。
「……ちなみに、俺に家事や炊事の能力は全くありません。…正直俺、モグスさんがいなければ生きてゆけないかもしれませんが…まあ、全く問題ない。――俺にはその技能が必要ないからこそ、神が、俺にその能力を与えなかった…いわば、それだけのことなのです。」
「……あぁ゛、…はい……」
なんもできないのかよ、堂々と暴露してきた。
てことはさっき、かなり自分を棚上げして…いや、そんなことまで格好良くキメて言うソンジュさんは、まあ、執事のモグスさんもいるわけだし。――九条ヲク家の人だし…ついでにアルファだし…? まあたしかに、彼が生きてゆくにおいてはその炊事や家事の能力、必要ないのかもしれない。
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