ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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Pale blue-eyed jealousy ※微 ※モブユン

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 ソンジュさんは僕の腰をするりと撫でて、また僕の腰の裏にそのあたたかい手を添える。――ふわふわとしたローブの布越しに、その人の手のぬくもりが伝わってくる。
 
「…それに…たとえば消費者金融の者が、貸し付けを行った相手が金を返せないとなった場合、その人に対して、風俗で働け、自分らに性奉仕をしろ…、自分らの性奴隷になったら借金をチャラにしてやる…とした場合、社会問題にはならないでしょうか? なりますでしょう。それは、個人間においても同様なのです。」
 
「……、……」
 
 確かに…確かに、そうじゃないか。
 思えば僕――なぜ逃げ出さなかった?
 正直、逃げるタイミングなんていくらでもあっただろう。――『DONKEY』は確かに送迎付きだったが、それでもホテルから出たタイミングなら…運転手の待つ車に行く前なら、逃げ出すことはできた。
 それに、ノダガワ家の買い物をしていたのも僕だ。…逃げ出すタイミングはあった。――一人で買い物をしていたのだから。
 
 行く宛がない…?
 いや、別に、いくらでもあった。――友人の元に行こうが、それこそ恥を忍んで実家に帰ろうが、警察、保護施設…どこに行ったって、僕はどこに逃げ込んだってよかった。
 
「………、…」
 
 それなのに、僕――どうして逃げなかったんだろう。
 
「…ユンファさんは、多額の金を借りているという負い目に漬け込まれ、また両親のことでも脅され、…マインドコントロールをされたのですよ。…しかし、ケグリに多額の借金があるからといって、ユンファさんがケグリの性奴隷として扱われる必要もなく、またケグリには、そうする権利もありません。――というより、誰にもその権利はなく、誰にもユンファさんの人権や肉体、生活の自由を奪う権利は、ないのです。」
 
「………、…」
 
 マインドコントロール。
 僕に限ってそんなこと、ありえないと思っていた。…でもやっぱり、ソンジュさんに言われたとおり…そう簡単に、完全には解けないものらしい。――僕は水さえ自由に飲めない。…マフィンに齧りつくことさえ、僕にとっての普通じゃなくなっている。
 
「…ユンファさんが誰かの性奴隷でいるべき状況など…たとえケグリに金を借りていようが、どれほどの恩を受けていようが――ありません。」
 
「…………」
 
 僕の目がじわりと潤んでくる。
 ソンジュさんは僕の横髪、ちゅ…と、慰めるような唇をくれる。――そしてするり、僕の手からミルクティーの入った水筒のフタを取り、サイドテーブルへと置く。
 
「……ご主人様だ、性奴隷だというSMなんて所詮、なのですよ。…金を貸したからといって、人を虐げてよい理由になんかなりません。――あのケグリは、金を払えばなんでもしてよいと勘違いしている、浅慮な輩と同じだ。…金を払っているんだから俺の機嫌を損ねるなよ、どうなるかわからんぞ、なんて…裸の王様気取りのヤツほど滑稽な者もありませんね。」
 
「……、…っ」
 
 なんて馬鹿だったんだろう。
 ソンジュさんは優しい声で、すらすらと続ける。
 
「…そんなの…社会に蔓延るいじめに、被害者への理由を問うようなものです。それよりも明確な、借金というていのいい理由をつけて…アイツらは貴方を脅し、貴方の尊厳を奪い、貴方の心を壊した。――いくらあの奴隷契約書に訴訟しない、被害届を出さないという内容があろうとも、ユンファさんは法に訴える権利があります。…に、貴方のその権利を奪うことなどできないのですから。」
 
「……、…っ、…っ」
 
 僕は泣かないように必死だ。
 ソンジュさんはそんな僕を、いよいよぎゅうっと抱き寄せて、自分の体にもたれさせてくれた。――そしてその人の優しさが、僕のこめかみに響く。
 
「…金というのは、何よりも人を自由にするが…――何よりも、人の自由を奪うものだ。…でも、どうかお忘れなく。たとえ金であろうとも、ユンファさんの人権や肉体、自由意思を奪うことはできません。……貴方の選択はとても立派だった。貴方の選択に、俺は敬意を表します。」
 
「……ッ、…ふ…ッ」
 
 ソンジュさんは僕の後ろ頭を優しく撫で、僕の耳元でそっと…優しい声でこう。
 
「…しかし…ユンファさんは、いつ逃げてもよかったのです。助けて、と言っても、よかったのですよ…――俺と言わずとも、そう貴方に助けを求められた誰かは必ず、貴方を助けてくれたはずだ…、金なんて所詮ツールです。だからといって、不当な扱いを甘んじて受ける必要など、ありません。」
 
「……ク…ッ、……」
 
 
 
 もっと早く、貴方に出会いたかった。
 
 
 
 
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