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幸福に浸りながら望む貴石※
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しおりを挟む絶望したように白くなり、翳った表情――目線を伏せ、沈んだ声でソンジュさんは、淡い水色の瞳をクラクラと揺らし。
「……いや嘘だろ…、そんな…あの庶民も庶民しか買わない、しかも主に美容に詳しくない男や老人しか使わないコスパ重視のメンソモータムミルクin三本入りで税込み234円、それが一本の値段ですらないお粗末なリップクリーム、あれ、まだユンファさんは一本しか開けていないのにか…? あるいは他の二本も無くしたとかで一度や二度唇をつけてしまったかもしれないじゃないか、ユンファさんは結構そういうところうっかりしているし、…まあそれはそれで可愛いんだが…あぁ゛、俺のユンファの唇が触れたリップクリームがあの害獣共の家にあるなんて゛…、…う゛っ…ショックで吐きそうだ゛…」
「…………」
正直僕これ、ほとんどソンジュさんに悪口言われてるよな(しかも何がタチ悪いって、おそらくソンジュさんには悪口を言っているつもりが全くなさそうなところである)。――しかも冗談ではなく本気で絶望しているらしいソンジュさん、もはや僕の口から手を離し、吐きそう、と口元を押さえた。
「……アイツらに舐められたらどうしよう…」
「……、…」
いや、その発想は僕になかった。恐ろしい発想だ。…ただ、さすがのケグリ氏だって、僕の使用済みリップクリームを舐めるまではしないんじゃないか…?
「…ん、あぁそうだな、とりあえずそれはあの二人に、あ、回収したらもちろん俺のもとに……うん、そう…」
「…………」
なぜかはわからないんだが、もう僕のメンソモータムは二度と僕の手元に戻ってこないような気がする。――そしてソンジュさんは、くいと顎を上げ、まだ若干弱気な顔をしつつも、うんうんと頷きつつ。
「……あぁ、…あぁ…、いや。とりあえず、今日のところは俺のリップクリームを貸すからいいよ…――あと、せっかくだから明日、全員呼びましょう。…レディはもちろん…うん、まあ何とかなるさ…」
「……?」
全員呼ぶ…?
誰のこと、なんの話、という感じの僕は、ソンジュさんの神妙な顔をじっと見て探る。
「…いや、クリスたちは呼ばなくていいというか…むしろなぜ来れるんです。来れるわけないでしょう、ケグリたちの家にいるのに。本当に最近ボケてきたんじゃないか、モグスさん」
「……、…」
あぁなるほど、ソンジュさんのご友人のことか。
いや、ご友人というか…限りなくご友人に近そうな、取り引き先の人、というべきか。――それを全員…?
それは一体、なんのために――?
ソンジュさんは顎を軽く上げたまま、きゅっと少し眉を寄せる。
「ていうか、美容に関するメンバーだけに決まっているでしょう。…ええ、はい…、はい、まあ、集められるだけでいいから。うん…、……」
「…………」
美容…いや、まさか僕、いろいろ美容のほうまで何かしら、されるのだろうか? いや、していただくというべきか…正直、何をされるのやら、全く僕には想像できないのだが。――なぜなら僕は、ソンジュさんの言う通り、昔からコスパ重視の三本入り二百円くらいのメンソモータム(ミルク入り)くらいしか、使ったことがない。…僕は。美容に詳しくない。男だから。…である。
「うん、…まあ、じゃあそういうことで。…そろそろ本当に切るね、俺忙しいんだよ。――はは、はしゃぐなよ、俺と電話できて嬉しいからって……はい、はい、では、また後ほど。…」
そう言ってソンジュさんは切り上げ、スマートフォンを耳から離して画面を押し、電話を切った。
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