ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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Pale blue-eyed jealousy ※微 ※モブユン

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 僕はベッドのフチに腰掛けた。
 ソンジュさんがちょっと座って、と言ったからだ。
 
 今ソンジュさんは立ったまま腰を屈め、こちら側のベッドサイドテーブル――このドデカいベッドの両端、挟むようにして真四角のテーブルがあり、そのどちらにもランプが載っているテーブル――の下、そこを冷蔵庫のようにパカリと開け。
 
 …というか…そこが冷蔵庫になっており、そこからミネラルウォーターのペットボトルと、いちごミルクのペットボトル、そして――ラップに包まれたマフィン、クッキーを取り出してはテーブルに置き、それから、その冷蔵庫の扉をぱたんと閉めた。
 そしてソンジュさんは一度立ち上がり、僕の隣へと腰掛けては、スッとスマートに脚を組む。
 
「…喉乾いたでしょう。…どちらがよろしいですか」
 
 と、言いつつソンジュさんは、いちごミルクとミネラルウォーターのペットボトルを両手に掴み、僕に見せてくる。――このスーパーお金持ちでも、…このスーパーで百円(税抜き)のいちごミルクを、…飲むのか。
 いや、あるいは来客用か…――とは思いつつ、はっきり言って喉が乾いている僕は、甘いいちごミルクより今は、と、「お水で」――するとソンジュさんは、さっと僕にそのミネラルウォーターを差し出した。
 
「……、……」
 
 僕は受け取ろうと手を出し…――逡巡して、…思わずソンジュさんの目を見てしまった。…飲んでいいんですか、と。…今更だ、どちらがいい? と聞かれ、水で、と答えておいて、…しかし――どうしてか…、勝手に水を飲んではならないような、これで受け取ったら、「なに勝手に水を飲もうとしているんだ、お前は家畜なんだから、私たちに良しと言われるまで水も自由に飲む権利はないんだぞ」と、怒られてしまう…いや。
 
「…ん…? どうぞ。お飲みください」
 
「……ぁ…、ありがとうございます…、…」
 
 ソンジュさんは微笑んで、僕の手に冷えたペットボトルを握らせてくれた。――違う…、ソンジュさんはノダガワの人たちじゃないというのに、どうしてだろうか。
 
「………、…」
 
 どうしてだろう、…変だ。
 おかしい、おかしいと僕は、受け取ったミネラルウォーターの、ペットボトルのフタを回し開ける。――思えば僕、ミネラルウォーターを飲むのさえ、かなり久しぶりだ。――そのへんもケグリ氏たちに管理されていたために、その人らから与えられる以外でまともに水分を取っていたのは…実は僕、一人残った浴室で、風呂場の蛇口から水を飲んでいたのだ。
 また、『DONKEY』でもたまにお客様が飲んでいいよ、食べな、と何かしらの飲料や、お菓子を差し入れしてくださることはあったのだが――それはケグリ氏たちが、全て家に持って帰って来い、と。
 
 だからか…――人の前で何かを飲むことに、こんなにも抵抗があるのは。
 隣でソンジュさんも、カシャッとペットボトルのフタをひねり開けている。――あ…やっぱりいちごミルク、飲むのか。…ソンジュさんが。
 
 僕はフタを開けたミネラルウォーターを見下ろして、…もう一度ソンジュさんを見てしまった。――どうしてだろうか、…やっぱり…怖い。ミネラルウォーターをただ飲むだけのことが、どうしても怖い。…自分の意思で、…飲めない。――飲んだら怒られそうな気がする。
 見た先のソンジュさんは、普通にいちごミルクを飲んでいた。――ペットボトルの口に唇を押し当て、軽く傾けてごく、ごく、と。
 そしてチラリ、横目に僕を見遣る。
 
「……、…どうぞ、飲んで。大丈夫ですよ。――というか…これからは別に、この冷蔵庫から何でも、お好きに召し上がられて結構ですから。…」
 
 そして軽くペットボトルから唇を離し、口角を少し上げて優しくそう言ってくださったソンジュさんに。
 
「……、…」
 
 はい…と返事をしたかった。そう唇は動かしたのだが、…声が出なかった。
 ペットボトルから唇を離し、ソンジュさんはイタズラな笑みを浮かべる。
 
「……それとも…やっぱりいちごミルクがよろしかったんですか? ふふ、なんてね…」
 
「……ぁ、いえ…、…」
 
 ソンジュさんの、その少しおどけてくれた顔が、言葉が、僕をホッとさせた。――怒られそうだ、という思いが、減った。
 まだ迷いはあるが…勇気はいるが…――僕は、そのペットボトルの口を、…自分の唇へ寄せていった。
 
 
 
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