ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

文字の大きさ
上 下
252 / 606
幸福に浸りながら望む貴石※

14

しおりを挟む

 
 
 
 
 
 
 
「…………」
 
 本当に、一緒に風呂に入るつもりらしい。
 僕は目のやり場に困って、顔を横へ背けてしまった。
 
 シュル…シュル…と布が肌に擦れる音――ストン、と軽い衣服が落ちた音。…ドキドキと小さくも速まる鼓動に、僕はまぶたの下で瞳を揺らす。
 僕は目線を泳がせ、は、とした。
 
「………、…」
 
 二度見したのは、ソンジュさんが今背を向けている、洗面台の大きな鏡だ。――見てはいけないもののような、あるいはあまりジロジロ見ないほうがいい気がして、僕はふっと顔ごと目線を逸らしたが。
 
「…どうぞユンファさん…見たければ、見てください。」
 
「……、…それ…」
 
 僕は腹の底から込み上げる震えに、喉が詰まってはかなり絞った声で、そうとしか言えなかった。
 
 確信はした――やっぱりソンジュさんは、カナイさんだ。
 
「…もう貴方に、を隠すつもりはありません。…このこそ、俺が一生背負うべきものなのですよ。――見てくださいませんか。…怖くとも、どうか」
 
「……、……」
 
 僕は、瞳を揺らしながらも――覚悟を決めて、ソンジュさんの背後…鏡に映った、彼のたくましい背中に目線をやった。

 ソンジュさんの、象牙色の背中一面には、黒一色のタトゥーが彫られていたのだ。
 見る者を睨み付けるような、鋭い目付きのオスの孔雀、広げられた九本の飾り羽根――飾り羽根にはいくつも目が描かれている――の中央、羽根に丸く囲われた大きく黒い文字の、“九条”。…その九条を背負っている、羽根を広げたオスの孔雀は、松の木の枝をその足でしかと掴み、松の木に留まっている。
 そして、その松の枝は伸び――ソンジュさんの上体の前面へと、繋がっている。
 
 僕は自然とその、ソンジュさんの体を這うような黒い枝を目でなぞり、辿る――。
 
「………、…」
 
 ソンジュさんの胸板は薄くもなだらかに、胸筋で膨らんでいる。――そして、その胸の下を支えているような黒い枝はゆるりとたわみ、彼の胸板の中央にまで、その鋭利なこずえを伸ばしていた。
 
 彼のみぞおちはへこんでいない。
 その腹筋は、浅いながら薄い皮膚に覆われて、六つに割れていた。…くびれはなく、全体的にしなやかな筋肉を纏っているその体は、痩せていて細いが、大きくたくましく見える。
 象牙の肌色をしている彼の上体は、ライオンのように、しなやかな肉食獣の体つきをしているが――その人の腰にも、黒い松の梢が這い寄り、その尖った先端を覗かせている。

 はた、と見ればソンジュさんは、神妙な顔をしていた。
 
「…俺は、この九条ヲク家に――を持って、生まれました。」
 
「………、…」
 
 神様だ…――ソンジュさんは、本当に神様なのだ。
 復活…救い、太陽…――神様。…あまたのが鏡越し、僕のことをじっと見ている。
 
「…貴方は…本当に、神様だったのですか…」
 
「……ふ、どうしてそう思われるのですか」
 
「…孔雀…、孔雀は、僕が信じている神様の、象徴なんです……」
 
 僕はまたわソンジュさんの背中にある、孔雀を見ていたが…――彼は僕を神妙な顔をして、見つめていた。…目線を戻せば、またその淡い水色と視線がかち合う。
 
「…そうですね…、その実、そういった意味もあるのですよ、この孔雀には…――九条の九に、雀と書いて九雀クジャクと読みます。…この九雀は、九条ヲク家の守護神であり、家紋でもあります。」
 
「…………」
 
 ソンジュさんの目は、虚の水色の瞳だ。
 まるで空気のように空っぽな目だ。…そこにありながらも色はなく、自我のない――青空のような、瞳だ。
 
「――九条ヲク家の当主は、代々こののですよ。…しかし、それを決める要素は、至ってくだらないものです。」
 
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...