ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

文字の大きさ
上 下
196 / 606
Pale blue-eyed jealousy ※微 ※モブユン

8

しおりを挟む

 
 
 
 
 
 
 
「………、…、…」
 
 どうして…――どうして、どうして…、どうしてなんだ…、……飲めない。
 水が、飲めない。――水さえ飲めない。…泣きそうになるくらい、怖い。
 
「……ユンファさん…、大丈夫…」
 
「……、…っ」
 
 僕ははっと、隣のソンジュさんに振り返った。
 彼はペットボトルを握っている僕の手、震えている手に、片手を重ね――優しく微笑んでくれる。
 
「…大丈夫だよ、ユンファさん…、飲んでいいんだ。俺は絶対に怒らない…――勝手に水を飲むな、とか、飲んだあとに何飲んでいるんだ、なんて…まさか。そんな理不尽なことで、俺は怒ったりしないよ……」
 
「…………」
 
 ソンジュさんは柔らかく目を細め、優しい声で「約束するよ」と。――いちごミルクのペットボトルをテーブルに置き、…僕の片手を取った。
 そして彼は、震えている僕の手――小指に、自分の長い小指を絡めて。
 
「…さあ、約束しましょうか…? ユンファさんが何をしても、俺は貴方を責めません。…でも…もし、もし俺がこの約束を破ったら、…そうだな…ユンファさんは、俺に何をしてほしいですか…?」
 
 ふふ、とイタズラっ子のように目を細めて笑う、ソンジュさん――を、ぼうっと見ている僕は、…顔を横に振った。「何もしなくていいんです…」と。
 僕がこう言ったのは、さっきのように、ソンジュさんには何も求めることなんかない、と冷ややかな感情でそう言ったんじゃなかった。――ただ…嬉しかったのだ。
 ソンジュさんのその優しさが、本当に嬉しかった。
 
「……そうですか…? んん、じゃあ…もし俺が約束を破ったら…――ユンファさんに、一週間触れてはならない…なんて、どうです。」
 
「……はは…罰則になりますか、それじゃあまり…」
 
「何をおっしゃる…、大変な罰ですよ。俺にとってはね…、なんなら、死ぬよりも辛いことだ。」
 
 明らかにオーバーだが、…目を丸くしてそう言うソンジュさんに、はは、と気持ちが和んでまた笑えた僕は、「じゃあそれで」と頷いた。――一週間…となると、この“恋人契約”中は触れられないのだから、まあ確かにそれなりな罰か、とも思い直す――すると優しく微笑んだソンジュさんも、うんと頷いた。
 
「……じゃあお水、飲んでみましょうか。…頑張って」
 
「……はい…、…」
 
 ただ、やっぱり…持っているペットボトルに向き合うと、違和感を覚える。抵抗を感じる。…罪悪感を、覚える。――でも、僕は覚悟を決める。
 震えている僕の手に、あたたかい手を重ねて――「今日は一緒に」と、サポートをしてくれるソンジュさん…、僕はそれが本当に心強く思い、…自分の口元へと、ソンジュさんと共に、ペットボトルの口を持っていく。
 
 僕はぎゅっと目を瞑り――グッと唇に、その固い口を押し付けた。…ソンジュさんはゆっくりとペットボトルを傾けて、…すると、僕の口の中に流れ込んでくる水。
 ソンジュさんは一口分で、ペットボトルの口を離した。
 
「……、…、……」
 
 口の中に溜まった水に、躊躇う。
 飲んで、いいの、…本当に飲んでいいのか、駄目、怒られる、殴られ、…――「大丈夫だから…飲んで、飲み込んで、ユンファさん」…――ソンジュさんのその言葉にハッとし、僕はゴクリ、と。…飲み込んだ。
 
 
「……っは…、…」
 
 
 飲ん、…じゃった……――。
 
 
「……はは、あぁよかった、飲めましたね? よかった、本当によかった…頑張りましたね、ユンファさん」
 
「……っ?」
 
 隣からぐいっと抱き寄せられ、僕よりもよっぽど嬉しそうな明るい声を出したソンジュさんが、…僕の横の髪をなでなでとして褒めてくれる。
 僕は、…それが、嬉しくて――目元が熱い。
 
「……はは、よし。じゃあもう一口飲んでみましょうか? まあ、もし大丈夫そうなら…ごくごく、と。ね…?」
 
「……はい…、…」
 
 まるで魔法だ…――魔法使いだ、彼。
 僕…ソンジュさんの側にいられたら――が、解けるのかもしれない。
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

処理中です...